虚弱状態別のHFpEF患者におけるSGLT2阻害薬の有効性



PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38158636/  

タイトル:Efficacy of empagliflozin in heart failure with preserved ejection fraction according to frailty status in EMPEROR-Preserved

<概要(意訳)>

目的:

虚弱(フレイル)は、世界の人口が高齢化し、以前は致命的であった病態がよりよく管理されるようになり、患者がより長く生存できるようになる一方で、併存疾患を合併するにつれて、より一般的になりつつある。

虚弱の正確な定義はない。

虚弱とは、身体の予備能力の低下をもたらす複数の生理学的・病理学的欠陥の組み合わせであることは、最近のレビューでも明らかである。

虚弱は、他の疾患の管理方法に影響を与える為、世界中の医療システムにおいて非常に関心が高まっている。

虚弱は心不全(HF)と診断されることが多く、駆出率が維持された心不全(HFpEF)は一般的に高齢者の疾患であるため、虚弱と関連する可能性はさらに高いと考えられる。

HF患者における虚弱は一般集団の6倍も多く、HFpEFでは平均年齢が高く、併存疾患の頻度も高いため、駆出率が低下した心不全(HFrEF)と比べてより併発しやすい。

HFは、骨格筋量や機能への影響だけでなく、認知機能を含む他のシステムにも影響を及ぼすなど、複数のメカニズムを通じて虚弱になりやすい。

これまでの研究で、SGLT2阻害薬は、リスクのある2型糖尿病患者だけでなく、糖尿病の有無にかかわらずHFrEF患者やHFpEF患者においても、心血管イベントや心不全による入院を効果的に減少させることが示されている。

 

SGLT2阻害薬は、糖尿病を対象とした試験で約2〜3kgの体重減少を引き起こすことが示されているため、骨格筋量が低下している虚弱患者に対する悪影響が懸念されている。

いくつかの報告では、虚弱の有無によるHFrEF患者に対するSGLT2阻害薬の影響の違いを明らかにしているが、虚弱の有無によるHFpEF患者に対するSGLT2阻害薬の影響に関する報告は限られている。

SGLT2阻害薬のエンパグリフロジンとダパグリフロジンは、HFpEF患者にとって有益であることが前向きアウトカム試験で証明されている唯一の薬剤であり、EMPEROR-Preserved試験において虚弱の影響を分析することにより、HFpEFに対するこれらの成功した治療法の1つであるエンパグリフロジンの影響を評価することは興味深い。

このことは、SGLT2阻害薬が糖尿病患者のカロリー減少をもたらし、全体として僅かではあるが一貫した体重減少をもたらすことを考えると、特に重要であろう。

従って、EMPEROR-Preserved試験のように、HFpEF患者のうち重症虚弱患者や虚弱高リスク患者を相当数リクルートした試験において、虚弱と予後の関係を分析することは重要である。

 

虚弱患者は非虚弱患者に比べ、ガイドラインに沿った薬物療法を受ける頻度が少ないが、これはおそらく薬物介入に対する耐性が低いと考えられるためであろう。

虚弱HF患者において、虚弱がHF治療の忍容性に及ぼす影響や、これらの治療法の相対的有効性を具体的に評価した報告は非常に限られている。

最近の論文では、HFpEF患者を対象としたダパグリフロジンのDELIVER試験における虚弱の影響を報告している。

HFpEF患者における虚弱の割合は高く、虚弱でなかったのは37.6%であった。

虚弱の程度が高いほど主要評価項目(CV死亡またはHFによる入院)の発生率が高いことが報告された。

虚弱の程度とダパグリフロジンの主要評価項目や副作用リスクの間に有意な交互作用はみられなかったが、著者らは、ベースラインからのKansas City Cardiomyopathy Questionnaire(KCCQ)の改善は、より虚弱な患者においてわずかに大きかったと報告している。

さらに、この論文では、追跡期間中の虚弱状態に対するダパグリフロジンの影響については報告されていない。

 

