MRA治療有無別のHFpEF患者に対するSGLT2阻害薬の効果



PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35331406/ 

タイトル:Mineralocorticoid Receptor Antagonists and Empagliflozin in Patients With Heart Failure and Preserved Ejection Fraction

<概要(意訳)>

背景:

MRA(鉱質コルチコイド受容体拮抗薬)は、HFpEF患者の心不全入院を減らすのに有益な可能性があるが、MRAで治療されているHFpEF患者におけるSGLT2阻害薬の効果は報告されていない。

本研究では、EMPEROR-Preserved試験におけるMRA治療有無のSGLT2阻害薬(エンパグリフロジン10㎎/日)の効果を調査した。

方法:

ベースラインでのMRA治療有無におけるエンパグリフロジンとプラセボの効果を生存時間分析(あるイベントが起きるまでの時間と、イベント間の関係に焦点をあてる分析方法)で比較した。

主要評価項目は、「心血管死または心不全による入院の複合(初発イベントまでの時間)」であった。

1つ目の副次評価項目は、「心不全の総入院(初発および再発)イベントの発生」であった。

2つ目の副次的評価項目は、二重盲検治療中のeGFR変化(傾き)であった。

追加の分析には、主要評価項目の個々の項目、全ての原因による死亡率(全死亡)、カンザスシティ心筋症アンケート(KCCQ)を使用して評価した健康関連の生活の質(HR-QoL)、MRA治療の開始と中止が含まれていた。

結果:

合計5,988例の被験者がEMPEROR-Preserved試験に含まれ、その内2,244例(37.5%)がMRAで治療されていた。

ベースラインでMRA未治療の被験者と比較して、MRA治療の被験者は、

若く(70.9歳 vs 72.5歳)、収縮期血圧が低く(129mmHg vs 134mmHg)、

LVEFが低く(53% vs 55%)、LVEF 50%未満の割合が高く(41.2% vs 28.3%)、

血清カリウム値(4.6mmol/L vs 4.5mmol/L)が高く、糖尿病罹患率も高かった(51.2%vs 47.8%)。

 

また、過去12ヶ月未満のHF入院(29.5% vs 18.9%)、NYHA III-IV度(21.2% vs 16.7%)、

ループ利尿薬による治療(77.9% vs 61.6%)、ARNIによる治療(3.8% vs 1.3%)、

β遮断薬による治療(87.8% vs 85.4%)の割合は高く、

サイアザイド系利尿薬による治療(13.2% vs 25.2%)、Ca拮抗薬による治療(23.6% vs 34.6%)の割合は低かった。

 

プラセボ治療(プラセボ群)を受けたMRA未治療の被験者におけるイベント発生率(100人/年)は、MRAで治療された被験者よりも低かった[主要評価項目(心血管死または心不全による入院):8.2 vs 9.4、初発の心不全入院:5.6 vs 6.6、心血管死:3.7 vs 4.0、全死亡:6.4 vs 7.1]。

 

主要評価項目(心血管死または心不全による入院)に対する、SGLT2阻害薬の効果は、それぞれ、

MRA未治療のハザード比:HR 0.73(95%CI 0.62-0.87)

MRA治療のハザード比:HR 0.87(95%CI 0.71-1.06)

となり、交互作用は認められず(p=0.22)、一貫していることが示された。

 

拡張評価項目(主要評価項目に外来患者の心不全悪化イベントと利尿薬の静注使用を追加)に対する、SGLT2阻害薬の効果は、それぞれ、

MRA未治療のハザード比:HR 0.73(95%CI 0.64-0.82)

MRA治療のハザード比:HR 0.85(95%CI 0.73-0.99)

となり、交互作用は認められず(p=0.12)、一貫していることが示された。

 

心不全の総入院(初発および再発)に対する、SGLT2阻害薬の効果は、それぞれ、

MRA未治療のハザード比:HR 0.60(95%CI 0.47-0.77)

MRA治療のハザード比:HR 0.90(95%CI 0.68-1.19)

となり、ベースラインでMRA未治療患者のSGLT2阻害薬の方が有意に大きいことが示された(交互p=0.038)

