PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38078574/
タイトル:11. Chronic Kidney Disease and Risk Management: Standards of Care in Diabetes-2024
<概要(意訳)>
【慢性腎臓病のスクリーニング】
<推奨事項>
11.1a)
少なくとも年1回、糖尿病罹病期間が5年以上の1型糖尿病患者、および治療に関わらず全ての2型糖尿病患者において、尿中アルブミン(例:スポット尿中アルブミン/クレアチニン比[UACR])および推算糸球体濾過量[eGFR]を評価する[B]。
11.1b)
慢性腎臓病(CKD)が確立している患者では、腎臓病の病期に応じて、尿中アルブミン (スポットUACRなど)とeGFRを年に1~4回モニターすべきである(図11.1 )[B]。
【慢性腎臓病の治療】
<推奨事項>
11.2)
CKDのリスクを減らすか進行を遅らせる為に、血糖管理を最適化する[A]。
11.3)
血圧管理を最適化し、血圧の変動幅を小さくすることで、CKDのリスクを低下させ、または進行を遅らせ、心血管リスクを軽減する[A]。
11.4a)
糖尿病と高血圧を有する非妊婦では、アルブミン尿が中等度(UACR30~299 mg/g)の場合は、ACE阻害薬またはARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)の投与が推奨される[B]。
また、腎臓病の進行を予防し、心血管イベントを減少させる為に、アルブミン尿が高度に増加している患者(UACR≧300 mg/g、および/またはeGFR<60mL/min/1.73m2の患者には強く推奨される[A]。
11.4b )
ACE阻害薬、ARB、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)を使用する場合は、「血清クレアチニン値とカリウム値の上昇」を、利尿薬を使用する場合は「低カリウム血症」を定期的に監視する[B]。
11.4c)
血圧正常、UACR正常(30 mg/g未満)、eGFR正常の糖尿病患者におけるCKDの一次予防には、ACE阻害薬またはARBは推奨されない[A]。
11.4d)
細胞外液量減少の徴候がない軽度から中等度の血清クレアチニン上昇(30%以下)に対しては、レニン・アンジオテンシン系阻害薬による治療を中止しないこと[A]。
11.5a )
2型糖尿病CKD合併患者に対しては、eGFR≧20mL/分/1.73m2以上、UACR≧200 mg/gの場合、CKDの進行と心血管イベントを抑制する為に、SGLT2阻害薬の使用が推奨される[A]。
11.5b)
2型糖尿病CKD合併患者に対しては、eGFR≧20mL/分/1.73m2で尿中アルブミンが正常から200 mg/gの範囲にある場合、CKDの進行と心血管イベントを抑制するためにSGLT2阻害薬の使用が推奨される[B]。
11.5c)
2型糖尿病CKD合併患者における心血管リスク軽減のために、SGLT2阻害薬[eGFR≧20mL/分/1.73m2の場合]、GLP-1受容体作動薬、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)[eGFR≧25mL/分/1.73m2の場合]の使用を考慮する[A]。
11.5d)
CKDおよびアルブミン尿を有する患者は、心血管イベントおよびCKD進行のリスクが高い為、心血管イベントおよびCKD進行の抑制を目的に、臨床試験で有効性が示されている非ステロイド型MRAが推奨される(eGFR≧25mL/分/1.73m2の場合)。
カリウム値は、モニターすべきである[A]。
11.6)
尿中アルブミン≧300mg/gのCKD患者では、CKDの進行を遅らせる為に、尿中アルブミンを30%以上減少させることが推奨される[C]。
11.7)
非透析依存性のステージG3以上のCKDの場合、食事からのタンパク質摂取量は0.8g/kg/日を目標にすべきである[A]。
透析を受けている患者の中には、タンパク質のエネルギー浪費が大きな問題となっている患者もいる為、透析を受けている場合、食事からのタンパク質の摂取量は1.0~1.2g/kg/日を考慮すべきである[B]。
11.8)
尿中アルブミン値が継続的に増加している場合、および/またはeGFRが継続的に減少している場合、および/またはeGFR<30mL/min/1.73m2の場合は、腎臓専門医による評価を受けるために紹介されるべきである[A]。
11.9)
腎臓病の病因が不明な場合、管理が困難な場合、腎臓病が急速に進行している場合は、速やかに腎臓専門医に紹介する[B]。
【糖尿病と慢性腎臓病の疫学】
慢性腎臓病(CKD)は、尿中アルブミン排泄量の持続的な上昇(アルブミン尿)、推算糸球体濾過量(eGFR)の低下、または腎障害の他の症状によって診断される。
このセクションでは、成人の糖尿病に起因するCKD(糖尿病性腎臓病)に焦点を当てる。
糖尿病性腎臓病は、典型的には1型糖尿病では糖尿病罹病期間が10年を経過した後に発症するが(最も一般的な発症時期は1型糖尿病診断後5〜15年)、2型糖尿病では診断時に発症していることもある。
CKDは透析や腎移植を必要とする末期腎臓病(ESKD)に進行する可能性があり、米国ではESKDの主な原因となっている。
