日本の慢性腎臓病患者におけるSGLT2阻害薬の効果



PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38643286/        

タイトル:Effects of empagliflozin in patients with chronic kidney disease from Japan: exploratory analyses from EMPA-KIDNEY

<概要(意訳)>

背景:

慢性腎臓病(CKD)患者の様々な集団において、4つの大規模臨床なプラセボ対照試験でSGLT2阻害薬の効果が検討された。

メタ解析により、糖尿病の有無にかかわらず、調査されたCKD患者集団においてSGLT2阻害薬の明らかなベネフィットが示された。

それにも関わらず、いくつかのリスクのある集団は未だ十分に研究されていない。

日本は人口100万人当たりの腎不全罹患率が国際的に最も高い国の一つであり、歴史的に臨床試験への参加が少ない。

 

EMPA-KIDNEY試験では、CKD患者を対象にエンパグリフロジン10mg 1日1回投与の効果が評価され、CKDを対象としたSGLT2阻害薬の4つの大規模臨床試験の中で進行リスクのある幅広い患者が最も組み入れられた。

EMPA-KIDNEY試験の合理的なデザインにより、わずか8ヵ国から6,609例の参加者をリクルートすることができ、日本では25施設から612例が参加した。

本報告では、日本と日本以外の地域からの参加者におけるエンパグリフロジンの効果に関する事後比較を検討することを目的とした(他の地域による効果の比較解析も含む)。

 

方法:

EMPA-KIDNEY試験の理論的根拠、デザイン、プロトコール、事前に規定されたデータ解析計画、および主要な結果の詳細は以前に報告されている。

試験デザインは合理化されており、協力医師や病院の余分な作業は最小限に抑えられ、必要な情報のみが収集された。

参加者のインタビューによって記録された情報を専用のコンピュータシステムに直接入力し、クレアチニンを中央検査機関で測定することがデータ収集の主な手段であった。

 

この試験は241施設で実施され、各施設の規制当局および倫理委員会が試験を承認した。

対象となった成人は、CKD-EPI式(人種調整)によるeGFR(推算糸球体濾過量)が20以上45ml/分/1.73m未満(アルブミン尿ののレベルに関わらず)、またはeGFRが45以上90ml/分/1.73m未満でスクリーニング時のuACR(尿中アルブミン/クレアチニン比)が200mg/g以上が条件であった。

また、単剤のレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬の投与に適応と忍容性がある場合には、臨床的に適切な用量を処方することが求められた。

多発性嚢胞腎は唯一除外された主な腎疾患であった。

日本では、規制当局の要請により追加の手続きが必要となった。

これには、無作為化後最初の4週間以内に予定された臨時訪問を行うこと、試験期間中に参加者から報告されたすべての非重篤な有害事象を報告することが含まれた。

 

事前に規定された主要アウトカムは、「腎疾患の進行または心血管死の複合アウトカムの初発まで期間」であった。

「腎疾患の進行」には、「末期腎不全(維持透析の開始または腎移植の実施)、eGFR10 mL/min/1.73m未満の持続的低下、判定された腎疾患による死亡、無作為化割付後のeGFR40%以上の持続的低下」が含まれた。

eGFRの算出には中央検査室での血清クレアチニン測定値が用いられ、中央検査室での結果が欠測の場合は地方検査室でのクレアチニン測定値が用いられた。

 

「腎疾患の進行」は「その他の副次評価項目」であり、「eGFRの年間変化率(慢性勾配と総勾配)」は「その他の評価項目」であり、これらのアウトカムの探索的解析も事前に指定されていた。

我々は、(eGFRの可逆的な急性の落ち込みを考慮するため)総勾配よりも慢性勾配(イニシャルディップの期間を除外)を重視し、絶対差よりも相対差を重視した。

プラセボ群におけるベースラインのeGFR低下率の絶対値は、通常、サブグループ間で大きく異なるため、絶対値では通常不可能であるが、相対値では、サブグループ間のエンパグリフロジンの効果の違いを直接検証することができる。

 

地域は、「日本、ヨーロッパ、北アメリカ、中国/マレーシア」の4グループに分けた。

全地域の結果は補足資料に提供されている。

本報告の焦点は、日本と日本以外の地域を組み合わせた事後サブグループ比較である。

 

すべての解析はintention-to-treatの原則に従って行われた。

最小化アルゴリズムで指定されたベースライン変数(年齢、性別、糖尿病の既往、eGFR、uACR、地域)で調整された事前指定のCox比例ハザード回帰モデルを用いて、生存時間分析(主要アウトカム、腎疾患進行アウトカム、心血管アウトカム、安全性アウトカム)におけるエンパグリフロジンとプラセボのハザード比を推定した。

