PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35467706/
タイトル:Accelerated and personalized therapy for heart failure with reduced ejection fraction
<概要(意訳)>
背景:
HFrEF患者に対するガイドラインの推奨治療は、試験が実施された薬剤の順序に従い、各薬剤を慎重に漸増することになっているが、この歴史的なアプローチが最適であり、代替のアプローチがHFrEF患者の転帰を改善する可能性があるかどうかは不明である。
方法:
(ⅰ)従来の順序で使用する薬剤をより迅速に漸増すること
(ⅱ)従来の順序と異なる順序で薬剤をより迅速に漸増して使用すること
による潜在的なイベント減少効果をHFrEFの6つの重要な試験[SOLVD-treatment試験(エナラプリル:ACE阻害薬)、CHARM-alternative 試験(カンデサルタン:ARB)、MERIT-HF試験(徐放性メトプロロール:β遮断薬)、EMPHASIS-HF試験(エプレレノン:MRA)、PARADIGM-HF試験(サクビトリルバルサルタン:ARNI)、DAPA-HF試験(ダパグリフロジン:SGLT2阻害薬)]を使用してモデル化した。
- Fantastic 4における各薬剤を1剤ずつ導入するパターンとして、
下記7項目をシミュレーションした。( )は、導入時期(weeks)を示す。
Sequence 1 [漸増期間24W]:
RAS阻害薬(0)→β遮断薬(6)→MRA(12)→ARNI(16)→SGLT2阻害薬(22)
Sequence 1a [漸増期間16W]:
RAS阻害薬(0)→β遮断薬(4)→MRA(8)→ARNI(10)→SGLT2阻害薬(15)
Sequence 1b [漸増期間12W]:
ARNI(0)→β遮断薬(5)→MRA(9)→SGLT2阻害薬(11)
Sequence 2 [漸増期間12W]:
SGLT2阻害薬(0)→MRA(1)→ARNI(3)→β遮断薬(8)
Sequence 3 [漸増期間12W]:
SGLT2阻害薬(0)→MRA(1)→β遮断薬(3)→ARNI(7)
Sequence 4 [漸増期間12W]:
SGLT2阻害薬(0)→β遮断薬(1)→MRA(5)→ARNI(7)
Sequence 5 [漸増期間12W]:
MRA(0)→SGLT2阻害薬(2)→β遮断薬(3)→ARNI(7)
Eur Heart J. 2022 Apr 25;ehac210.
- Fantastic 4における2剤を最初に導入し、残る薬剤を順に導入するパターンとして、
下記6項目をシミュレーションした。( )は、導入時期(weeks)を示す。
Sequence duo 1 [漸増期間11W]:
SGLT2阻害薬・MRA(0)→β遮断薬(2)→ARNI(6)
Sequence duo 2 [漸増期間11W]:
SGLT2阻害薬・MRA(0)→β遮断薬(2)→ARNI(7)
Sequence duo 3 [漸増期間11W]:
SGLT2阻害薬・β遮断薬(0)→MRA(4)→ARNI(6)
Sequence duo 4 [漸増期間8W]:
β遮断薬・ARNI(0)→SGLT2阻害薬(5)→MRA(6)
Sequence duo 5 [漸増期間10W]:
MRA・β遮断薬(0)→SGLT2阻害薬(4)→ARNI(5)
Sequence duo 6 [漸増期間10W]:
MRA・ARNI(0)→SGLT2阻害薬(5)→β遮断薬(6)
Eur Heart J. 2022 Apr 25;ehac210.
結果:
A)Fantastic 4の各薬剤を1剤ずつ導入する7パターンにおける、「心血管死または心不全による入院」のイベント抑制効果(1,000人/年)は、Sequence 1[RAS阻害薬(0)→β遮断薬(6)→MRA(12)→ARNI(16)→SGLT2阻害薬(22)]と比較して、それぞれ、
◇Sequence 1a:−22.8(1,000人/年)
RAS阻害薬(0)→β遮断薬(4)→MRA(8)→ARNI(10)→SGLT2阻害薬(15)
◇Sequence 1b:−30.5(1,000人/年)
ARNI(0)→β遮断薬(5)→MRA(9)→SGLT2阻害薬(11)
◇Sequence 2:−47.3(1,000人/年)
SGLT2阻害薬(0)→MRA(1)→ARNI(3)→β遮断薬(8)
◇Sequence 3:−46.3(1,000人/年)
SGLT2阻害薬(0)→MRA(1)→β遮断薬(3)→ARNI(7)
◇Sequence 4:−41.5(1,000人/年)
SGLT2阻害薬(0)→β遮断薬(1)→MRA(5)→ARNI(7)
◇Sequence 5:−45.2(1,000人/年)
MRA(0)→SGLT2阻害薬(2)→β遮断薬(3)→ARNI(7)
のイベント抑制効果が期待できることが示された。
ゆえに、Sequence 1と比較した、「心血管死または心不全による入院」のイベント抑制効果は、Sequence 2[SGLT2阻害薬(0)→MRA(1)→ARNI(3)→β遮断薬(8)]:−47.3(1,000人/年)が一番大きいことが示された。
Eur Heart J. 2022 Apr 25;ehac210.
