PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33251643/
タイトル:Effects of empagliflozin on renal sodium and glucose handling in patients with acute heart failure
<概要(意訳)>
背景:
SGLT2阻害薬は、心不全(HF)患者の臨床転帰を改善するが、そのメカニズムは未だ完全には理解されていない。
本研究では、(2型糖尿病の有無を含む)急性心不全患者の「ナトリウム排泄とブドウ糖排泄」等に対するSGLT2阻害薬の影響を調査した。
方法:
この研究は、EMPA-RESPONSE-AHF試験(二重盲検、プラセボ対照、ランダム化、多施設共同研究)の事前に定義されたサブグループ研究である。
被験者は、急性心不全による入院から24時間以内に、SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン10㎎/日、n=40)またはプラセボ(n=39)に30日間割り付けられた。
ブドウ糖とナトリウム等に関連した尿と血漿サンプルは、入院時のベースラインと入院後24時間、48時間、72時間、96時間、30日に測定された。
結果:
被験者のベースライン特性は、「年齢の中央値76歳(範囲38~89歳)、女性33%、NT-proBNPの中央値5,236(IQR 3,482~8,276)pg/mL、平均eGFR 54±17mL/min/1.73m2、血糖値の中央値7.8(IQR 6.2-8.9)mmol/L、2型糖尿病 33%」であった。
「ループ利尿薬の投与量、血管拡張薬または変力作用のある薬剤、またはガイドラインが推奨するHF治療薬の使用割合」には、SGLT2阻害薬群とプラセボ群で差がなかった。
また、ベースラインの血漿レニン濃度はプラセボ群で有意に高かったが、その他パラメーター(尿浸透圧、血漿浸透圧)は、2群間で差がなかった。
入院後48時間における「尿中Na濃度」は、プラセボ群と比較して、SGLT2阻害薬群で有意な低下が示された(79±44 vs 56±29 mmol/L、p=0.011)。
一方で、「尿中Na排泄分画(FENa:糸球体で濾過されたNa量の内、最終的に尿中排泄される割合)」は、どの時点においても、2群間で同等であった。
つまり、SGLT2阻害薬による治療で正味の「尿中Na濃度」は低下するが、糸球体で濾過されたNaが尿細管で再吸収される量は、プラセボと同等であることが示された。
同様に、「尿中Cl排泄分画」もSGLT2阻害薬による治療で低かったが、2群間で同等であった。
「尿中グルコース濃度」と「尿中FeGlu排泄分画(FeGlu)」ともに、プラセボ群と比較して、SGLT2阻害薬群はベースライン以降の全ての測定時で有意な増加を示した。
「尿中FeGlu排泄分画」のピークは、入院後24時間(0.1% vs 21.8%、p<0.001)であった。
しかしながら、血糖値レベルの変化は認められなかった。
また、SGLT2阻害薬群の2型糖尿病の有無で、「尿中FeGlu排泄分画」に差はなかった(p=0.182)。
Eur J Heart Fail. 2021 Jan;23(1):68-78.
さらに、SGLT2阻害薬群では、尿量をより有意に増加[48時間後の累積尿量:4,222±1,911mL、p=0.010、n=41]させ、その結果、体液バランスは有意に低下した[48時間後の累積体液バランス:-1,200(IQR -710~-2,425)mL vs -3,050(IQR -1,280-4,753)mL、p=0.010、n=38]。
また、SGLT2阻害薬群で有意な尿量の増加があったが、尿浸透圧への影響は認められなかった(尿1kg当たりの粒子数は変化しなかった)。
しかしながら、尿浸透圧を構成する成分(尿素、カリウム、ナトリウム、グルコース、その他)に有意な変化が見られ、プラセボ群と比較して、総粒子数に対するグルコースの割合が高かった。
入院後72時間における「血漿浸透圧」は、プラセボ群と比較して、SGLT2阻害薬群で有意な低下が示されたが、その他測定時(ベースライン、24h、48h、96h)では、2群間で同等であった。
Eur J Heart Fail. 2021 Jan;23(1):68-78.
「eGFR」は、プラセボと比較して、入院後72時間にかけて有意に減少し、96時間と30日目でeGFRの低下差は縮まった。
「SBP(収縮期血圧)」は、全ての測定時において、2群間で同等であった。
「血漿レニン濃度」は、入院後72時間後にピークを示し、その後、プラトーに達し、プラセボとの有意差はなくなった。
「血漿アルドステロン濃度」は、全ての測定時において、2群間で同等であった。
Eur J Heart Fail. 2021 Jan;23(1):68-78.
結論:
急性心不全患者において、SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン10㎎/日)は、尿中ナトリウム排泄率、尿浸透圧に影響を与えることなく、尿中グルコース排泄率の増加、(電解質を含まない水分排出量の増加に伴う)血漿浸透圧の一時的な増加をもたらし、一時的にeGFRを低下させた。
つまり、SGLT2阻害薬は急性心不全患者に対して、「ナトリウム利尿」ではなく、尿糖の増加に伴う「浸透圧利尿」を誘発することが示された。
【参考情報】
腎臓におけるナトリウム排泄の調節
urawaronso_055_067-099.pdf
SGLT2阻害薬の腎作用メカニズム
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gnam/39/2/39_173/_pdf
血漿レニン、アルドステロンの検査値