さらに、1型または2型糖尿病患者では、CKDの存在は心血管リスクと医療費を著しく増加させる。
小児の糖尿病性腎臓病の管理については、セクション14 “小児と思春期 “を参照のこと。
<UACRとeGFRの評価>
アルブミン尿のスクリーニングは、無作為スポット採尿の尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)によって最も簡単に行うことができる。
時限採尿や24時間採尿(畜尿)は負担が大きく、予測や精度には殆ど寄与しない。
尿クレアチニンを同時に測定せずに、スポット尿検体からアルブミンのみを測定する方法(免疫測定法でも、アルブミン尿に特異的な高感度ディップスティック検査法でも)は、コストは低いが、水分補給による尿濃度の変動の結果、偽陰性や偽陽性の判定を受けやすい。
したがって、半定量的または定性的(ディップスティック)スクリーニングは、認定された検査室でのUACR値によって確認する必要がある。
ゆえに、最終的にはアルブミン/クレアチニン比を測定する必要があるため、単にスポット尿(随時尿)サンプルを採取する方がよい。
尿中アルブミン排泄量の正常値は<30mg/g、中等度高値アルブミン尿は≧30-300mg/g、高度高値アルブミン尿は≧300mg/gと定義される。
しかし、UACRは連続的な測定値であり、正常範囲と異常範囲の差は、腎臓や心血管の転帰と関連している。
さらに、尿中アルブミン排泄量の生物学的変動は測定値間で20%以上と大きいため、中等度または重度のアルブミン尿上昇と判断する前に、3~6ヵ月以内に採取した3検体のUACRのうち2検体に異常がなければならない。
24時間以内の運動、感染症、発熱、うっ血性心不全、著明な高血糖、月経、著明な高血圧は、腎障害とは無関係にUACRを上昇させる可能性がある。
伝統的に、eGFRは有効な計算式を用いて血清クレアチニンから計算される。
eGFRは血清クレアチニンと共に検査室から日常的に報告されており、eGFR計算機はnkdep.nih.govからオンライン入手できる。
eGFR<60mL/分/1.73m2、および/またはUACR>30mg/gが続くと異常とみなされるが、70歳以上の高齢者では臨床診断に最適な閾値が議論されている。
歴史的には、アフリカ系アメリカ人の為の修正式に筋肉量の補正係数が含まれていた。
しかし、人種は生物学的構成要素ではなく社会的構成要素であるため、臨床アルゴリズムに人種を適用するのは問題があり、健康の公平性と社会正義を推進する必要性は明らかである。
その為、すべての人に適用されるように式を変更することが決定された。
そこで、慢性腎臓病疫学共同研究(CKD-EPI)のクレアチニン値を人種変数なしで修正し、米国内のすべての検査施設で直ちに実施することを勧告する委員会が開催された。
CKD-EPI式は、現在すべての人に推奨されているeGFR式である。
さらに、濾過マーカー(クレアチニンとシスタチンC)を併用する方が、どちらか一方のマーカーを単独で用いるよりも正確で、より適切な臨床的判断を下せるため、シスタチンC(eGFRのもう一つのマーカー)を血清クレアチニンと併用することが推奨されている。
【糖尿病性腎臓病の診断】
糖尿病性腎臓病は、アルブミン尿および/またはeGFR低下の存在に基づいて臨床的に診断される。
糖尿病性腎臓病の典型的な症状は、長年の糖尿病罹病期間、網膜症、肉眼的血尿を伴わないアルブミン尿、徐々に進行するeGFRの低下であると考えられている。
しかし、診断時に糖尿病性腎臓病の徴候が認められることもあれば、2型糖尿病では網膜症を伴わないこともある。
アルブミン尿を伴わないeGFRの低下は、1型糖尿病および2型糖尿病で頻繁に報告されており、米国における糖尿病有病率の増加に伴い、時間の経過とともに一般的になりつつある。
活性尿(赤血球や白血球、細胞鋳型を含む)、アルブミン尿や総蛋白尿の急激な増加、ネフローゼ症候群の存在、eGFRの急激な低下、網膜症(1型糖尿病の場合)の非存在は、腎疾患の代替または追加の原因を示唆している。
このような特徴を持つ患者には、腎生検の可能性を含め、さらなる診断のために腎臓専門医への紹介を考慮すべきである。
1型糖尿病患者が網膜症を伴わずに腎臓病を発症することはまれである。
2型糖尿病では、網膜症は腎生検によって確認されるように、糖尿病によるCKDの感度と特異性は中程度である。
【慢性腎臓病の病期分類】
ステージG1およびステージG2のCKDは、eGFR≧60mL/分/1.73m2で高アルブミン尿が認められることで定義され、ステージG3~G5のCKDは、eGFRの範囲が徐々に低くなることで定義される(図11.1 )。
どのeGFRにおいても、アルブミン尿の程度は心血管疾患(CVD)、CKDの進行、死亡率のリスクと関連している。
その為、尿中アルブミンレベルによるサブ分類が追加されている(図11.1 )。
さらに、KDIGOでは、eGFRの全ての段階でアルブミン尿を組み込んだ、より包括的なCKD病期分類を推奨している。
このシステムは、リスクとより密接に関連しているが、より複雑でもあり、治療の決定には直接結びつかない。
したがって、現在の分類体系に基づけば、治療決定の指針として「eGFRとアルブミン尿」の両方を定量化する必要がある。
