粕屋地区CKD連携システムによる慢性腎臓病の進行抑制効果



PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36205816/   

タイトル:The effect of the Kasuya CKD network on prevention of the progression of chronic kidney disease: successful collaboration of a public health service, primary care physicians and nephrologists-community based cohort study

<概要(意訳)>

背景:

慢性腎臓病 (CKD) は、末期腎不全 (ESKD)、心血管疾患 (CVD)、全死亡の確立された危険因子である。

日本透析医学会の年次報告では、日本の慢性透析患者は年々増加し続けている為、CKDの進行を抑制することは、公衆衛生上における早急の優先課題である。

2008年4月には、40歳から74歳を対象とした特定検診・保健指導により全国的なスクリーニングプログラムが開始され、CKDおよびCVDの高リスク対象者の早期発見が促進された。

CKDは後期ステージになるまで無症状である為、健康診断はCKDの早期発見と進行抑制の治療を開始する重要な役割を果たす。

2012年には、福岡県粕屋地区の保健所、かかりつけ医、腎臓内科医、泌尿器科医と協力して、独自のCKD連携システムを開発した。

本研究では、粕屋地区CKD連携システムがCKD進行抑制に有効であるかどうかを明らかにすることを目的とした。

 

方法:

健康診断では、身長、体重、BMI、腹囲、血圧、TG、HDL-C、LDL-C、空腹時血糖、尿酸、クレアチニン、HbA1c、尿タンパク、尿潜血、尿糖が測定された。

アンケートでは、投薬、病歴、喫煙、歩行、運動、食生活、飲酒、睡眠などの生活習慣を評価した。

粕屋地区CKD連携システムには、久山町を除く6町と1市が含まれていた。

久山町は、1961年から九州大学と共同で独自の医療体制を図っているため除外した。

 

粕屋地区CKD連携システムの主なポイントを下記に示す。

「eGFR<30 ml/分/1.73m2の場合、または尿タンパクと尿潜血の両方が3+の場合」は、保健指導機関から直ちに腎臓専門医へ受診を勧める(緊急受診)通知が健診者に送付される。

 

30≦eGFR<60 ml/min/1.73m2の場合、または尿蛋白が1+以上、または尿潜血が2+以上の場合」は、保健指導機関からかかりつけ医(一次医療機関)へ受診を勧める通知が健診者に送付される。

 

かかりつけ医では、血液と尿を再検査する必要がある。

「尿蛋白が2 +以上、または尿蛋白/クレアチニン比が0.5以上(高度蛋白尿)、または尿蛋白と尿潜血の両方が1+以上、またはeGFR<50ml/min/1.73m2の場合(40歳未満または 70歳以上)」は、かかりつけ医から腎臓専門医(二次医療機関)への受診が勧められる。

 

また、「尿潜血が初めて 2+以上の場合」は、泌尿器科医への受診が勧められる。

「それ以外の場合」は、かかりつけ医は、CKDの危険因子および/または生活習慣を管理する。

Clin Exp Nephrol. 2023 Jan;27(1):32-43.

主要評価項目は、「eGFRの勾配の変化(eGFR低下速度)」とした。

2012年以前(2008年~2012年)と2012年以降(2013年~2017年)のeGFRの勾配を比較した。

副次評価項目は、「健康診断で測定されたパラメータの変化とアンケートの回答」とした。

2012年以前の最初の健康診断受診時、2012年の受診時、2012年以降の最後の受診時の各パラメータを比較した。

アンケートの回答変化を評価する為に、回答をポイントに換算した。

 

結果:

40歳から74歳までの41,302例の内、11,945例(29%)が健康診断を受診した。

1,700例(14%)は、CKDと診断され、その内、1,681例はかかりつけ医への受診勧告を受けた。

1,681例の内、742例(44%)は何らかの薬剤を服用していた

19例は直ぐに腎臓専門医への受診勧告を受け、その内、16例(84%)は何らかの薬剤を服用していた。

 

2012年にCKDと診断され、かかりつけ医への受診勧告をうけた1,681例の内、健診データが入手可能な1,591例が本研究に含まれた。

平均年齢は65歳、男性は781名、女性は810名であった。

平均収縮期および拡張期血圧は、それぞれ、126および75 mmHgであった。

平均LDL-Cは126mg/dl、平均尿酸値は5.8mg/dl、平均eGFRは59.0 ml/分/1.73m2であった。

CKDステージの割合は、それぞれ、G1(正常または高値:eGFR≧90)で3.2%、G2(正常または軽度低下:60≦eGFR<90)で26.1%、G3a(軽度~中等度低下:45≦eGFR<60)で62.0%、G3b(中等度~高度低下:30≦eGFR<45)で8.0%、G4(高度低下:15≦eGFR<30)で0.6%、G5(末期腎不全:eGFR<15)で0.1%であった。

 