本研究の目的は、EMPEROR-Preserved試験において、虚弱が臨床転帰に及ぼす影響、虚弱がエンパグリフロジンの臨床効果に及ぼす影響、および経時的な虚弱状態に対するエンパグリフロジンの効果を評価することである。

 

方法:

我々の分析では、

欠損累積モデルのフレイル評価で最も知られているFrailty Indexを使用して虚弱状態を評価した。

このようなFI(Frailty Index)は、死亡率の信頼できる予測因子であることが示されている。

PARADIGM-HF試験やATMOSPHERE試験の解析のようなHFrEFにおける以前の研究では、臨床試験の患者データから得られた42項目のFIが用いられ、「0.21以下のスコアを非虚弱の閾値」とし、0.1刻みで2つの追加グループ、すなわち0.21〜0.31と0.31以上の3つのグループに細分化された。

今回のHFpEF患者を対象としたEMPEROR-Preserved試験の解析では、患者の年齢が高く、併存疾患も多かったため、患者を4つの虚弱状態[非虚弱(FI<0.21)、軽度虚弱(0.21以上から0.30未満)、中等度虚弱(0.30以上から0.40未満)、重度虚弱(0.40以上)]に分類した。

これにより、虚弱状態カテゴリー間の分布がより均等になり、虚弱の重症度が上がることによるエンパグリフロジン治療の影響をより詳しく知ることができる。

44のパラメータからなるFIを構築するために、併存疾患、臨床検査、QoL(生活の質)の観察、身体的制限やKCCQの15問(23問中)から得られた症状の状態に関するデータを、障害の代理尺度として混合して使用した。

全リストは表S1を参照。

カテゴリー変数は0/1(ない/ある)で採点し、順序変数は0~1の間で採点し、1が最悪、0が最高とした。

 

結果:

EMPEROR-Preserved試験では、無作為化された5,988例(全例)が本試験に組み入れられ、個々のFIが算出された。

44パラメータを用いたFIの分布を図1とS1に示す。

J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2023 Dec 29.

虚弱状態カテゴリー別のベースライン人口統計学的特徴および臨床的特徴を表1に示す。

患者の分布は、非虚弱1,514例(25.3%)、軽度虚弱2,100例(35.1%)、中等度虚弱1,501例(25.1%)、重度虚弱873例(14.6%)であった。

 

非虚弱患者と比較して、虚弱度が高い患者は、女性に多く、白人または黒人/アフリカ系アメリカ人に多く、アジア人には少なかった。

体格指数(BMI)が高く、SBPと脈圧が高い患者ほど、FIがより高値となることが多かった。

eGFRが低値、NT-proBNPが高値、NYHAクラスIII-IV度の患者は、虚弱レベルが高くなったが、LVEF(左室駆出率)は異なる虚弱レベルのカテゴリー間で同様であった。

また、空腹時血糖値が高いほど、虚弱レベルが高かった。

虚血性疾患やその他の合併症を有する患者は、虚弱レベルの高いカテゴリーに多くみられた。

虚弱レベルが高い患者ほど、KCCQで評価したQoLは低かった。

 

KCCQ-CSSスコア[身体的制限とKCCQ-TSS(総合症状スコア)からなる臨床サマリースコア]は、非虚弱で87.8±10.4点、軽度虚弱で77.3±13.9点、中等度虚弱で61.4±16.2点、重度虚弱で39.1±14.0点と、虚弱レベルが高くなるにつれて徐々に低くなった(傾向p値<0.001)。

KCCQ-TSSスコア[症状頻度と症状負担のドメインからなる総合症状スコア]とKCCQ-OSSスコア[KCCQ-CSSとQOL、社会的制限のドメインを組み合わせた総合サマリースコア]でも同様の結果が得られた。

 

虚弱レベルが高くなるほどβ遮断薬、利尿薬、脂質低下薬による治療が多かったが、RAS阻害薬、ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)の使用割合に有意な差はなかった。

しかし、このクラスで使用される薬剤タイプは、より虚弱レベルの高い患者群ではARBによる治療が多く、ARNIによる治療が少ないという傾向がみられた。

虚弱患者はより多くの薬剤を服用していた。

 