eGFR値の定量化は、投薬量の変更や使用制限に不可欠である(図11.1 )、およびアルブミン尿の程度は、降圧薬(第10節「心血管疾患とリスク管理」参照)または血糖降下薬(下記参照)の選択に影響を及ぼすはずである。
観察されたeGFRの低下歴(これはCKDの進行やその他の有害な健康転帰のリスクとも関連する)や腎障害の原因(糖尿病以外の原因の可能性も含む)も、これらの決定に影響を与える可能性がある。
Diabetes Care 2024;47(Suppl. 1):S219–S230
【急性腎障害】
急性腎障害(AKI)は、血清クレアチニンが短期間に持続的に上昇することで診断され、eGFRの急激な低下としても反映される。
糖尿病の人は、糖尿病のない人に比べてAKIのリスクが高い。
AKIのその他の危険因子としては、既存のCKD、腎障害を引き起こす薬剤(非ステロイド性抗炎症薬など)の使用、特定の静脈内染料(ヨウ素化放射線造影剤など)、腎血流および腎内血行動態を変化させる薬剤の使用が挙げられる。
特に、多くの降圧薬(利尿薬、ACE阻害薬、ARBなど)は、血管内容量、腎血流量、糸球体濾過量を減少させる。
SGLT2阻害薬は、特に利尿薬や糸球体濾過を減少させる他の薬と併用した場合、体液量の減少によりAKIを促進する可能性が懸念された。
しかし、進行した腎臓病や腎機能が正常でCVDリスクが高い患者を対象としたランダム化比較試験では、このような結果は得られていない。
また、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)は、腎臓病の進行を遅らせるために使用してもAKIのリスクを増加させないことも注目に値する。
AKIはCKDの進行やその他の健康有害転帰のリスクを高めるため、AKIの早期発見と治療は重要である。
RAS阻害薬(ACE阻害薬やARBなど)による血清クレアチニンの上昇(ベースラインから最大30%)をAKIと混同してはならない。
ACCORD BP試験の解析によると、血清クレアチニンを30%上昇させながら血圧を集中的に下げる群に無作為に割り付けられた参加者では、死亡率や腎臓病の進行は認められなかった。
さらに、AKIのマーカーを測定したところ、クレアチニンの増加に伴うマーカーの有意な増加は認められなかった。
したがって、ACE阻害薬とARBは、体液量の減少がないにもかかわらず、血清クレアチニンが増加(30%未満)しても中止すべきではない。
【サーベイランス】
CKDの適時診断を可能にし、CKDの進行を監視し、AKIを含む重畳する腎疾患を検出し、CKD合併症のリスクを評価し、薬剤を適切に投与し、腎臓内科への紹介が必要かどうかを判断するために、「アルブミン尿とeGFR」の両方を毎年モニターすべきである。
すでに腎臓病がある患者の場合、アルブミン尿とeGFRは、CKDの進行、腎臓病に重畳する別の原因の発症、AKI、または上述のような薬剤の他の影響によって変化する可能性がある。
利尿薬は心血管リスクと死亡率に関連する「低カリウム血症」を引き起こす可能性がある為、利尿薬による治療を受けている患者では、「血清カリウム」もモニターすべきである。
ACE阻害薬、ARB、MRAの投与を受けているeGFR<60mL/min/1.73m2の患者は、定期的に「血清カリウム」を測定すべきである。
さらに、eGFRがこの低値の範囲にある人は、投薬量を確認し、腎毒素(例えば、非ステロイド性抗炎症薬やヨード造影剤)への曝露を最小限にし、潜在的なCKD合併症の評価を受けるべきである(表11.1 )。
尿中アルブミン排泄量を毎年定量的に評価する必要性は明らかである。
特に、アルブミン尿と診断され、ACE阻害薬またはARBを最大耐用量まで投与し、血圧の目標値を達成した後に、このことが当てはまる。
腎機能の早期変化は、eGFRの変化よりも先にアルブミン尿の増加によって検出される可能性があり、このことも心血管リスクに大きく影響する。
さらに、FDA(米国食品医薬品局)の心臓病・腎臓病部門では、ベースラインからの最初の減少率が30%以上であり、その後少なくとも2年間維持されることが、腎臓の有益性の有効な代用指標とみなしている。
継続的なサーベイランスにより、治療に対する反応と病期進行の両方を評価することができ、ACE阻害薬やARB治療への参加の評価にも役立つであろう。
さらに、2型糖尿病患者を対象としたACE阻害薬またはARB治療の臨床試験では、アルブミン尿を300mg/g未満、またはベースラインから30%以上減少させることが腎および心血管アウトカムの改善と関連しており、UACRを最大に減少させるように薬剤を漸増すべきであるとする意見もある。
post-hoc解析から得られたデータは、半量のRAS阻害薬では心腎系の転帰に対する有益性が少ないことを示している。
1型糖尿病では、アルブミン尿の寛解が自然に起こることがあり、アルブミン尿の変化と臨床転帰との関連を評価したコホート研究では一貫性のない結果が報告されている。
CKD合併症の有病率はeGFRと相関する。
eGFR<60mL/min/1.73m2の場合は、CKDの合併症スクリーニングが適応となる(表11.1 )。
ESKDに進行する可能性のある患者には、B型肝炎ウイルスに対する早期のワクチン接種が適応となる(予防接種に関する詳細については、セクション4「総合的な医学的評価と併存疾患の評価」を参照)。
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【予防】
