PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34325890/
タイトル:Duration of Diabetes and Incident Heart Failure: The ARIC (Atherosclerosis Risk In Communities) Study
<概要(意訳)>
背景:
糖尿病は心不全(HF)リスクを高めるが、偶発的な心不全の発症に対する糖尿病の罹病期間が与える独立した影響は不明である。
本研究では、「偶発的な心不全と糖尿病の罹病期間」との関連を評価した。
方法:
ARIC研究(アテローム性動脈硬化症リスクを研究)では、米国の4つの地域から15,792例の被験者を募集した。
被験者の最初の評価(Visit 1)は1987-1989年であり、その後、3年毎(Visit 2:1990-1992年、Visit 3:1993-1995年、Visit 4:1996-1998年)に評価した。
本研究のベースラインは、1996年から1998年にかけて行われたVisit 4であり、11,656例(除外: 18歳未満、1型糖尿病、HF、冠動脈疾患、)が参加した。
Visit 4における被験者は、HFと冠動脈疾患の既往がない9,734例(平均年齢63歳、女性58%、黒人22%)の被験者が参加した。
糖尿病の罹病期間は、Visit 1より前に糖尿病と診断された自己申告による診断日、Visit 1~4における糖尿病状態に関するデータを使用して計算した。
Cox回帰分析を使用して、糖尿病の罹病期間と心不全発症リスクとの関連を推定した。
また、「年齢(65歳未満/以上)、人種(黒人/白人)、性別、血糖コントロール(HbA1c7%未満/以上)」で層別化分析を行い、交互作用を調査した。
結果:
最終的に9,374例(平均年齢63.1±5.7歳、女性58.2%、黒人23%)が適格被験者となり、
1,515例(19%)がVisit4(1996-1998年)までに糖尿病と診断された。
全体の内、非糖尿病は4,802例、全糖尿病は3,091例、糖尿病(罹病期間4.9年以下:908例、5.0-9.9年以下:642例、10-14.9年以下:123例、15年以上:168例)は1,841例であった。
追跡期間中(中央値22.5年)に、1,968件(HFpEF 617件、HFrEF 495件、未分類876件)のHFイベントが発生した。
HFイベントの粗発生率(IR:1,000人/年)は、それぞれ、
非糖尿病:8.71 (8.11-9.35)
前糖尿病:12.08 (11.18-13.06)
糖尿病[4.9年以下]:15.07 (13.21-17.20)
糖尿病[5.0-9.9年以下]:24.16 (21.17-27.57)
糖尿病[10-14.9年以下]:30.93 (23.51-40.70)
糖尿病[15年以上]:39.94 (32.16-49.59)
となり、非糖尿病と比較して、前糖尿病を含め、糖尿病の罹病期間が長くなるにつれて増加し、15年以上の糖尿病罹病期間がある被験者では少なくとも4倍高くなった。
多変量調整分析による、HFイベント発生ハザード比は、それぞれ、
非糖尿病:Ref.
前糖尿病:1.16 (1.04-1.29
糖尿病[4.9年以下]:1.29(1.10-1.51)
糖尿病[5.0-9.9年以下]:1.97 (1.68-2.30)
糖尿病[10-14.9年以下]:2.10 (1.57-2.80)
糖尿病[15年以上]:2.82 (2.22-3.57)
となり、非糖尿病(Ref.)と比較して、糖尿病の罹病期間が長くなるにつれて段階的に増加し、15年以上の糖尿病罹病期間がある被験者では約3倍高くなった。
また、前糖尿病でもHFイベント発生リスクの増加が認められた。
これらと同様の結果がHFサブタイプ(HFpEF:EF≧50%、HFrEF:EF<50%)全体でも観察された。
JACC Heart Fail. 2021 Aug;9(8):594-603.
次に、糖尿病罹病期間が5年増加毎のHFイベント発生のリスク増加を検討したところ、17%(95%CI:11-22)の相対的増加と関連していた。
糖尿病罹病期間と糖尿病患者のHFリスクの間には、ほぼ線形の関係があり、HbA1Cが7%未満よりも7%以上の方が急勾配のリスク増加が認められた。
JACC Heart Fail. 2021 Aug;9(8):594-603.
「年齢(65歳未満/以上)、人種(黒人/白人)、性別、血糖コントロール(HbA1c7%未満/以上)」における層別化分析では、「65歳未満、HbA1C 7%以上、BMI 30 kg/ m2以上、女性、黒人」でより強い「糖尿病罹病期間とHFイベント発生リスク」との関連が認められた。
結論:
糖尿病の発症を遅らせることは、心不全予防を強化できる可能性がある。
糖尿病の罹病期間が長くなるにつれて心不全リスクが高くなる為、心保護療法を行うことは、心不全予防のベネフィットをもたらすことが示唆された。
【参考情報】
競合リスク