 

初発の心不全入院に対する、SGLT2阻害薬の効果は、それぞれ、

MRA未治療のハザード比:HR 0.60(95%CI 0.49-0.75)

MRA治療のハザード比:HR 0.86(95%CI 0.68-1.09)

となり、ベースラインでMRA未治療患者のSGLT2阻害薬の方が有意に大きいことが示された(交互p=0.032)

 

心血管死に対する、SGLT2阻害薬の効果は、それぞれ、

MRA未治療のハザード比:HR 0.94(95%CI 0.74-1.18)

MRA治療のハザード比:HR 0.86(95%CI 0.64-1.16)

となり、交互作用は認められず(p=0.66)、一貫していることが示された。

 

52週時点でのKCCQスコアの改善(5ポイント>の上昇)とKCCQスコアの悪化(5ポイント>の下降)に対する、SGLT2阻害薬の影響は、MRA治療の有無で変わらなかった(交互p=0.37と交互p=0.97)。

 

これらの結果は、「心不全の入院既往歴、NHYAによる心不全重症度、尿アルブミン/クレアチニン比、ループ利尿薬の使用、ヘモグロビン値、ナトリウム値、NT-proBNP値」で調整しても、大きな変化はなかった。

J Am Coll Cardiol. 2022 Mar 29;79(12):1129-1137.

LVEF値別のサブグループによる補足分析[主要評価項目、心不全の総入院、初発の心不全入院]では、ベースラインのMRA治療の有無における、SGLT2阻害薬の効果の違い(交互作用)は、LVEF 41-49%では認められず、LVEF≧50%で認められた。

 

具体的には、心不全の総入院(初発および再発)に対する、SGLT2阻害薬の効果で

MRA未治療のハザード比:HR 0.64(95%CI 0.48-0.85)

MRA治療のハザード比:HR 1.19(95%CI 0.83-1.71)

となり、ベースラインでMRA未治療患者のSGLT2阻害薬の方が有意に大きいことが示された(交互p=0.009)

 

体液貯留の有無別のサブグループによる補足分析[主要評価項目、心不全の総入院、初発の心不全入院]では、ベースラインのMRA治療の有無における、SGLT2阻害薬の効果の違い(交互作用)は、体液貯留無では認められず、体液貯留有で認められた。

 

具体的には、心不全の総入院(初発および再発)に対する、SGLT2阻害薬の効果で

MRA未治療のハザード比:HR 0.60(95%CI 0.43-0.86)

MRA治療のハザード比:HR 1.04(95%CI 0.69-1.56)

となり、ベースラインでMRA未治療患者のSGLT2阻害薬の方が有意に大きいことが示された(交互p=0.046)

 

無作為化のMRA治療の新規開始と中止に対するSGLT2阻害薬の影響は、それぞれ、

MRA新規治療開始のハザード比:HR 0.88(95%CI 0.74-1.04); 交互p=0.14

MRA治療中止のハザード比:HR 0.87(95%CI 0.73-1.04); 交互p=0.12

となり、プラセボ治療と変わらないことが示された。

 

MRAで治療された被験者は、その未治療被験者と比較して、約2倍の高カリウム血症を発症したが、SGLT2阻害薬は、高カリウム血症のレベル(> 5.5 mmol/L、> 6.0 mmol/L)に関係なく、「高カリウム血症と高カリウム血症の治療」を減少する傾向が示された。

J Am Coll Cardiol. 2022 Mar 29;79(12):1129-1137.

結論:

ベースラインにおけるMRA(鉱質コルチコイド受容体拮抗薬)治療の有無に関わらず、主要評価項目(心血管死または心不全による入院)に対する効果は、SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン10㎎/日)で一貫していることが示された。

心不全の総入院(初発および再発)に対する効果は、ベースラインでMRA未治療の場合、SGLT2阻害薬の効果が顕著に大きいことが示された(交互作用あり)。

SGLT2阻害薬は、全体の結果と一貫して、MRA治療の有無に関わらず、高カリウム血症のリスクを軽減することが示された。

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