糖尿病患者におけるCKDの一次予防として唯一証明されているのは、血糖値(目標HbA1c 7%)と血圧コントロール(血圧130/80mmHg未満)である。
RAS阻害薬やその他の介入薬が、高血圧やアルブミン尿がない場合に糖尿病性腎臓病の発症を予防するという証拠はない。
したがって、米国糖尿病学会は、糖尿病性腎臓病の発症予防のみを目的として、これらの薬剤を日常的に使用することを推奨していない。
【介入】
<栄養>
非透析依存性CKDの場合、食事からのタンパク質摂取量は1日当たり約0.8g/kgであるべきである。
食事性蛋白質摂取量が多い場合と比べて、このレベルではGFRの低下が緩徐であり、経時的により大きな効果が認められた。
食事性蛋白質摂取量が多い場合(1日カロリーの20%以上が蛋白質、または1.3g/kg/日以上)は、アルブミン尿の増加、腎機能の急速低下、およびCVD死亡率と関連している為、避けるべきである。
食事性蛋白質を推奨1日摂取量の0.8g/kg/日以下に減らしても、血糖値、心血管リスク指標、GFR低下の経過に変化はない為、推奨されない。
食事性ナトリウムの制限(2,300mg/日未満迄)は、血圧のコントロールと心血管リスクの低減に有用であろうし、血清カリウムのコントロールには、食事性カリウムの個別化が必要であろう。
これらの介入は、ナトリウムおよびカリウムの尿中排泄が低下している可能性のあるeGFR低下患者にとって最も重要である。
透析を受けている人の中には、栄養不良が大きな問題となっている人もいる為、透析を受けている人については、食事性タンパク質の摂取量を増やすことを考慮すべきである。
食事からのナトリウムとカリウムの摂取に関する推奨は、併存疾患、薬の使用、血圧、検査データに基づいて個別に行うべきである。
<血糖目標>
正常血糖に近い状態を目標に血糖を集中的に下げることは、大規模ランダム化試験において、1型糖尿病および2型糖尿病の患者に対してアルブミン尿の発症と進行を遅延させ、eGFRを低下させることが示されている。
1型糖尿病のDCCT/EDIC試験ではインスリン単独で血糖降下が行われ、2型糖尿病の臨床試験では様々な薬剤が使用され、血糖降下そのものがCKDの進行と予防に役立つという結論が支持された。
血糖低下療法がCKDに及ぼす効果は、HbA1cの目標値を定めるのに役立っている。
CKDの存在は、血糖値を集中的に低下させることのリスクとベネフィットに影響し、特定の血糖降下薬が多数ある。
血糖値を集中的に管理することによる有害作用(低血糖と死亡率)は、ベースライン時に腎臓病がある患者で増加していた。
さらに、厳格な血糖コントロールの効果がeGFRの改善として現れるまでに、2型糖尿病では少なくとも2年、1型糖尿病では10年以上のタイムラグがある。
したがって、CKDを有し、合併症が多い患者の中には、低血糖のリスクを減らす為に、目標のHbA1cを高めに設定する場合がある。
また、HbA1c値はCKDの病期が進行すると信頼性が低下する。
<血圧とACE阻害薬およびARBの使用>
ACE阻害薬とARBは、アルブミン尿を伴うCKD患者や糖尿病患者(糖尿病性腎臓病の有無に関わらず)の高血圧治療において、依然として管理の主軸となっている。
実際、SGLT2阻害薬または非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)の効果を評価した試験は、全てACE阻害薬またはARBで治療を受けている患者を対象としており、最大耐用量まで投与した試験もある。
高血圧は、CKDの発症と進行の強力な危険因子である。
降圧療法はアルブミン尿のリスクを低下させ、CKDが確立している1型または2型糖尿病患者(eGFR<60mL/min/1.73m2、UACR≧300mg/g)では、ACE阻害薬またはARBによる治療はESKDへの進行リスクを低下させる。
さらに、降圧療法は心血管イベントのリスクを減少させる。
全ての糖尿病患者において、CVD死亡率を低下させ、CKDの進行を遅らせるためには、血圧値を130/80mmHg未満にすることが推奨される。
より低い血圧目標(例えば、130/80mmHg未満)は、個々の予想されるベネフィットとリスクに基づいて考慮されるべきである。
CKD患者はCKDの進行(特にアルブミン尿のある人)とCVDのリスクが高い。
そのため、特にアルブミン尿が高度に高い(UACR≧300mg/g)患者には、より低い血圧目標が適している場合もある。
ACE阻害薬またはARBは、糖尿病、高血圧、eGFR<60mL/min/1.73m2、UACR≧300mg/gの患者において、CKDの進行予防に有効であることが証明されているため、血圧治療の第一選択薬として推奨されている。
ACE阻害薬とARBは同様のベネフィットとリスクがあると考えられている。
より低レベルのアルブミン尿(UACR 30~299mg/g)の場合、ACE阻害薬またはARBを最大耐量で投与した試験では、より高度なアルブミン尿(UACR≧ 300mg/g)への進行が抑制され、CKDの進行が抑制され、心血管イベントが減少したが、ESKDへの進行は抑制されなかった。
ACE阻害薬またはARBは、高血圧を伴わない中等度のアルブミン尿増加(UACR 30〜299mg/g)に対して処方されることが多いが、このような状況で腎転帰を改善するかどうかを検討するアウトカム試験は行われていない。
