心不全入院後のセルフケア行動における自信度とその決定要因



PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36241046/ 

タイトル:Confidence in self-care after heart failure hospitalization

<概要(意訳)>

背景:

セルフケアに対する患者の視点を理解することは、学際的な教育プログラムの改善とそのようなプログラムの順守に重要である。

ただし、心不全患者のセルフケアの視点と、医師のコミュニケーションと患者の視点との関連性は不明のままである。

 

方法:

慶應義塾大学病院で、2017年9月から2020年 3月までの間に研究アンケートに回答した 心不全入院患者を連続的にリクルートする横断的観察研究を実施した。

包含基準は、心不全の悪化による非待機的入院であり、心不全の診断基準であるフラミンガム基準を満たし、心不全治療の新規または強化であった。

患者の臨床データは、電子医療記録から取得され、西東京心不全 (WET-HF) レジストリに従って定義された。

 

大学病院に入院した342例の心不全患者の内、意識不明のため質問票に回答できなかった患者(n=9、2.6%)を除外し、重度の認知障害 (n=79、23.1%)、精神障害や言語障害などのその他の要因 (n=18、5.3%)、その他の末期の生命を脅かす疾患 (n=7、2.0%)、または院内死亡 (n=15、4.4%)、当院に入院を繰り返した患者については、その後の調査は除外された(n=12、3.5%)。

その結果、202例がアンケート調査に含まれ、この内、15例がアンケートの回答を拒否した。

さらに、早期退院の為、アンケートに回答できなかった9例の患者と、セルフケア行動の質問に回答しなかった2例の患者は除外された。

その結果、176例の患者が本研究の分析対象となった。

 

「セルフケア行動に対する自信」に関するアンケート項目は、心不全セルフケア行動を評価したヨーロッパ心不全セルフケア行動尺度(The European Heart Failure Self-Care Behavior Scale,EHFScBS)の日本語で検証された翻訳の項目から導き出した。

この尺度は、大きく2つの要素(「生活行動」に関する8項目と「相談行動」に関する4項目)に分けられる12項目から構成されている。

 

患者は、4 段階のリッカート・スケール(1: 完全に自信がある、2: 自信がある、3: あまり自信がない、4: 自信がない)で各生活行動に関する項目の自信レベルを評価するように指示された。

さらに、患者は、4段階のリッカート・スケール(1: 完全に同意する、2: 同意する、3: 同意しない、4: まったく同意しない)で、各相談行動に関する項目の同意レベルを評価するように指示された。

 

心不全症状の認識に関して、患者は、心不全症状の悪化の認識と、心不全症状の悪化と他の疾患症状との区別について、4 段階のリッカート・スケール(1: 完全に自信がある、2: 自信がある、3: あまり自信がない、4: 自信がない)で評価するように指示された。

J Cardiol. 2023 Jan;81(1):42-48.

ヨーロッパ心不全セルフケア行動尺度(日本版)Ver.2

結果:

登録患者は、男性 (n=118、67.0%)が多く、年齢の中央値は73.0 (IQR: 63.0-81.0)歳、左心室駆出率の中央値は44.2% (IQR: 31.4-59.1%) であった。

さらに、心不全患者の23.3% (n=41)、18.8% (n=33)、23.9% (n=42)は、虚血性、拡張性、弁の病因をそれぞれ持っていた。

ほぼ半数[47.7% (n=84)]は、以前に心不全入院の既往があった。

全体の54.1%は典型的な左室駆出率の減少を示し、39.9%は心不全が自分たちの平均余命を制限するだろうという認識をしていた。

 

さらに、72.7%が「治療と治療の選択」について提供されたQoI(医師が提供する情報の質)を「優れている」または「良い」と評価し、54.7%が「予後」について提供されたQoIを「優れている」または「良い」と評価した。

さらに、患者の26.8%は、「予後に関する議論の頻度」に関する質問に「まったくない」または「めったにない」と回答した。

 

全体として、患者は「8項目の生活行動(適切な薬の使用、呼吸困難/息切れがある場合の十分な休息、日中の休息、毎日の体重測定、水分制限など)」の大部分において高いレベルの自信を持っていた(自信を持っている、または完全に自信を持っている、>75%)。

一方で、インフルエンザの予防接種を受けること(65.9%)、減塩食を食べること(63.1%)、定期的に運動すること(63.1%)については、患者の自信は比較的低かった(自信がある、または完全に自信がある、<75%)。

>75%の患者は、「4項目の相談行動 (呼吸困難、浮腫、体重増加、倦怠感がある場合に医師または看護師に連絡する)」に完全に同意または同意した。

J Cardiol. 2023 Jan;81(1):42-48.

多変量ロジスティック回帰分析により、「セルフケア行動における自信度の低さ」は、若年[OR=0.97(0.94–1.00)]、低学歴[OR=2.74(1.31–5.73)]、治療および治療の選択に関する医師が提供する情報の質(QoI)の低さ[OR=5.99(1.67–21.45)]が決定要因として残った。

J Cardiol. 2023 Jan;81(1):42-48.

全体の内、56.8%の患者は「心不全悪化の認識」に自身を持っており(完全に自信があるが16.5%、自信があるが40.3%)、37.5%の患者は「心不全悪化を他の疾患と区別すること」に自信を持っていた (完全に自信があるが9.7%、自信があるが27.8%)。

J Cardiol. 2023 Jan;81(1):42-48.

多変量ロジスティック回帰分析により、「心不全悪化を他の疾患と区別することにおける自信度の低さ」は、「治療および治療の選択」に関する医師が提供する情報の質(QoI)の低さ[OR=9.89(1.24–79.11)]と「予後」に関する医師が提供する情報の質(QoI)の低さ[OR=2.70(1.07–6.82)]が決定要因として残った。

J Cardiol. 2023 Jan;81(1):42-48.

心不全患者の併存疾患別における「心不全悪化を他の疾患と区別することにおける自信度の乖離(自信レベルが低い患者よりも自信レベルが高い患者が多い)」は、糖尿病(p=0.044)および脳卒中(p=0.012)を併存する患者で有意に高かった。

 

結論:

心不全で入院した患者のセルフケア(自己管理)に関する自信レベルには、かなりの格差があった。

減塩食、定期的な運動、インフルエンザの予防接種の自信度は低かった。

セルフケアの自信度の低さは、若年、低学歴、患者と医師のコミュニケーションの質の低さと関連していた。

我々の調査結果では、セルフケア行動に関する患者の知識と自信を向上させるための集中的な教育プログラムを提供する必要性が示された。

さらに、セルフケア行動に関する患者と医師のコミュニケーションを強化することを目的とした介入については、さらなる調査が必要である。

【参考情報】

ヨーロッパ心不全セルフケア行動尺度(日本版)Ver.2 

japanese-12.pdf

高齢慢性心不全患者のセルフケア評価尺度の開発

ja (jst.go.jp)

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