URL: https://www.jacc.org/doi/10.1016/j.jacasi.2022.09.015
タイトル:Beneficial Effects of Dipeptidyl Peptidase-4 Inhibitors on Heart Failure With Preserved Ejection Fraction and Diabetes
<概要(意訳)>
背景:
DPP-4阻害薬は、心不全に多面的な効果を発揮することが動物実験で示されている。
方法:
本研究では、糖尿病合併心不全患者に対するDPP-4阻害薬の影響を調査した。
循環器疾患診療実態調査(JROADレジストリ)は、心不全の悪化で入院した患者の多施設レジストリである。
ベースラインのデータは、2013年に入院したデータが収集され、追跡データは、初発入院から5年後まで収集された。
主要評価項目は、「心血管死または心不全による入院の複合」であり、副次評価項目は、「心血管死」、「心不全による入院」であった。
結果:
本研究の患者13,238例の内、11,120例の患者が生存して退院した。
その内、非糖尿病患者7,185例、心臓弁膜症患者413例、先天性心疾患患者16例、収縮性心膜炎患者12例、DPP-4阻害薬に関する情報が欠落している119例、左室駆出率に関する情報が欠落している376例が除外され、残りの2,999例が分析対象となった。
この適格患者2,999例の内、HFpEFが1,130例、HFmrEFが572例、HFrEFが1,297例であった。
DPP-4阻害薬の内訳は、シタグリプチン (41.8%)、ビルダグリプチン (27.1%)、アログリプチン (16.2%)、リナグリプチン (13.4%) であった。
心不全患者には推奨されないサクサグリプチンは、1例の患者にのみ処方されていた。
ベースラインにおける心不全サブタイプの特性では、HFpEF患者(LVEF≥50%)で平均年齢、心房細動の併発率は高かった。
一方で、男性の割合、虚血性心疾患の併発率、BNPの値は低かった。
「心血管死または心不全による入院」に対するハザード比(HR)と相対リスク減少率(RRR)は、それぞれ、
全体:HR 0.86(0.75-0.98); p=0.026 , RRR=14%
HFpEF:HR 0.69(0.55-0.87); p=0.002 , RRR=31%
HFmrEF:HR 0.86(0.62-1.20); p=0.37 , RRR=14%
HFrEF:HR 0.95(0.78-1.15); p=0.60 , RRR=5%
となり、2型糖尿病合併心不全患者、特に、2型糖尿病合併HFpEF患者に対するDPP-4阻害薬による治療は、「心血管死または心不全による入院」のリスクを有意に減少することが示された。
3次スプライン分析では、DPP-4阻害薬による治療が左室駆出率(LVEF)が高い心不全患患者(LVEF >45%)の「心血管死または心不全による入院(主要評価項目)」のリスク減少と関連していることが示された。
また、以前の研究では、DPP-4阻害薬のBMIに対する影響が示されているので、その影響を検討したところ、統計学的に有意ではないが、BMIが低い患者で主要評価項目のリスクが低い傾向があることが示された。
JACC: Asia. Jan 03, 2023. Epublished DOI: 10.1016/j.jacasi.2022.09.015
次に、HFpEF患者におけるDPP-4阻害薬による治療の有無群で、傾向スコア・マッチングを実施した。
追跡期間の中央値 3.6年の間で、DPP-4阻害薬による治療群は、「心血管死または心不全による入院」のイベント発生率は低かった[100例/年あたり19.2 vs 25.9 , HR 0.74(0.57-0.97); p=0.027]。
副次評価項目の「心不全による入院」のイベント発生率は低かった[100例/年あたり16.4 vs 23.3 , HR 0.70(0.53-0.93); p=0.014]が、「心血管死」のイベント発生率では差がなかった[100例/年あたり5.4 vs 4.9 , HR 1.08(0.70-1.68); p=0.72]。
主要評価項目と副次評価項目における累積発生率では、それぞれ、
心血管死または心不全による入院:HR 0.77(0.59-1.00), p=0.047
心不全による入院:HR 0.73(0.55-0.97), p=0.028
心血管死:HR 1.06(0.69-1.64), p=0.79
となり、同様の結果が示された。
JACC: Asia. Jan 03, 2023. Epublished DOI: 10.1016/j.jacasi.2022.09.015
結論:
糖尿病合併HFpEF患者に対するDPP-4阻害薬の治療は、長期転帰の改善と関連していることが示された。
【参考情報】
JROADについて