さらに、2つの長期二重盲検試験では、アルブミン尿(UACR 30〜299mg/g)の有無に関わらず、正常血圧の1型および2型糖尿病患者において、ACE阻害薬またはARBのいずれにも腎保護効果はないことが示された。
ACE阻害薬とARBは、血清クレアチニンが上昇する懸念があるため、一般的に最大耐容量では投与されないことに注意すべきである。
前述したように、このような理由でこれらの治療法を最大量まで投与しないことは、最適な治療法ではないと考えられる。
ACE阻害薬とARBが腎臓病の進行を遅らせる効果があることを証明したすべての臨床試験では、最大耐容量が使用されている。
さらに、現在では、eGFR<30mL/min/1.73m2の糖尿病患者において、死亡率とCKDの進行抑制の両方に対して有益性を示す研究がある。
さらに、高カリウム血症を伴わない血清クレアチニンの上昇が30%に達した場合には、RAS阻害薬による治療は継続すべきである。
腎臓病がない場合、ACE阻害薬やARBは血圧管理に有用であるが、サイアザイド様利尿薬やジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬などの他の降圧薬に比べて優れていることは証明されていない。
尿中アルブミン排泄量が正常な2型糖尿病患者を対象とした試験では、ARBはアルブミン尿の発症を抑制または軽減したが、心血管イベントの発生率は増加した。
アルブミン尿も高血圧も認められない1型糖尿病患者を対象とした試験では、ACE阻害薬やARBは腎生検で評価される糖尿病性糸球体症の発症を予防しなかった。
このことは2型糖尿病患者を対象とした同様の試験でも支持された。
2つの臨床試験でACE阻害薬とARBの併用療法が検討されたが、CVDやCKDに対する有益性は認められず、併用療法では有害事象(高カリウム血症および/またはAKI)の発生率が高かった。
したがって、ACE阻害薬とARBの併用は避けるべきである。
【血糖降下薬の直接的腎作用】
血糖降下薬の中には、腎臓に直接、すなわち血糖を介さずに影響を及ぼすものもある。
例えば、SGLT2阻害薬は、腎尿細管でのグルコース再吸収、体重、全身血圧、糸球体内圧、アルブミン尿を減少させ、血糖とは無関係と思われる機序でGFRの低下を遅らせる。
さらに、最近のデータでは、SGLT2阻害薬は、腎臓の酸化ストレスを50%以上減少させ、アンジオテンシノーゲンの増加を抑制し、NLRP3インフラムソーム活性を低下させるという考え方が支持されている。
GLP-1受容体作動薬も腎臓に直接作用し、プラセボと比較して腎アウトカムを改善することが報告されているが、腎保護作用に関する決定的な結論はまだ得られていない。
血糖降下薬を選択する際には、腎への影響を考慮すべきである(セクション9「血糖治療に対する薬理学的アプローチ」を参照)。
【慢性腎臓病患者に対する血糖降下薬の選択】
2型糖尿病でCKDが確立している患者の場合、eGFRの低下により使用できる薬剤が制限されること、CKDの進行、CVD、低血糖のリスクを軽減することなどが、血糖降下薬の選択に関する特別な考慮事項である。
eGFR<60mL/min/1.73m2では、薬物投与の変更が必要な場合がある。
図11.2に、糖尿病とCKDの患者における薬物療法に関する米国糖尿病学会(ADA)とKDIGOのコンセンサスアルゴリズムを示す。
Diabetes Care 2024;47(Suppl. 1):S219–S230
FDAは2016年にCKDにおけるメトホルミンの使用に関するガイダンスを改訂し、治療の指針として血清クレアチニンの代わりにeGFRを使用することを推奨し、メトホルミン治療を考慮すべき腎臓病患者を拡大した。
改訂されたFDAガイダンスでは、以下のように述べられている。
1)メトホルミンはeGFR<30mL/分/1.73m2の患者には禁忌である
2)メトホルミン服用中はeGFRをモニターすべきである
3) eGFR<45mL/min/1.73m2に低下した場合には、治療継続のベネフィットとリスクを再評価すべきである
4)eGFR<45 mL/min/1.73 m2の患者には、メトホルミンを開始すべきではない
5)eGFRが30~60mL/分/1.73m2の患者では、ヨード造影検査の実施時、またはその前に、メトホルミンの投与を一時中止すべきである
最近の多くの研究で、SGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬による心血管保護作用、SGLT2阻害薬および、恐らくGLP-1受容体作動薬による腎保護作用が示されている。
どの血糖降下薬を使用するかは、利便性やコストだけでなく、個人のリスク(血糖コントロールに加えて心血管や腎臓)の基準に基づいて選択すべきである。
SGLT2阻害薬は、CKDの進行を遅らせ、血糖管理とは無関係に心不全リスクを軽減する為、eGFR≧20mL/min/1.73m2の2型糖尿病患者に推奨される。
GLP-1受容体作動薬は、心血管イベントと低血糖のリスクを低下させ、CKDの進行を遅らせる可能性がある為、心血管リスクが主な問題であれば、心血管リスク軽減のために推奨される。
CVDのリスクが高い2型糖尿病患者やCVD既往患者を対象とした多くの大規模な心血管アウトカム試験では、腎臓への影響を二次アウトカムとして検討している。
