PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33550815/
タイトル:Empagliflozin Effects on Pulmonary Artery Pressure in Patients with Heart Failure: Results from EMpagliflozin Evaluation By MeasuRing ImpAct on HemodynamiCs in PatiEnts with Heart Failure (EMBRACE-HF) Trial
<概要(意訳)>
背景:
SGLT2阻害薬は、2型糖尿病(T2DM)患者の心不全(HF)入院を予防し、T2DMの有無に関係なく、HFrEFHF患者の臨床転帰を改善することが示されている。
しかしながら、そのベネフィットにおける機序は未だ明らかになっておらず、血行動態(充満圧)に対するSGLT2阻害薬の影響も不明である。
本研究(EMBRACE-HF試験)では、心不全患者の肺動脈圧に対するSGLT2阻害薬の影響を調査した。
方法:
EMBRACE-HFは、多施設共同ランダム化二重盲検プラセボ対照試験である。
2017年7月~2019年11月の間に、埋込式圧センサーで肺動脈圧をモニタリング(Cardio MEMSシステム)しているHF患者(左室駆出率とT2DMに関わらず)をSGLT2阻害薬(エンパグリフロジン10㎎/日)群とプラセボ群に無作為化し、12週間治療した。
主要評価項目は、「ベースラインから治療終了までの肺動脈圧の拡張期圧(PADP)の変化」とした[参考)肺動脈圧の基準値:収縮期圧30~15mmHg、拡張期圧8~2mmHg、平均18~9mmHg]。
副次的評価項目は、「KCCQ(カンザスシティ心筋症質問票)スコア、ナトリウム利尿ペプチド(BNP、NT-proBNP)、6分間歩行試験(6MWT)」とした。
結果:
全体として、93例がスクリーニングされ、65例(33例:SGLT2阻害薬群、32例:プラセボ群)がランダム化された。
ベースラインの特性は「平均年齢(66歳)、男性(63%)、2型糖尿病(52%)、NYHA分類III/IV度(54%)、平均EF(44%)、中央値NT-proBNP 637 pg/mL、平均PADP 22mmHg」であった。
ITT解析における肺動脈拡張期圧(PADP)の平均変化は、1週目からSGLT2阻害薬群で低下を示し、研究期間を通じてプラセボ群との差は増加し続けた。
8~12週におけるPADPの平均差は、プラセボ群と比較して、SGLT2阻害薬群は1.5(95%CI 0.2-2.8 )mmHgの有意な低下を示した(p=0.02)。
12週目のPADPの平均差は、プラセボ群と比較して、SGLT2阻害薬群は1.7(95%CI 0.3-3.2 )mmHgの有意な低下を示した(p=0.02)。
12週目に治験薬を中止後、13週目(安全性評価時)のPADPの平均差は、プラセボ群と比較して、SGLT2阻害薬群は1.9(95%CI 0.1-3.6 )mmHgの有意な低下を維持していた(p=0.03)。
サブ解析では、SGLT2阻害薬群とプラセボ群によるPADPの低下は、HFrEFとHFpEF患者で、(それぞれ、2.0mmHg vs 0.8mmHgの減少、交互p=0.38)一貫した結果を示し、他の項目[AFタイプ、年齢、性別、人種、RAS阻害剤(ANRI、ACE/ARB)、ループ利尿薬用量(>40mg、≦40mg)]も同様であった。
しかしながら、T2DMの有無では顕著な差が示された(それぞ、2.8mmHgの減少 vs 0.1mmHgの増加、交互p=0.02)。
2群間における平均ループ利尿薬(フロセミドの用量換算)の用量管理に差はなかった。
副次評価項目の「KCCQスコア、ナトリウム利尿ペプチドレベル、6分間歩行試験」では、2群間で有意な差はなかった。
Circulation. 2021 Feb 8. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.120.052503.
結論:
埋込式圧センサーで肺動脈圧をモニタリング(Cardio MEMSシステム)している心不全患者において、SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン10㎎/日)は治療1週目から12週目の治療期間にかけて肺動脈拡張期圧(PADP)をプラセボと比較して有意に低下し続けた。
また、この効果は、ループ利尿薬の管理と独立した影響であることが示された。
【参考情報】
肺動脈圧
http://plaza.umin.ac.jp/ivr-rt/test/4/matsumura_lecture.pdf
https://www.kango-roo.com/word/2654
肺動脈ワイヤレス・モニタリングの長期有効性を確認