PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34989083/
タイトル:Early benefit with empagliflozin in heart failure with preserved ejection fraction: insights from the EMPEROR-Preserved trial
<概要(意訳)>
慢性心不全患者は、有害転帰のリスクが高く、入院後の再入院リスクは1ヶ月で約20〜25%、6ヶ月で約50%であり、退院後の死亡率は1年で20~30%であることが報告されている。
心不全患者は、急性増悪と死亡のリスクが高いことを考慮すると、全体のアウトカムを改善するだけでなく、治療開始後早期にベネフィットを得られる治療法が重要である。
心不全患者は、健康関連の生活の質(HRQoL)が著しく低下しているため、死亡率と罹患率だけでなく、健康状態が非常に重要である。
HFrEFにおける最新治療薬は、早期に有意義な臨床ベネフィットを享受できることが示された。
サクビトリル・バルサルタン[アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI):エンレスト®錠]の院内治療介入は、エナラプリル(ACE阻害薬)よりも、8週間での心不全再入院率を低下させた。
DAPA-HF試験では、ダパグリフロジン(SGLT2阻害薬)により、「心血管死または心不全の悪化の複合リスク」の減少が、ランダム化後28日で示され、その有意な効果は持続した[HR 0.51(95%CI 0.28-0.94); p=0.03]。
同様に、EMPEROR-Reduced試験では、エンパグリフロジン(SGLT2阻害薬)により、
「全死亡、心不全入院または増悪による緊急受診の相対リスク58%」の減少が治療開始後12日で示された。
これまで、HFpEF患者を対象とした試験では、主要エンドポイントが統計的有意性に達した試験はなかったが、EMPEROR-Preserved試験(LVEF>40%)では、エンパグリフロジン(SGLT2阻害薬)治療により、心血管死または心不全による入院リスクの大幅な低下に加え、eGFR低下の抑制、心不全による総入院(初回および再発)リスクの低下が示された。
カンザスシティ心筋症質問票(KCCQ)で評価した健康状態は、すべてのドメイン(臨床要約スコア[CSS]、総症状スコア[TSS]、全要約スコア[OSS])のスコアが、エンパグリフロジン治療開始3、8、12ヶ月後で改善していることが示された。
EMPEROR-Preserved試験における全体被験者集団のリスクは、中程度であった。
主要評価項目(心血管死または心不全による入院)におけるプラセボ群のイベント発生率(100人/年)は8.7、心血管死は3.8、約30%はループ利尿薬が未使用でNYHAⅠ~Ⅱ度の割合は81.6%、平均のKCCQ CSSスコアは70.4であった。
中等度リスクのHFpEF患者であったが、エンパグリフロジン治療によるベネフィットは早期から認められ、一貫した効果が持続することが示された。
Cox回帰分析により、主要評価項目(心血管死または心不全による入院)に対する効果は、
18日目で有意な差[HR 0.41(95%CI 0.17-0.99); p=0.0476]を示し、180日まで維持することが示された。
Eur J Heart Fail. 2022 Feb;24(2):245-248.
同様に、QOLについても、早期からのベネフィットとその維持が示された。
カンザスシティ心筋症質問票(KCCQ)で評価した健康状態は、すべてのドメイン(臨床要約スコア[CSS]、総症状スコア[TSS]、全要約スコア[OSS])のスコアが、エンパグリフロジン治療開始3、8、12ヶ月後で改善していることが示された。
一方で、各スコアの悪化(5点以上の低下)は、認められなかった。
レスポンダー分析では、CSSスコア・TSSスコア・OSSスコアの5点以上・10点以上・15点以上の改善のオッズ比は、最初の評価の3ヶ月時点で大幅な改善が示された。
エンパグリフロジンで治療された被験者は、プラセボ対照よりも、心不全重症度(NYHA)の改善確率が、約20%〜50%高かった(ランダム化後の12週から148週における全ての時点で有意な差が示された)。
最初のKCCQスコアは3ヶ月時点で評価されたが、最初のNYHAクラス(重症度)は4週時点で評価され、エンパグリフロジン治療によるベネフィットは同様の傾向が見られた。
Eur J Heart Fail. 2022 Feb;24(2):245-248.
ゆえに、HFpEF患者におけるエンパグリフロジン治療は、早期からの臨床効果、健康状態、QOLの改善が期待できるため、早期からの治療介入が重要であることが示された。
しかしながら、よりリスクの高いHFpEF患者集団において、この結果が再現されるかは更なる研究が必要である。