これらの試験にはEMPA-REG OUTCOME試験、CANVAS試験、LEADER試験、SUSTAIN-6試験が含まれる。
特に、エンパグリフロジンはプラセボと比較して、腎症の発症または悪化(UACR>300mg/gの進行、血清クレアチニンの倍加、ESKD、ESKDによる死亡の複合)のリスクを39%減少させ、eGFR≦45mL/min/1.73m2を伴う血清クレアチニンの倍加のリスクを44%減少させた。
カナグリフロジンは、アルブミン尿の進行リスクを27%減少させ、eGFRの低下、ESKD、またはESKDによる死亡のリスクを40%減少させた。
リラグルチドは、腎症(マクロアルブミン尿の持続、血清クレアチニンの倍加、ESKD、ESKDによる死亡の複合)の新規または悪化のリスクを22%減少させた。
セマグルチドは、腎症(UACR>300mg/g・Crの持続、血清クレアチニンの倍加、ESKDの複合)の新規または悪化のリスクを36%減少させた(各P<0.01)。
これらの解析は、主にCKDのために選択されたのではない研究集団の評価と、副次的転帰としての腎臓への影響の検討によって制限された。
SGLT2阻害薬に関する3つの大規模臨床試験は、CKD患者および主要な腎アウトカムの評価に焦点を当てている。
カナグリフロジンのCREDENCE試験では、2型糖尿病、UACR≧300~5,000mg/g、eGFR30~90mL/分/1.73m2(平均eGFR56mL/分/1.73m2、平均アルブミン尿>900mg/日)の成人4,401例を対象とし、ESKD、血清クレアチニンの倍加、腎死または心血管死が主要複合エンドポイントであった。
本試験は、有効性が認められた為、早期に中止されたが、対照群に比べESKD発症リスクが32%減少した。
さらに、30日以上の透析、腎移植または中央検査室評価で30日以上持続するeGFR<15mL/min/1.73m2、ベースラインからの血清クレアチニンの倍加、腎死または心血管死などの主要エンドポイントの発症は30%減少した。
この有益性は、参加者の99%以上がACE阻害薬またはARBをバックグラウンドとして投与されていた場合であった。
さらに、この進行したCKD群では、心血管系の転帰においても明らかな有効性が認められ、心血管死または心不全による入院が31%減少し、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中が20%減少した。
2番目の試験はダパグリフロジンのDAPA-CKD試験である。
この試験はCREDENCE試験と同様のコホートで行われたが、参加者の67.5%が2型糖尿病とCKDを合併しており(残りの1/3は2型糖尿病を合併しないCKD)、エンドポイントが若干異なっていた。
主要エンドポイントは、腎疾患(eGFRの50%以上の持続的低下、ESKD、腎死)の進行または心血管死を含む複合アウトカムの構成要素のいずれかが最初に発生するまでの時間とした。
副次的アウトカムには、腎複合アウトカムの構成要素(eGFRの50%以上の持続的低下またはESKD、腎死)のいずれかが最初に発現するまでの時間、心血管複合アウトカムの構成要素(心血管死または心不全による入院)のいずれかが最初に発現するまでの時間、および全死亡までの時間が含まれた。
本試験には4,304例が参加し、ベースライン時の平均eGFRは43.1±12.4mL/min/1.73m2(範囲25~75mL/min/1.73m2)、UACR中央値は949mg/g(範囲200~5,000mg/g)であった。
主要エンドポイントにおいて、ダパグリフロジンによる有意なベネフィットが認められた[HR 0.61(95%CI 0.51-0.72);P<0.001]。
eGFRの50%以上の持続的低下、ESKD、または腎死の複合に対するハザード比は、[HR 0.56(95%CI 0.45-0.68);P<0.001]であった。
心血管死または心不全による入院の複合のハザード比は、[HR 0.71(95%CI 0.55-0.92);P=0.009)]であった。
最後に、全死亡は、プラセボ群と比較してダパグリフロジン群で減少した(P < 0.004)。
3番目の試験はエンパグリフロジンのEMPA-KIDNEY試験である。
この試験では、20≦eGFR<45mL/min/1.73m2、または45≦eGFR<90mL/min/1.73m2かつUACR≧200mg/gのCKD患者が登録された。
参加者6,609例の約半数が糖尿病であった。
エンパグリフロジン投与群では、腎疾患の進行または心血管死のリスクも低かった[HR 0.72(95%CI 0.64-0.82)、P<0.001]。
心血管系の転帰に関しては、SGLT2阻害薬は心不全による入院リスクを減少させ、一部は心血管系リスクの減少も示している。
GLP-1受容体作動薬は心血管系への有用性を明確に示している(さらに詳細な議論についてはセクション10「心血管疾患とリスク管理」を参照されたい)。
SGLT2阻害薬の血糖低下作用はeGFR<45mL/min/1.73m2では鈍化するが、eGFRが20mL/min/1.73 m2と低くても、血糖に有意な変化がなくても、腎臓および心血管への有益性は認められた。