尿蛋白は74.4%で陰性、尿潜血は66.2%で陰性、尿糖は97.9%で陰性であった。

すべての測定パラメータには、性差は示された。

降圧薬、血糖降下薬、高脂血症治療薬の服用割合は、それぞれ、35%、8%、22%であった。

以前にCKDと診断された割合は、わずか1%であった。

 

現喫煙者の割合は15%であり、運動する習慣があるのは約50%であった。

夕食が遅い、夕食後にスナックを食べる、朝食をとらないなど食習慣の乱れがあるのは、それぞれ、14例、10例、10例であった。

53%は飲酒習慣がなく、73%はよく眠れていた。

生活習慣の改善希望者は72例で、49%は保健指導サービスの利用を希望していた。

 

全体における2012年以前(2008年~2012年)の平均eGFR勾配は- 1.833 ml/min/1.73m/年であったが、2012年以降(2013年~2017年)の平均eGFR勾配は- 0.297 ml/min/1.73m/年と大幅な減少が示された[平均eGFR勾配差 -1.536 ;p=0.000)]。

 

CKDステージG2、G3a、G3bにおける2012年以前(2008年~2012年)の平均eGFR勾配は- 1.569、-2.016、-2.877 ml/min/1.73m/年、2012年以降(2013年~2017年)の平均eGFR勾配は-0.272、-0.122、-0.957 ml/min/1.73m/年となり、各CKDステージの平均eGFR勾配差は、それぞれ、大幅な減少[-1.297 ; p=0.001、-1.894 ; p=0.000、-1.920 ; p=0.000]が示された。

 

CKDステージG4または5における2012年以前(2008年~2012年)の平均eGFR勾配は-2.773 ml/min/1.73m/年、2012年以降(2013年~2017年)の平均eGFR勾配は-1.700 ml/min/1.73m/年となり、平均eGFR勾配差に有意な差はなかった[-1.073 ; p=0.705]。

ただし、症例は4例のみであった。

 

CKDステージG1における2012年以前(2008年~2012年)の平均eGFR勾配は2.368 ml/min/1.73m/年、2012年以降(2013年~2017年)の平均eGFR勾配は-2.226 ml/min/1.73m/年となり、平均eGFR勾配差は、有意な悪化が示された[4.594 ; p=0.019]。

 

2012年にかかりつけ医を受診したかどうかで2012年前後の平均eGFR勾配を比較したところ、受診有りの2012年以降の平均eGFR勾配は-0.247 ml/min/1.73m/年、受診無しの2012年以降の平均eGFR勾配は-0.370 ml/min/1.73m/年となり、かかりつけ医の受診の有無に関わらず、平均eGFR勾配は大幅に緩やかになったことが示された。

 

2012年にかかりつけ医を受診した後、保健指導を受けたか否かによって、2012年前後の平均eGFR勾配を比較したところ、保健指導の有無に関わらず、平均eGFR勾配は2012 年以前に比べて有意に緩やかであったが、保健指導を利用した健診者では2012 年以降の 平均eGFR勾配はゼロに近かった(平均eGFR勾配は0.073 ml/min/1.73m/年)。

Clin Exp Nephrol. 2023 Jan;27(1):32-43.

2012年以前(2008年~2012年)の最初の健康診断、2012年の健康診断、2012年以降(2013年~2017年)の最後の健康診断を受診した際に測定されたパラメータの変化を比較した。

収縮期血圧は、2012年以前の健診時と比較して、2012年に大幅に低下したが、2012年以降の最後の健診時には大幅に上昇した。

拡張期血圧とTG(トリグリセリド)は、2012年以前の健診時と比較して、2012年に大幅に低下し、2012年以降の最後の健康時まで維持していた。

 

HDL-Cは、2012年以前の健診時と比較して、2012年以降の最後の健診時には大幅に上昇した。

LDL-Cは、2012年以前の健診時から2012年以降の最後の健診時まで、有意かつ連続的に低下した。

HbA1cは、2012年以前の健診時および2012年と比較して、2012年以降の最後の健診時に有意に上昇した。

 

尿酸は、2012年以前の健診時と比較して、2012年の健診時に大幅に上昇し、2012年以降の最後の健診時に減少した。

尿蛋白と尿潜血は、2012年以前の健診時と比較して、2012年の健診時に大幅に上昇したが、

2012年以降の最後の健診時には大幅に低下した。

尿糖は、2012年以前の健診時と比較して、最後の健診時に大幅に増加した。

BMI、ウエスト周囲径、空腹時血糖値は、有意な変化はなかった。

Clin Exp Nephrol. 2023 Jan;27(1):32-43.

結論:

本研究では、CKDネットワーク確立後に、eGFR低下の勾配が大幅に抑制できたことから、特定検診・保健指導とかかりつけ医、および腎臓専門医で協力体制を築いた粕谷地区CKD連携システムは、CKDの進行抑制に有効であることが示唆された。

Sponsored Link




この記事を書いた人