エンパグリフロジンの主要アウトカム(心血管死または心不全の入院による初発までの期間)のイベントは、より虚弱レベルの高い患者でより起こりやすく、プラセボ群に対するエンパグリフロジン群のハザード比は、それぞれ 、非虚弱で0.59(95%CI 0.42-0.83)、軽度虚弱で0.79(95%CI 0.61-1.01)、中等度虚弱で0.77(95%CI 0.61-0.96)、重度虚弱で0.90(95%CI 0.69-1.16)であり、全体0.79(95%CI 0.69-0.90)の結果と一貫していることが示された(傾向p値= 0.097)(表2、図S2)。

 

重要な副次評価項目である「心不全による入院(初回および再発)、「eGFR低下勾配(eGFRのベースラインからの変化の傾き)」に関しても、虚弱レベルに関わらず、エンパグリフロジンの一貫した結果がそれぞれ示された(傾向p値=0.077、傾向p値=0.159)(表2)。

同様に、EMPEROR-Preserved試験の他の副次評価項目(初回のHF入院、心血管死、全死亡)に対するエンパグリフロジンの影響は、FIカテゴリー間で一貫しており、虚弱レベルが重度になるほどその傾向が高かった(表S2)。

 

また、エンパグリフロジンは、ベースラインから52週目まで、KCCQ-CSSで評価したQoLをFIカテゴリー間で一貫して改善した(傾向p値= 0.778)(図S3)。

FIの時系列的変化の分析に用いた41の臨床変数を用いたFIカテゴリーによる感度分析でも、同様の結果が得られた。

J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2023 Dec 29.

腎複合エンドポイント[ベースライン時のeGFR 30mL/min/1.73m以上の場合は、eGFR 40%以上の持続的低下、または末期腎不全(慢性透析/腎移植)、またはeGFR 15mL/min/1.73m未満の持続的低下と定義。ベースライン時のeGFR 30mL/min/1.73m2未満の場合は、eGFR 10mL/min/1.73m2未満の持続的低下と定義。]に対するエンパグリフロジン治療効果とFIカテゴリー間に有意な交互作用(傾向p値=1.000)は認められなかった。

FI値の増加は、腎複合エンドポイントのリスク増加と関連していた(表S2)。

EMPEROR-Preserved試験の主要評価項目および副次評価項目に対するベースラインのFIカテゴリーの影響を、両治療群を合わせて解析した。

主要評価項目(CV死亡またはHHFの複合)の結果を示す。

見てわかるように、主要アウトカムのイベントは、虚弱レベルの高いカテゴリーで顕著に高くなっている。

非虚弱群と比較して、虚弱レベルが高い群では、主要アウトカムのイベント発生リスクが有意に高く(傾向p値<0.001[図2])、HFによる総入院(傾向p値<0.001[図3])、eGFRの経時的変化(傾向p値=0.002)についても有意に高かった。

FI値の増加は、心血管死、初発のHF入院、全死亡のリスクの増加とも関連していた(各傾向p値<0.001[図S4-S6])。

J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2023 Dec 29.

図4は、ベースラインから追跡期間中の3時点(12週時、32週時、52週時)におけるFI値が1クラス以上改善または1クラス以上悪化した場合のエンパグリフロジンとプラセボのオッズ比を示したものである。

FI値に対するエンパグリフロジンの治療効果は、経時的に有意に認められた。

プラセボ群と比較したエンパグリフロジン群のオッズ比は、12週時、32週時、52週時において、それぞれ、(1.12[95%CI 1.01-1.24]、p=0.030)、(1.21[95%CI 1.09-1.34]、p=<0.001)、1.20[95%CI 1.09-1.33]、p<0.001)となり、非虚弱のカテゴリーへの改善が有意に認められた(表3)。

 

レスポンダー解析では、ベースラインから12週時までの間にFIが1クラス以上改善した被験者の割合は、プラセボ群と比較してエンパグリフロジン群で有意な差が認められた(オッズ比:1.13[95%CI 1.00-1.28]、p= 0.046)、

しかし、同期間中にFI値が1クラス以上悪化した被験者の割合に有意な差は認められなかった。

 

32週時において、FIが1クラス以上の改善および1クラス以上の悪化は、プラセボと比較して、エンパグリフロジンに統計学的に有意であった。

1クラス以上の改善のオッズ比は、(1.15[95%CI 1.01-1.30]、p= 0.035)、1クラス以上の悪化のオッズ比は、(0.80[95%CI 0.69-0.91]、p= 0.001)となった。

J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2023 Dec 29.