A)Fantastic 4の各薬剤を1剤ずつ導入する7パターンにおける、「全死亡」のイベント抑制効果(1,000人/年)は、Sequence 1と比較して、それぞれ、
◇Sequence 1a:−7.4(1,000人/年)
RAS阻害薬(0)→β遮断薬(4)→MRA(8)→ARNI(10)→SGLT2阻害薬(15)
◇Sequence 1b:−8.8(1,000人/年)
ARNI(0)→β遮断薬(5)→MRA(9)→SGLT2阻害薬(11)
◇Sequence 2:−12.7(1,000人/年)
SGLT2阻害薬(0)→MRA(1)→ARNI(3)→β遮断薬(8)
◇Sequence 3:−13.7(1,000人/年)
SGLT2阻害薬(0)→MRA(1)→β遮断薬(3)→ARNI(7)
◇Sequence 4:−13.2(1,000人/年)
SGLT2阻害薬(0)→β遮断薬(1)→MRA(5)→ARNI(7)
◇Sequence 5:−13.4(1,000人/年)
MRA(0)→SGLT2阻害薬(2)→β遮断薬(3)→ARNI(7)
のイベント抑制効果が期待できることが示された。
ゆえに、Sequence 1と比較した、「心血管死」のイベント抑制効果は、Sequence 3[SGLT2阻害薬(0)→MRA(1)→β遮断薬(3)→ARNI(7)]:−13.7(1,000人/年)が一番大きいことが示された。
Eur Heart J. 2022 Apr 25;ehac210.
B)Fantastic 4の2剤を最初に導入し、残る薬剤を順に導入する6パターンにおける、「心血管死または心不全による入院」のイベント抑制効果(1,000人/年)は、Sequence 1b[ARNI(0)→β遮断薬(5)→MRA(9)→SGLT2阻害薬(11)]と比較して、それぞれ、
◇Sequence duo 1:−20.8(1,000人/年)
SGLT2阻害薬・MRA(0)→β遮断薬(2)→ARNI(6)
◇Sequence duo 2:−21.7(1,000人/年)
SGLT2阻害薬・MRA(0)→β遮断薬(2)→ARNI(7)
◇Sequence duo 3:−15.9(1,000人/年)
SGLT2阻害薬・β遮断薬(0)→MRA(4)→ARNI(6)
◇Sequence duo 4:−15.8(1,000人/年)
β遮断薬・ARNI(0)→SGLT2阻害薬(5)→MRA(6)
◇Sequence duo 5:−19.1(1,000人/年)
MRA・β遮断薬(0)→SGLT2阻害薬(4)→ARNI(5)
◇Sequence duo 6:−19.8(1,000人/年)
MRA・ARNI(0)→SGLT2阻害薬(5)→β遮断薬(6)
のイベント抑制効果が期待できることが示された。
ゆえに、Sequence 1bと比較した、「心血管死または心不全による入院」のイベント抑制効果は、Sequence duo 2[SGLT2阻害薬・MRA(0)→β遮断薬(2)→ARNI(7)]:−21.7(1,000人/年)が一番大きいことが示された。
Eur Heart J. 2022 Apr 25;ehac210.
B)Fantastic 4の2剤を最初に導入し、残る薬剤を順に導入する6パターンにおける、「全死亡」のイベント抑制効果(1,000人/年)は、Sequence 1b[ARNI(0)→β遮断薬(5)→MRA(9)→SGLT2阻害薬(11)]と比較して、それぞれ、
◇Sequence duo 1:−6.4(1,000人/年)
SGLT2阻害薬・MRA(0)→β遮断薬(2)→ARNI(6)
◇Sequence duo 2:−5.4(1,000人/年)
SGLT2阻害薬・MRA(0)→β遮断薬(2)→ARNI(7)
◇Sequence duo 3:−5.9(1,000人/年)
SGLT2阻害薬・β遮断薬(0)→MRA(4)→ARNI(6)
◇Sequence duo 4:−6.0(1,000人/年)
β遮断薬・ARNI(0)→SGLT2阻害薬(5)→MRA(6)
◇Sequence duo 5:−6.7(1,000人/年)
MRA・β遮断薬(0)→SGLT2阻害薬(4)→ARNI(5)
◇Sequence duo 6:−5.2(1,000人/年)
MRA・ARNI(0)→SGLT2阻害薬(5)→β遮断薬(6)
のイベント抑制効果が期待できることが示された。
ゆえに、Sequence 1bと比較した、「心血管死」のイベント抑制効果は、Sequence duo 5 [MRA・β遮断薬(0)→SGLT2阻害薬(4)→ARNI(5)]:−6.7(1,000人/年)が一番大きいことが示された。
Eur Heart J. 2022 Apr 25;ehac210.
結論:
従来のHFrEF患者に対するFantastic 4の導入順を変更し、漸増期間を短縮した治療モデルでは、少なくとも47人(年/1,000人)の「心血管死または心不全による入院」を減少させ、14人の「全死亡」を減少させることが示唆された。
現在の標準的な治療ガイダンスでは、HFrEF患者に対して最良の臨床転帰をもたらさない可能性があるが、今後は臨床試験によって確認する必要があるだろう。
Eur Heart J. 2022 Apr 25;ehac210.