 

eGFRの年間変化率に対するエンパグリフロジンの効果は、事前に指定した共有パラメータモデルを用いて評価した。

サブグループで観察されたエンパグリフロジンの比例効果(または差)の異質性の検定は、モデルに関連する交互作用項を含めることにより行った。

 

連続アウトカム(例:アルブミン尿)に対するエンパグリフロジンの効果は、事前に指定した混合モデル反復測定法を用いた。

完全な統計学的詳細は、以前に発表されたデータ解析計画書および主要報告に記載されている。

感度分析は、日本からの参加者でベースラインのeGFRとアルブミン尿が高いことを考慮した主要アウトカムの探索的モデリングが、事前に指定した共変量に加え、糖尿病の状態、eGFR/uACRのカテゴリー間での交互作用を含めて実施された。

 

本追加資料には、治験施設管理機関のスタッフからデータ完全性に関する懸念が提起されたことを受け、日本の2施設(無作為化参加者28名)のデータを除外して事後的に実施した感度分析が追加されている。

EMPA-KIDNEY試験における試験データの改ざんは、現場および中央の統計モニタリングで確認されなかったが、これらの施設のデータは販売承認申請から削除された。

 

結果:

2019年5月から2021年4月までに、6,609例の参加者が無作為化された。

地域別のベースライン特性は、補足表1に記載されている。

ヨーロッパ、北アメリカ、中国/マレーシアの合計5,997例の参加者と比較して、日本の612例の参加者は、糖尿病の既往がない割合が同程度(53%対54%)であったが、他のいくつかのベースライン特性では違いがあった(表1)。

 

日本の参加者は、平均年齢がやや高く(平均年齢65.3±12歳 vs 63.7±14歳)、女性の割合が低く(26% vs 34%)、心血管疾患の既往が少なく(15% vs 28%)、糸球体疾患の割合が高く(32% vs 25%)、eGFRの平均値が高く(45.2±18.2 vs 36.5±13.8 mL/min/1.73m)、uACRの中央値[IQR]が高かった(683[293-1514] vs 290[40-1030]mg/g)。

 

全体(全地域)において、治験薬に対する忍容性は概して良好であった。

試験のほぼ中間点である12ヵ月時点において、自己申告による治験薬のアドヒアランスは各治療群で同等(エンパグリフロジン89.6% vs. プラセボ90.3%)であり、中止の理由は別で報告されている。

中央値2.0年の追跡期間中、エンパグリフロジン投与群では主要複合アウトカムである「腎疾患の進行または心血管死」のリスクが28%減少した[HR 0.72(95%CI 0.64-0.82); p<0.0001]。

糖尿病の状態(異質性p=0.06)、eGFR(傾向p=0.78)による主要なサブグループ解析では、相対的な効果は同様であったが、uACRレベルが高い患者では相対的な効果が大きい可能性が示唆された(傾向p=0.02)。

 

また、事前に指定した4つの地域カテゴリー全体(ヨーロッパ、北アメリカ、中国/マレーシア)でも、ほぼ同様の効果が認められた(異質性p= 0.06;補足図1)。

事前に指定した地域別のeGFR年間変化率(総勾配)に対するエンパグリフロジンの効果は、地域間で一貫していることが示唆された(異質性p=0.21)が、北アメリカにおけるeGFR年間変化率(慢性勾配)の相対的減少はより大きいことが示唆された(異質性p=0.01;補足図2)。

Clin Exp Nephrol. 2024 Apr 20.

日本においても、治験薬に対する忍容性は良好であった。

12ヵ月時点において、自己申告による治験薬のアドヒアランスは、エンパグリフロジンが91.4%であったのに対し、プラセボは95.4%であった。

追跡期間の中央値は、日本で2.19年、日本以外の地域で1.95年であった。

日本以外の地域における主要アウトカムは、399例 vs 494例[HR 0.75 95%CI(0.66-0.86)]であったが、日本では33例 vs 64例[HR 0.49(95%CI 0.32-0.75)]であった(異質性p= 0.06、図1)。

 

主要アウトカムに対する相対効果の推定値は、ベースラインの糖尿病の状態、eGFR、アルブミン尿の日本以外の地域の参加者と日本の地域の参加者の差を考慮した感度分析(感度分析異質性p=0.08)、および製造販売承認申請から除外された2施設28例の参加者のデータを除外した感度分析でも、日本以外の地域の参加者と日本の地域の参加者で同程度であった(補足表3)。

Clin Exp Nephrol. 2024 Apr 20.