CANVAS試験のCKD患者の約28%はASCVD(アテローム性動脈硬化性心血管疾患)と診断されていなかったが、これらの試験のCKD患者のほとんどはベースライン時に(ASCVD)と診断されていた。
CREDENCE試験、DAPA-CKD試験、EMPA-KIDNEY試験、およびSGLT2阻害薬を用いた心血管アウトカム試験の二次解析から得られたエビデンスに基づくと、eGFRが20mL/min/1.73 m2の患者では、SGLT2阻害薬の使用により心血管イベントおよび腎イベントが、血糖低下作用とは無関係に減少する。
2型糖尿病合併CKD患者におけるGLP-1 受容体作動薬の使用に関連した心血管リスクの低下は明らかであるが、腎アウトカムに対するベネフィットの可能性は、現在進行中のセマグルチド注射剤を用いたFLOW試験の結果によってもたらされるであろう。
上述したように、発表されているデータは限られたCKD患者を対象としており、そのほとんどがASCVDを併発している。
しかし、腎イベントは大規模な臨床試験で主要アウトカムおよび副次的アウトカムとして検討されている。
これらの薬剤の有害事象プロファイルも考慮しなければならない。
これらの薬剤の有害事象情報を含む薬剤固有の要因については、表9.2を参照されたい。
CKD患者における心血管転帰およびCKDに焦点を当てた臨床試験がさらに進行中であり、今後数年のうちに報告される予定である。
2型糖尿病合併CKD患者については、併存疾患とCKDの病期によって、特定の薬剤を選択することができる。
SGLT2阻害薬は、CKD進行のリスクが高い人(アルブミン尿、eGFR低下の既往)に推奨される(図9.3)。
2型糖尿病合併CKD患者に対しては、CKDの進行と心血管イベントを抑制するために、eGFR≧20mL/分/1.73 m2かつUACR≧200mg/gの患者におけるSGLT2阻害薬の使用が推奨される。
eGFRを上限とした理由は以下の通りである。
SGLT2阻害薬の臨床試験で糖尿病性腎疾患患者に対する有用性を示した主な試験はCREDENCE試験、DAPA-CKD試験、EMPA-KIDNEY試験である。
CREDENCE試験の登録基準は、eGFR>30mL/min/1.73 m2、UACR>300mg/gであった。
DAPA-CKD試験には、eGFR>25mL/分/1.73 m2、UACR>200mg/gの患者が登録された。
DAPA-CKD試験のサブグループ解析とEMPEROR試験の解析から、SGLT2阻害薬はeGFR>20mL/min/1.73 m2において有効かつ安全であることが示唆された。
EMPEROR-Preserved試験には5,998例が登録され、EMPEROR-Reduced試験には3,730例が登録された。
eGFR>60mL/分/1.73 m2の心不全患者も登録されたが、eGFR>20mL/分/1.73 m2で有効性が認められた。
最近では、EMPA-KIDNEY試験において、eGFRが20mL/min/1.73 m2と低い患者でも有効性が示された。
したがって、新たな推奨はeGFRが20mL/min/1.73 m2と低い患者にもSGLT2阻害薬を使用することである。
さらに、DECLARE-TIMI 58試験では、尿中アルブミンが正常な患者における有効性が示唆された。
以上のことから、2型糖尿病と糖尿病性腎臓病を有する患者では、eGFRが20mL/min/1.73 m2以上の場合、CKDの進行と心血管イベントを抑制する為にSGLT2阻害薬の使用が推奨される。
なお、GLP-1受容体作動薬はeGFRが低い場合にも心血管保護のために使用できるが、用量調節が必要な場合がある。
<慢性腎臓病におけるMRAの腎および心血管アウトカム>
MRAは高カリウム血症のリスクがあるため、これまで糖尿病性腎臓病ではあまり研究されてこなかった。
しかし、存在するデータは、アルブミン尿減少に対する持続的な有益性を示唆している。
MRAにはステロイド系と非ステロイド系の2種類があり、一方を他方に外挿することはできない。
2020年末、フィネレノンの腎効果を検討した2つの試験のうち最初の試験であるFIDELIO-DKD試験の結果、進行した糖尿病性腎臓病の患者において、糖尿病性腎臓病の進行および心血管イベントの有意な減少が示された。
この試験の主要エンドポイントは、腎不全の発症、ベースラインから少なくとも4週間以上にわたるeGFRの40%以上の持続的低下、または腎死の複合エンドポイントの初発までの期間であった。
事前に規定された副次的アウトカムは、心血管死または非致死的心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中、心不全による入院)の複合エンドポイントの初発までの期間であった。
その他の副次的アウトカムには、全死亡、全ての原因による入院までの期間、ベースラインから4ヵ月目までのUACRの変化、および以下の複合エンドポイントの初発までの期間が含まれた。
腎不全の発症、ベースラインから少なくとも4週間にわたるeGFRの57%以上の持続的低下、または腎死。
この二重盲検プラセボ対照試験は、2型糖尿病合併CKD患者5,734例を、非ステロイド性MRAであるフィネレノ投与群とプラセボ投与群に無作為に割り付けた。
対象者は、UACRが30~300mg/g未満、eGFRが25~60mL/min/1.73 m2未満、糖尿病性網膜症、またはUACRが300~5,000mg/gかつeGFRが25~75mL/min/1.73 m2未満であった。
