PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34184057/
タイトル:Regional and ethnic influences on the response to empagliflozin in patients with heart failure and a reduced ejection fraction: the EMPEROR-Reduced trial
<概要(意訳)>
目的:
本研究の目的は、駆出率の低下した慢性心不全患者を対象としたEMPEROR-Reduced試験におけるSGLT2阻害薬(エンパグリフロジン)の心血管アウトカムに対する「地域および人種/民族」の影響を調査することである。
方法:
EMPEROR-Reduced試験に参加した「地域」は、「ラテンアメリカ、北アメリカ、ヨーロッパ、アジア、その他(インドとオーストラリアを含む)」であった。
「人種/民族」は、「白人、黒人、アジア人、その他(ネイティブアメリカン、ハワイ原住民およびその他太平洋諸島民、多人種)」として自己識別された。
結果:
3,730例の内、登録された地域は、「1,353例(36.3%)がヨーロッパ、1,286例(34.5%)がラテンアメリカ、425例(11.4%)が北アメリカ、493人(13.2%)がアジア、173例(4.6%)がその他」であった。
これらの内、「2,629例(70.5%)は白人、257例(6.9%)は黒人、672例(18.0%)はアジア人、114例(3.1%)はその他」の「人種/民族」が登録されていた。
予想通り、ほとんどのアジア人患者(n=493)はアジアで登録され、黒人患者は主にラテンアメリカ(n=154)と北アメリカ(n=100)で登録され、白人患者はヨーロッパ(n=1,281)、ラテンアメリカ(n=1,026)、北アメリカ( =301)で登録されていた。
Eur Heart J. 2021 Jun 29;ehab360.
「地域」別のベースライン特性において、
ヨーロッパと北アメリカの患者は、その他地域と比較して、年齢が高く、心不全重症度(NYHA Ⅲ~Ⅳ度)が高く、心不全の罹病期間が長く、腎機能(eGFR)が低く、冠動脈疾患と心房細動の既往が高く、NT-proBNPレベルは低かった。
北アメリカの患者は、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)の使用率が最も高かったが、鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(MRA)の使用率は最も低かった。
アジアの患者は、12ヶ月以内における心不全入院の既往が最も高く、QOL(KCCQスコア)も最も高かった。
「人種/民族」別のベースライン特性において、
その他の人種と比較して、黒人の患者は、高血圧の既往が最も高かったが、腎機能は最も保たれていた。
黒人と白人と比較して、アジア人とその他の患者は、BMIが低く、糖尿病の既往が高く、QOLが高かった。
「地域」別のプラセボ群と比較した、SGLT2阻害薬の「心血管死または心不全による入院」リスク[HR(95%CI)]は、それぞれ、
北メリカ:0.69(0.48-1.01)
ラテンアメリカ:0.73(0.58-0.94)
ヨーロッパ:0.94(0.74-1.18)
アジア:0.55(0.38-0.78)
その他:0.50(0.22-1.11)
となり、「地域」間で一貫したSGLT2阻害薬の「心血管死または心不全による入院」リスク低下効果が示された(交互p=0.10)。
「人種/民族」別のプラセボ群と比較した、SGLT2阻害薬の「心血管死または心不全による入院」リスク[HR(95%CI)]は、それぞれ、
白人:0.88(0.75-1.04)
黒人/アフリカ系アメリカ人:0.46(0.28-0.75)
アジア:0.57(0.41-0.78)
その他:0.41(0.15-1.14)
となり、「人種/民族」間で異なるSGLT2阻害薬の「心血管死または心不全による入院」リスク低下効果が示された(交互p=0.008)。
「地域」別のプラセボ群と比較した、SGLT2阻害薬の「心血管死および入院と外来患者の心不全の悪化」リスク[HR(95%CI)]は、それぞれ、
北メリカ:0.73(0.54-1.00)
ラテンアメリカ:0.78(0.63-0.96)
ヨーロッパ:0.74(0.62-0.90)
アジア:0.47(0.35-0.63)
その他:0.45(0.23-0.90)
となり、「地域」間で異なるSGLT2阻害薬の「心血管死および入院と外来患者の心不全の悪化」リスク低下効果が示された(交互p=0.037)。
「人種/民族」別のプラセボ群と比較した、SGLT2阻害薬の「心血管死および入院と外来患者の心不全の悪化」リスク[HR(95%CI)]は、それぞれ、
白人:0.81(0.71-0.93)
黒人/アフリカ系アメリカ人:0.49(0.32-0.74)
アジア:0.48(0.37-0.63)
その他:0.69(0.33-1.46)
となり、「人種/民族」間で異なるSGLT2阻害薬の「心血管死および入院と外来患者の心不全の悪化」リスク低下効果が示された(交互p=0.002)。
Eur Heart J. 2021 Jun 29;ehab360.
「地域」別のプラセボ群と比較した、SGLT2阻害薬の「心不全による総入院(初発と再発)」リスク[HR(95%CI)]は、それぞれ、
北メリカ:0.65(0.46-0.93)
ラテンアメリカ:0.71(0.43-1.18)
ヨーロッパ:0.96(0.70-1.33)
アジア:0.41(0.26-0.66)
その他:0.48(0.16-1.40)
となり、「地域」間で一貫したSGLT2阻害薬の「心不全による総入院(初発と再発)」リスク低下効果が示された(交互p=0.055)。
「人種/民族」別のプラセボ群と比較した、SGLT2阻害薬の「心不全による総入院(初発と再発)」リスク[HR(95%CI)]は、それぞれ、
白人:0.90(0.71-1.13)
黒人/アフリカ系アメリカ人:0.39(0.19-0.80)
アジア:0.45(0.29-0.70)
その他:0.08(0.01-0.70)
となり、「人種/民族」間で異なるSGLT2阻害薬の「心不全による総入院(初発と再発)」リスク低下効果が示された(交互p=0.002)。
「地域」別における「心血管死」の発症率(100人/年)は、プラセボ群/SGLT2阻害薬群で、それぞれ、
北メリカ:9.1 / 9.4
ラテンアメリカ:6.7 / 5.5
ヨーロッパ:7.7 / 7.6
アジア:7.7 / 6.6
その他:10.1 / 3.4
となり、プラセボ群における心血管死の発症率は低く、SGLT2阻害薬群との差は少なかった。また、「地域」間での差は認められなかった(交互p=0.43)。
「人種/民族」別における「心血管死」の発症率(100人/年)は、プラセボ群/SGLT2阻害薬群で、それぞれ、
白人:8.1 / 8.2
黒人/アフリカ系アメリカ人:7.6 / 5.3
アジア:8.0 / 6.5
その他:11.9 /6.2
となり、プラセボ群における心血管死の発症率は低く、SGLT2阻害薬群との差は少なかった。また、「人種/民族」間での差は認められなかった(交互p=0.60)。
Eur Heart J. 2021 Jun 29;ehab360.
結論:
さまざまな地域および人種/民族グループ間において、プラセボ群の主要な心不全イベントの発症率に顕著な違いがあった。
SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン)のベネフィットは、心血管死に対して心不全による入院リスクが高いグループ(人種、地域)で顕著であった。
心不全イベントの定義を拡大し、外来患者の心不全イベントの悪化を含めると、地域差は小さくなった(白人患者に対するSGLT2阻害薬の相対リスク減少は、12%から19%に増加した)。
【参考情報】
2020年国勢調査で国の人種・民族構成が明らかに