全体として、プラセボ群の患者のeGFRの年間低下率は概ね一定であった(全体でも日本でも)。

エンパグリフロジン群では、試験開始時に予想されたeGFRの急性低下(イニシャルディップ)が認められ(日本以外 -2.1mL/分/1.73m2、日本 -2.4mL/分/1.73m2、異質性p=0.50)、その後、年間eGFR低下率は慢性的に緩やかになった。

 

慢性eGFR勾配の相対差は、日本以外の地域では-49%(95%CI -58~-40%)であったのに対し、日本では-55%(95%CI -73~-37%、異質性p=0.58、補足図3および4)であった。

経時的に平均した幾何平均uACRの差は、プラセボ群と比較してエンパグリフロジン群で-19%(95%CI -23~-15%)であり、その内訳は日本以外の地域で-18%(95%CI -23~-14%)、日本で-26%(95%CI -36~-14%)であった(異質性p=0.24)。

Clin Exp Nephrol. 2024 Apr 20.

事前に規定した副次的アウトカムに対するエンパグリフロジンの効果は、日本以外の地域と日本の地域を比較した解析(表2)を含め、参加者を異なる地域で比較した場合(補足表2)、ほぼ同様であった。

日本以外の地域と比較して、日本で募集された参加者における重篤な安全性転帰の絶対リスクは比較的低く、安全性プロファイルは試験全体の結果と一致していた(表2)。

 

考察:

幅広いeGFR、アルブミン尿レベル、CKDの原因を有する6,609例の患者が対象となったEMPA-KIDNEY集団において、エンパグリフロジンはプラセボと比較して腎疾患の進行または心血管死のリスクを28%低下させ、忍容性も良好であった。

本試験の特別な特徴は、日本から612例の参加者をリクルートしたことである。

この国は、他の多くの高所得国と比べて、試験への参加者が少なく、腎不全に進行する生涯リスクが高い国である。

 

地域間の比較はより限定的な検出力しか持たないが、このようなサブグループ解析では、ヨーロッパ、北アメリカ、中国/マレーシア、日本の患者において、相対的な有益性はほぼ同様であることが示唆された。

日本からの参加者と他の地域からの参加者を比較した探索的解析は、この所見と一致していた。

ベースラインのeGFRとアルブミン尿が日本より高いことを考慮した調整前後で、日本と日本以外の地域との間に差のある効果を示す強い統計的証拠はなかった。

しかし、統計的検出力はイベント数によって制限され、異質性の統計的検定に基づいて、日本の参加者における主要アウトカムに対する効果の最良推定値は、相対リスク28%減少という全体的推定値であると結論した。

 

以前のDAPA-CKD試験とCREDENCE試験のサブ解析では、日本からの参加者がそれぞれ244例と110例であった為、日本の参加者を他の地域の参加者とグループ化する必要があった。

このようなサブ解析の結果、SGLT2阻害薬の主要アウトカムに対する相対的な効果は、異なる地域の異なるタイプの参加者にかかわらず、ほぼ同様であった。

我々の報告結果は、これら他の2つのCKD臨床試験のデータと一致している。

3つの臨床試験すべてから得られた腎臓の転帰に対する効果は、共同メタアナリシスで統合されている。

我々は、このメタアナリシスから得られた全体的な相対リスクの減少が、地域に関係なく、CKD患者におけるSGLT2阻害薬の効果について現在最も信頼できる推定値であると結論づけた。

 

これらの解析は、その事後的/探索的な性質を考慮する必要がある。

EMPA-KIDNEY試験の主な限界は、心血管アウトカムの数が予想より少なかったことと、追跡期間が比較的短かったことである。

このことは、今後の腎臓内科臨床試験デザインにおいて、より大きなサンプルサイズを目指す必要性を浮き彫りにしている。

世界的に、複雑な研究ガバナンスと負担の大きい規制が、組織と業務の複雑化を引き起こし、試験コストの持続不可能な増大を招いている。

このような負担は、臨床研究者や患者の試験参加への消極的な姿勢の一因となり、大規模なリクルート能力を制限する可能性がある。

EMPA-KIDNEY試験の合理的なデザインは、このような傾向を逆転させることを目的としている。

我々は、重要で質の高いデータに焦点を当てたリスクベースのアプローチを用いた。

将来的には、日本慢性腎臓病データベースへのリンクを組み込んだ合理的な試験デザインによって、より長期的で低コストの腎臓転帰の追跡調査が促進される可能性もある。

要約すると、EMPA-KIDNEY試験の主な結論は、日本および日本以外の地域のCKD患者に外挿可能であり、正味の絶対的ベネフィットが実証されると結論づけるのが妥当である。

 

結論:

エンパグリフロジンは、CKD患者における「腎疾患の進行または心血管死」のリスクを安全に減少させ、その効果は日本の参加者においても一貫していた。

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