カリウム値は4.8mmol/L以下でなければならなかった。
参加者の平均年齢は65.6歳で、30%が女性であった。
平均eGFRは44.3mL/min/1.73 m2、平均アルブミン尿は852mg/g(IQR 446〜1,634mg/g)であった。
主要エンドポイントは、プラセボ群と比較してフィネレノン群で減少し[HR 0.82 (95% CI 0.73-0.93)、P = 0.001]、主要副次評価項目である心血管アウトカムも減少した[HR 0.86 (95% CI 0.75-0.99)、P = 0.03]。
高カリウム血症による中止は、プラセボ群の0.9%に対しフィネレノン群では2.3%であったが、高カリウム血症に関連した死亡例はなかった。
注目すべきは、全群の4.5%がSGLT2阻害薬による治療を受けていたことである。
FIGARO-DKD試験では、UACRが30~300mg/g未満でeGFRが25~90mL/min/1.73 m2である2型糖尿病合併CKD患者を対象に、心血管イベント抑制におけるフィネレノンの安全性と有効性が評価された。
カリウム値は4.8mmol/L以下でなければならなかった。
この試験では、対象となる被験者をフィネレノン群(n=3,686)とプラセボ群(n=3,666)に無作為に割り付けた。
スクリーニング時のeGFRが25~60mL/min/1.73 m2の被験者には、ベースライン時の初回用量として10mgが1日1回投与され、スクリーニング時のeGFRが60mL/min/1.73 m2以上の被験者には、初回用量として20mgが1日1回投与された。
血清カリウム値が4.8mmol/L以下でeGFRが安定していれば、1ヵ月後に1日1回10mgから20mgへの増量が推奨された。
参加者の平均年齢は64.1歳(31%が女性)、追跡期間の中央値は3.4年であった。
HbA1cの中央値は7.7%、平均収縮期血圧は136mmHg、平均GFRは67.8mL/分/1.73 m2であった。
駆出率が低下した心不全患者、および血圧コントロール不良の高血圧患者は除外された。
主要複合アウトカムは、心血管死、心筋梗塞、脳卒中、心不全による入院であった。
フィネレノン群はプラセボ群に比して主要エンドポイントを13%減少させた[12.4% vs. 14.2%;HR0.87(95%CI 0.76-0.98);P=0.03]。
このベネフィットは、主に、心不全による入院の減少によってもたらされた[3.2% vs 4.4% ; HR 0.71(95%CI 0.56-0.90)]。
副次的アウトカムの中で最も注目すべきは、ESKDが36%減少したことである[0.9% vs 1.3% ; HR 0.64(95%CI 0.41-0.995)]。
高カリウム血症の発生率は、フィネレノン群で10.8%、プラセボ群で5.3%と高かったが、フィネレノンを投与された3,686例の内、高カリウム血症で試験を中止したのは1.2%にすぎなかった。
FIDELITY試験の事前に規定された有効性と安全性のプール解析では、FIGARO-DKD試験とFIDELIO-DKD試験の両試験(N=13,171)から得られた症例が組み入れられ、CKDの重症度の範囲にわたって評価できるようにした。
解析の結果、複合心血管系転帰(非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心不全による入院)は、プラセボ群に対してフィネレノン群で14%減少した[12.7% vs 14.4%;HR 0.86(95%CI 0.78-0.95);P=0.0018]。
また、ベースラインから少なくとも4週間にわたるeGFRの57%以上の持続的低下、または腎死からなる複合腎転帰が、プラセボに対してフィネレノンで23%減少したことも示された[5.5% vs 7.1%;HR 0.77(95% CI 0.67-0.88);P = 0.0002]。
FIDELITY試験のプール解析は、ベースラインのASCVD既往歴に関係なく(駆出率が低下した心不全患者を除外して)、CKDの範囲にわたってフィネレノンの心血管系および腎臓の良好な転帰を確認し、強化するものである。
<腎臓専門医への紹介>
医療従事者は、「糖尿病患者のUACR値が継続的に上昇している場合、および/またはeGFRが継続的に低下している」、 「腎臓病の病因が不明確」、「管理が困難(貧血、二次性副甲状腺機能亢進症、良好な血圧管理にも関わらずアルブミン尿の著しい増加、代謝性骨疾患、抵抗性高血圧、電解質異常)」、「ESKDに対する腎代替療法を検討する必要がある進行した腎臓病(eGFR<30mL/分/1.73m2)」の場合、腎臓専門医への紹介を考慮すべきである。
紹介の閾値は、医療従事者が糖尿病と腎臓病の患者に遭遇する頻度によって異なる。
ステージ4のCKD(eGFR<30mL/min/1.73 m2)が発症したときに腎臓専門医に相談することは、コストを削減し、ケアの質を改善し、透析を遅らせることがわかっている。
しかし、他の専門医や医療従事者は、糖尿病患者に対して、CKDの進行性、血圧と血糖の積極的治療による腎保護効果、腎代替療法の潜在的必要性についても教育すべきである。
【参考情報】
米国糖尿病学会が「ADA診療ガイドライン2024年版」を発表
糖尿病の包括的ケアを実現するために最新アップデート