急性心不全の入院患者におけるSGLT2阻害薬の有効性と安全性



PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35228754/ 

タイトル:The SGLT2 inhibitor empagliflozin in patients hospitalized for acute heart failure: a multinational randomized trial

<概要(意訳)>

背景:

SGLT2阻害薬は、慢性心不全患者の心血管死または心不全入院のリスクを軽減するが、急性心不全で入院した患者にも臨床転帰を改善するかどうかは未だ明らかになっていない。

本研究(EMPULSE試験)では、SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン)が急性心不全で入院した患者に対する有効性と安全性を評価した。

方法:

2020年6月から2021年2月までに、日本を含む15ヶ国118施設において合計566例がスクリーニングされ、心不全状態が安定した入院後少なくとも24時間後、遅くとも5日以内に、530例がエンパグリフロジン10㎎/日(265例)またはプラセボ(265例)に無作為に割り付けられ、最大で90日間治療された。

 

心不全状態が安定した定義は、「6時間以内の収縮期血圧が100mmHg以上かつ低血圧症状がない、6時間以内に利尿薬(静注)を増量していない、6時間以内に硝酸薬を含めた血管拡張薬(静注)を投与していない、24時間以内に強心薬(静注)を投与していない等」とした。

登録基準のNT-proBNP濃度は少なくとも1,600pg/mL、BNP濃度は少なくとも400pg/mL以上が必要であり、心房細動患者の場合は、NT-proBNP濃度は少なくとも2,400pg/mL、BNP濃度は少なくとも600pg/mL以上が必要であった。

利尿薬の治療は、フロセミド換算で最低40㎎(日本人患者では20㎎)の静注投与の必要があった。

 

主要な除外基準には、心原性ショック、心臓移植、eGFR20mL/min/1.73m未満または透析、ケトアシドーシスの既往患者等が含まれた。

 

有効性と安全性のパラメーターは、無作為化後の3日、5日、15日、30日、90日のフォローアップ時に評価した。

eGFR、ナトリウム利尿ペプチド、NYHA、カンザスシティ心筋症質問票(KCCQ)によるQOL評価は、15日、30日、90日のフォローアップ時に評価した。

 

主要評価項目は、「全死亡、心不全イベント数(心不全入院、予定外または緊急の外来受診)、初発の心不全イベントまでの期間、治療から90日後におけるカンザスシティ心筋症質問票総合症状スコア(KCCQ-TSS)のベースラインから5ポイント以上の改善」の階層的な複合評価項目における臨床的ベネフィットをwin ratio法(各群の患者状態をこのエンドポイント順で比較し、エンドポイントに先に達した方が負けとして勝率を比較する手法)により評価した。

結果:

年齢の中央値は71歳、34%が女性、78%が白人であった。

入院から無作為化までの期間(中央値)は、3日であった。

合計530例の有効性は、ITT (intention-to-treat)原則により評価された。

治験薬の早期中止は、114例(21.8%)[SGLT2阻害薬群:52例(20.0%)、プラセボ群:62例(23.5%)]で発生し、11(2.1%)例は追跡不能となった。

 

全死亡は、合計33例(6.2%)[SGLT2阻害薬群:11例(4.2%)、プラセボ群:22例(8.3%)]で発生した。

少なくとも1つの心不全イベントは、合計67例(12.6%)[SGLT2阻害薬群:28例(10.6%)、プラセボ群:39例(14.7%)]で発生した。

治療から90日後におけるカンザスシティ心筋症質問票総合症状スコア(KCCQ-TSS)の平均変化は、SGLT2阻害薬群で36.2(95%CI:33.3–39.1)、プラセボ群で31.7(95%CI:28.8– 34.7)であった。

 

win ratio法(各群の患者状態をこのエンドポイント順で比較し、エンドポイントに先に達した方が負けとして勝率を比較する手法)による階層的な複合評価項目は、53.9%がSGLT2阻害薬群で優れており、39.7%がプラセボ群で優れていた(引き分けは6.4%)。

SGLT2阻害薬の勝率は、1.36(95%CI:1.09–1.68)となり、SGLT2阻害薬の投与により臨床的ベネフィットを得られる確率はプラセボ投与よりも36%有意に高いという結果が示された(p=0.0054)。

Nat Med. 2022 Feb 28. doi: 10.1038/s41591-021-01659-1.

主要評価項目に対するSGLT2阻害薬の効果は、「心不全状態(新規/非代償慢性心不全)、糖尿病状態(糖尿病/非糖尿病)、年齢(70歳未満/以上)、性別(男/女)、地域(アジア/ヨーロッパ/北アメリカ)、NT-proBNP(中央値未満/以上)、eGFR(60以上/未満)、心房細動(有/無)、LVEF(HFrEF:EF≦40/HFpEF:EF>40)」を含む、事前にしたサブグループ間で有意な交互作用は観察されず、一貫していた。

Nat Med. 2022 Feb 28. doi: 10.1038/s41591-021-01659-1.

治験医の報告に基づく安全性において、

重篤な有害事象の発現率は、SGLT2阻害薬群で15.0%、プラセボ群で20.5%、

服用中止を要する有害事象は、それぞれ、8.5%と12.9%であった。

急性腎不全は、SGLT2阻害薬群で7.7%、プラセボ群で12.1%、

低血圧は、それぞれ、10.4%と10.2%、

低血糖は、それぞれ、1.9%と1.5%、

体液量減少は、それぞれ、12.7%と10.2%であった。

結論:

本研究では、急性心不全で入院した患者におけるSGLT2阻害薬(エンパグリフロジン10㎎/日)の治療介入は、忍容性が良く、治療後90日で臨床的なベネフィットが得られることが示唆された。

 

【参考情報】

主要評価項目(primary endpoint)を複合評価項目とすることについて

http://ikagaku.jp/archives/2961 

急性心不全へのSGLT2阻害薬に臨床的な利益

https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/hotnews/int/202111/572721.html 

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