SGLT2阻害薬治療による初期eGFR低下の特性評価と心血管・腎への影響



PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33181154/ 

タイトル:Characterization and implications of the initial estimated glomerular filtration rate ‘dip’ upon sodium-glucose cotransporter-2 inhibition with empagliflozin in the EMPA-REG OUTCOME trial

<概要(背景)>

背景:

AKIに関する有害事象(AE)の市販後報告により、FDA(米国食品医薬品局)は、AKI(急性腎障害)リスクのある患者に対するSGLT2阻害薬の使用に警告を発した。

しかしながら、臨床試験および大規模な観察研究データでは、SGLT2阻害薬によるAKIリスクの低下が示されている。

本研究では、SGLT2阻害薬の使用による「initial dip(初期のeGFR低下)」の臨床的意義をよりよく理解するために、EMPA-REG試験で観察された 「初期のeGFR低下」が、ベースライン特性の影響を受けているかどうか、および/または、心血管と腎臓の臨床アウトカム、安全性に影響を与えているかどうかを調査した。

方法:

EMPA-REG試験[7,020例の2型糖尿病患者、治療期間(中央値)2.6年、観察期間(中央値)3.1年、eGFR≥30 ml/min/1.73 m2]において、ベースラインと4週目のeGFR値が利用可能な6,668例をeGFRの変化率によって3つのカテゴリー[>10%減少(dipper)、>0%から≤10%の低下(intermediate)、低下なし(non dipper)]に分類し、事後分析を行った。

結果:

「initial dip(初期のeGFR低下)」は、被験者間で大きな個人差があった。

ベースラインから4週目のeGFR変化の中央値は、プラセボ群で-0.05(IQR –4.04〜+ 4.27)ml/min/1.73m2、SGLT2阻害薬群で-2.69(IQR –24.9〜+ 17.7)ml/min/1.73m2であった。

3つのeGFR変化率カテゴリーの内訳は、SGLT2阻害薬群とプラセボ群で、それぞれ、dipper(>10%減少):28.3%と13.4%、intermediate(>0%から≤10%の低下):41.1%と39.5%、non dipper(低下なし):30.5%と47.1%であった。

SGLT2阻害薬群のnon dipper(低下なし)とintermediate(>0%から≤10%の低下)における、ほとんどのベースライン特性は、同等であった。

一方で、dipper(>10%減少)とnon dipper(低下なし)におけるベースライン特性には、いくつかの違いがあった。

dipper(>10%減少)の被験者は、糖尿病の罹病期間がより長く、腎障害とアルブミン尿を呈する割合がより多い為、KDIGOリスクがより高かった。

さらに、降圧薬の服用数と高血圧がより多い為、血圧コントロール不良がより多かった。

また、インスリン使用がより多く、メトホルミンとSU薬の使用がより少なかった。

SGLT2阻害薬群で「初期の大きなeGFR低下(>30%)」を経験した被験者は、SGLT2阻害薬群とプラセボ群で、それぞれ、1.4%(n=64)と0.9%(n=20)であり、非常に稀であった。

これらのベースライン特性は、dipper(>10%減少)と同等であったが、併存疾患と心血管リスク要因がより多い傾向があった。

eGFR変化率カテゴリーに応じたSGLT2阻害薬群のベースライン平均eGFR(ml/min/1.73m2)は、それぞれ、dipper(>10%減少):68.3±18.1、intermediate(>0%から≤10%の低下):79.5±22.9、non dipper(低下なし):72.9±20.6であった。

また、4週目の平均eGFRの変化は、それぞれ、dipper(>10%減少):–12.6±5.7、intermediate(>0%から≤10%の低下):–3.3±2.4、non dipper(低下なし):+ 5.4±5.7であった。

Kidney Int. 2021 Mar; 99(3): 750-762.

プラセボ群と比較した、SGLT2阻害薬群の「initial dip(初期のeGFR低下)」における、全体のオッズ比はOR 2.7(95%CI 2.3-3.0)となった。

ベースラインで「利尿薬の使用有(交互p<0.0001)」、「KDIGOリスク高(交互p=0.0183)」、「eGFR低下(交互p=0.0294)」では、有意な交互作用が認められ、initial dipのオッズ比がさらに高くなった。

多変量ロジスティック回帰分析により、「ベースラインでの利尿薬治療とKDIGOリスクのカテゴリー」が、SGLT2阻害薬の治療による「initial dip(初期のeGFR低下)」の独立した予測因子として特定された。

例えば、ベースラインで利尿薬治療が有り、KDIGOリスクがHighの場合、プラセボ群と比較したinitial dipのオッズ比は、OR 4.7(95%CI 2.9-7.7)となった。

ベースラインで利尿薬治療が無し、KDIGOリスクがLowの場合、プラセボ群と比較したinitial dipのオッズ比は、OR 1.6(95%CI 1.2-2.1)となった。

Kidney Int. 2021 Mar; 99(3): 750-762.

次に、特定された「initial dip(初期のeGFR低下)」の独立した予測因子のオッズ比を「OR ≦2.7と2.7>」に分類し、EMPA-REG試験の「心血管死、心不全による入院、腎イベント/腎の悪化」に与える影響を分析したところ、いずれも有意な交互作用は認められず、全体と一貫した結果が示された。

安全性は、KDIGOリスクのカテゴリー(Low、Moderate、High、Very high)とベースラインでの利尿薬治療の有無に分けて、全体の有害事象(AE)と腎臓関連のAE(AKI等)リスクを分析した。

ベースラインで利尿薬治療を受けている被験者は、そうでない被験者と比較して、全体と腎臓関連のAE発生率が高かった。

また、AE発生率はKDIGOリスクに比例して高くなった。

SGLT2阻害薬群のAE発生率は、プラセボ群より低いか、同等であった。

Kidney Int. 2021 Mar; 99(3): 750-762.

結論:

EMPA-REGアウトカム試験において、エンパグリフロジンで治療された被験者の約4人に1人は、ベースラインから4週目で初期のeGFR低下(>10%)を経験していたが、30%を超える初期のeGFR低下を経験した被験者は稀であった。

 

より進行したCKDステージ、および/またはベースラインで利尿薬治療を受けている被験者は、初期のeGFR低下(>10%)を経験する可能性が高かった。

 

しかしながら、2型糖尿病および心血管疾患の患者に対するSGLT2阻害薬の治療は安全であり、特定された「初期のeGFR低下」の予測因子に関わらず、長期の心血管および腎臓の転帰に影響を与えていないことが示された。

 

【参考情報】

オッズ比とリスク比の違い

https://best-biostatistics.com/contingency/odds_risk.html 

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