PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34193751/
タイトル:Exercise-Based Cardiac Rehabilitation Improves Exercise Capacity Regardless of the Response to Cardiac Resynchronization Therapy in Patients With Heart Failure and Reduced Ejection Fraction
<概要(意訳)>
背景:
HFrEF(左室駆出率が低下した慢性心不全)患者は、CRT(心臓再同期療法)によりLVEF(左室駆出率)が改善し、ECR(運動による心臓リハビリテーション)により運動能力が向上する。
以前の観察研究では、CRTレスポンダー(左室逆リモデリング)は、CRT6ヶ月後の運動能力の改善が報告されている。
ただし、この改善は、ECRによるものではなく、CRT後の心不全症状が軽減したことが原因である可能性がある。
したがって、CRTレスポンダーがCRT後のECRにも好反応を示すかどうかは不明である。
さらに、CRT後のLVEF(左室駆出率)改善とECR後の運動能力改善が相関するかどうかも不明である。
本研究では、ECRレスポンダーはCRTレスポンダーとなるか、ECR後の運動能力の改善[PV̇O2変化率(%ΔPV̇O2:最高酸素摂取量の変化率)を測定]は、CRT後のLVEF変化率(%ΔLVEF)と相関するかどうかを評価することを目的とした。
方法:
2003年2月から2017年5月までの間に、国立循環器病研究センター病院でCRT(心臓再同期療法)後、3ヶ月のECR(運動による心臓リハビリテーション)プログラムに参加した207例のHFrEF患者を遡及的に調査した。
対象は、CRT施行されたLVEF<35%未満のHFrEF患者64例(ECRプログラムを終了し十分なCPXデータを有する)となった。
全ての患者は、現行のガイドラインに基づいた心不全治療を受けていた。
CRTの埋め込み手術後(通常は2~3週後)に、3ヶ月のECRプログラム[院内5回/週、外来1~3回/週に加えて在宅運動]が開始された。
ECRプログラムは、有酸素運動(ウォーキング、自転車エルゴメーター、体操など)と自宅での運動(90〜150分/週)で構成され、患者教育(自己管理、食事療法、塩分制限、血圧管理、体重管理、運動の推奨など)とカウンセリング(不安、うつ病、セルフカウンセリングなど)も含まれていた。
ECRレスポンダーは、%ΔPV̇O2(最高酸素摂取量の変化率)≧7.0%と定義した。
CPX(心肺運動負荷試験:ペダルが徐々に重くなる自転車こぎ運動負荷中に、吐く息をマスクで集めて酸素摂取量と二酸化炭素排出量を測定し運動能力を評価)は、ECRプログラムの開始時と終了時に実施された。
また同時に、標準的な生化学検査とBNP (pg/mL)の測定も実施された。
心エコー検査は、「CRT埋め込み手術前、ECRプログラムエントリー時(通常、CRT埋め込み1~4週後)、CRT埋め込み後約6ヶ月」の3時点で実施された。
LVEF変化率(%ΔLVEF)は、CRT埋め込み前の値からCRT埋め込み6ヶ月後の変化率とした。
CRTレスポンダーは、%ΔLVEF≧10%と定義した。
Circ J. 2021 Dec 24;86(1):49-57.
結果:
CRT埋め込み手術後に3ヶ月のECRプログラムに参加した連続64例のHFrEF患者を調査した。
64例で実施された累計1,078回のECRセッションでは、運動に関連した有害事象(死亡、生命を脅かす不整脈、不整脈発症による植え込み型除細動器のショック治療、リードの離脱、移動)は、研究期間中には観察されなかった。
3ヶ月間のECRプログラム終了時では、全ての患者で運動能力[Peak WR(最大運動強度の指標の最大負荷量)、Peak V̇O2(全身持久力の代表的な指標の最高酸素摂取量)、% Predicted PV̇O2等]がベースライン時より大幅に改善していた(全てのp<0.01)。
さらに、CRT埋め込み6ヶ月後のLVEFは、全ての患者はCRT埋め込み前より有意に増加し(p<0.01)、LVEF絶対変化(ΔLVEF)は3±7%、%ΔLVEFは17±37%であった。
注目すべきことに、3ヶ月間のECRプログラムにおいて、BNPは全体では変化しなかったが、ECRレスポンダー[%ΔPV̇O2(最高酸素摂取量の変化率)≧7.0%]では有意に減少(317~248 pg/mL; p<005)し、ECRノンレスポンダーではわずかに増加した(257〜305 pg/mL; NS]。
3ヶ月のECRプログラム後の%ΔpeakWR(+ 28.6% vs -0.69%; p<0.001)と%ΔPV̇O2(+23.2% vs -2.5%; p<0.001)は、ECRノンレスポンダーより、ECRレスポンダーで有意な改善が示された。
ただし、CRT埋め込み6ヶ月後の%ΔLVEFは、ECRノンレスポンダーとレスポンダーで有意な差はなかった(+14.4% vs +18.7%; NS)。
さらに、CRTレスポンダー(%ΔLVEF≧10%)の割合は、ECRレスポンダーとノンレスポンダーの間で有意な差はなかった(53% vs 47%)。
Circ J. 2021 Dec 24;86(1):49-57.
CRT埋め込み6ヶ月後の%ΔLVEFと%ΔpeakWR(最大負荷量の変化率)の相関(r=0.017;NS)、
CRT埋め込み6ヶ月後の%ΔLVEFと%ΔPV̇O2(最高酸素摂取量の変化率)の相関(r=0.013;NS)
には、有意な相関は示されなかった。
Circ J. 2021 Dec 24;86(1):49-57.
CRTノンレスポンダー(%ΔLVEF<10%)における、ECRレスポンダー(n=15)とノンレスポンダー(n=17)の臨床的特徴の違いは、特に、心房細動の有病率(0% vs 29%; p <0.03)、ベースラインの%pred-PV̇O2(48% vs 57%; p<0.05)があった。
結論:
CRT(心臓再同期療法)後のHFrEF患者において、3ヶ月のECR(運動による心臓リハビリテーション)に対する反応性[レスポンダー定義:%ΔPV̇O2(最高酸素摂取量の変化率)≧7.0%]とCRTに対する反応性[レスポンダー定義:%ΔLVEF(LVEF変化率)≧10%]
は一致(比例)しなかった。
また、3ヶ月のECR後の%ΔPV̇O2(最高酸素摂取量の変化率)は、CRT埋め込み6ヶ月後の%ΔLVEF(LVEF変化率)と相関しなかった。
つまり、ECRに対するPV̇O2とCRTに対するLVEFの反応性は独立した関係であることが示された。
さらに、CRTノンレスポンダー(特に洞調律やベースラインの運動能力が低い場合)でも
ECRレスポンダーになりえることが示された。
【参考情報】
心臓病やコロナに負けないために!心臓リハビリのススメ:運動編
https://sasaki.or.jp/cardiac-rehabilitation-exercise/
心臓リハビリテーションの実際
https://medicalnote.jp/contents/160324-020-ZA
CRT心臓再同期療法とは
https://www.shinfuzen.com/patient/treatment/non-drug-therapy/crt/about/
心肺運動負荷試験(CPX)とは?