高齢虚弱2型糖尿病合併HFpEF患者に対するSGLT2阻害薬の認知機能と身体機能への影響



PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35287171/ 

タイトル:Empagliflozin Improves Cognitive Impairment in Frail Older Adults With Type 2 Diabetes and Heart Failure With Preserved Ejection Fraction

<概要(意訳)>

背景:

高齢の2型糖尿病患者は、HFpEFを高率に併発し、認知機能と身体機能の低下、うつ病、有害転帰、QOLの低下を伴う、虚弱リスクが高くなる。

さらに、糖尿病はHFpEFに悪影響を及ぼし、死亡および再入院リスクを高めることが示されているが、これらの患者における臨床管理に関するデータは殆どない。

 

SGLT2阻害薬のエンパグリフロジンは、糖尿病患者に有益な効果をもたらし、心不全による再入院と死亡率を減少させることが示されている。

マウスを用いた基礎研究では糖尿病合併アルツハイマー病の血管損傷と認知機能障害を軽減することを示している。

本研究では、虚弱な高齢2型糖尿病合併HFpEF患者に対するエンパグリフロジンの認知機能と身体機能への影響を調査した。

方法:

2021年3月から10月の間に、サンタンジェロ・デイ・ロンバルディ病院(イタリア)に入院した虚弱な高齢2型糖尿病合併HFpEF患者を前向きに登録した観察研究を実施した。

 

登録基準は、65歳以上の虚弱な高齢2型糖尿病合併HFpEF患者とした。

除外基準は、脳卒中および/または急性心筋梗塞の既往、MoCAスコア(モントリオール認知機能評価)>26点、エンパグリフロジン、メトホルミン、またはインスリンによる単剤で治療されていない患者とした。

患者は、単剤の抗糖尿病薬で治療された、エンパグリフロジン、メトホルミン、インスリンの3群に分類された。

 

身体的虚弱(フレイル)の診断は、一般的に知られている5項目[体重減少、主観的疲労感、日常生活活動量の減少、身体能力(歩行速度)の減弱、筋力(握力)の低下]の内、3つ以上該当する場合とした。全ての患者に5m歩行速度テスト(5mGS)を実施した。

結果:   

201例の虚弱な高齢2型糖尿病合併HFpEF患者を評価し、最終的に162例が本研究の対象となった。

抗糖尿病治療薬の種類によって、SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン:52例)、メトホルミン(56例)、インスリン(54例)の3群に分類された。

インスリン群と比較した、SGLT2阻害薬群とメトホルミン群のベースライン特性は、5m歩行速度を除き、群間に有意な差はなかった。

 

ベースラインから1ヶ月後のフォローアップ時におけるMoCAスコア(認知機能)の変化は、それぞれ、

SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン)群:19.80±3.77 vs 22.25±3.27(p<0.001)

メトホルミン群:19.95±3.81 vs 20.71±3.56(p=0.26)

インスリン群:19.00±3.71 vs 19.1±3.56(p=0.81)

となり、有意な改善を示したのは、SGLT2阻害薬群のみであった。

多変量ロジスティック回帰分析においても、エンパグリフロジンの有意な改善効果が示された[オッズ比 3.609(95%CI 1.566-8.321)、p=0.03]。

Diabetes Care. 2022 May 1;45(5):1247-1251.

ベースラインから1ヶ月後のフォローアップ時における5m歩行速度テスト(5mGS)の変化は、SGLT2阻害薬群(p<0.001)とメトホルミン群(p<0.05)では有意な改善が示されたが、インスリン群では有意な改善が示されなかった。

 

注目すべきことに、1ヶ月後のMoCAスコアに関しては、SGLT2阻害薬群の方がメトホルミンよりも有意な改善を示した(p<0.01)が、5m歩行速度テスト(5mGS)に関しては有意な差は示されなかった。(p=0.34)

Diabetes Care. 2022 May 1;45(5):1247-1251.

虚弱な高齢2型糖尿病合併HFpEF患者における認知機能(MoCAスコア)と身体機能(5mGS)の関係を調査したところ、

ベースライン時の全体患者における認知機能と身体機能の相関(r=0.508、p<0.001)、

エンパグリフロジン治療による1ヶ月後の認知機能と身体機能の相関(r=0.711、p<0.001)、

において、有意な相関が示された。

Diabetes Care. 2022 May 1;45(5):1247-1251.

結論:

我々の知る限り、本研究は、虚弱な高齢2型糖尿病合併HFpEF患者の認知機能(MoCAスコアで評価)と身体機能(5m歩行速度テストで評価)をSGLT2阻害薬(エンパグリフロジン)が初めて有意な改善効果を示した最初の研究である。

 

【参考情報】

フレイルの診断

https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/frailty/shindan.html 

日本語版MoCA 軽度認知障害スクリーニング

https://www.st-medica.com/2013/03/moca-montreal-cognitive-assessment.html 

Sponsored Link




この記事を書いた人