AE(有害事象)は、予想通り、虚弱レベルが高くなるにつれて増加した。

特にSAE(重篤な有害事象)に関しては、軽度/中等度/重度の虚弱カテゴリーで、非虚弱群と比較して、虚弱群で有意に増加した。

尿路結石、性器感染症、低血圧など、SGLT2阻害薬で重要と考えられるいくつかの特異的なAEについては、エンパグリフロジンで発現率が高い傾向にあったが、虚弱カテゴリー間での交互作用は認められなかった(表4)。

J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2023 Dec 29.

考察:

このEMPEROR-Preserved試験の事後解析では、いくつかの重要な結果が報告された。

まず、この解析によりHFpEFには虚弱の頻度が高いこと、虚弱の重症度が高くなることは、女性が多く、BMIとSBPが高く、eGFRが低く、NT-proBNPが高く、NYHAクラスIII-IV(HFの重症度)が高いことと関連していることが確認された。

おそらく、このHFpEFの試験では、超高齢の虚弱患者はそれほど多くエントリーされなかった為であろう。

Rockwood氏の提案による欠損累積モデルのフレイル評価指標であるFI(Frailty Index)スコアを用いた過去の報告では、虚弱率(FI≧0.21と定義)は、HFrEFで50%、HFpEFで55~62%であったのに対し、EMPEROR-Preserved試験では74.7%であった。

 

DELIVER試験では患者の38%が非虚弱(FI<0.21)と考えられ、PARAGON-HF試験では45%であった。一方、EMPEROR-Preserved試験では、非虚弱の割合は25.3%に過ぎなかった。

従って、虚弱率は約75%であり、この試験は先行で実施されたHFpEF患者を対象とした2つの大規模臨床試験と比較して、かなり多くの虚弱患者をリクルートしたことになる。

このように虚弱の重症度が高くなったことが、今回の解析で4つのカテゴリーを定義し、DELIVER試験の重度虚弱(FI > 0.31)が23.8%であったのに対して、我々の解析では14.6%を占める重度虚弱(FI ≥ 0.40)を導入した理由である。

我々の報告では、39.7%の患者がFI値0.30以上であった。

従って、本報告は、過去の報告と比較して、重度の虚弱患者をより多くリクルートしているため、より著明な重度虚弱HFpEF患者の情報をより多く提供している。

このように古典的なFIレベルを3カテゴリーから4カテゴリーに増やしたことは、患者が高齢で併存疾患が多かったこと、また典型的なFIの最高値0.30を超える重症度を評定するためであることを考えれば、正当化できる。

しかし、FIは一般的に3つのカテゴリーでしか評価されていないため、将来のHFpEF患者を対象にした試験において、虚弱の重症度が高いグループでどのような変化があるかを検証する必要があるかもしれない。

 

第二に、HFpEFにおける虚弱がQoLの低下とその後の有害な臨床転帰の発生率に重大な影響を及ぼすことを示した。

ベースライン時のKCCQ-CSSスコアは、非虚弱で87.8±10.4点、軽度虚弱で77.3±13.9点、中等度虚弱で61.4±16.2点、重度虚弱で39.1±14.0点であり、DELIVER解析で用いられた3つのカテゴリー(75.3±18.5、67.9±20.0、57.9±20.6)や、以前のPARAGON-HFおよびDAPA-HFのフレイルリティ解析で報告されたものよりもかなり低く、重症度の範囲もかなり広かった。

 

全試験コホートにおいて、主要評価項目である「心血管死またはHFによる入院までの期間」は、虚弱レベルと有意に関連しており、虚弱レベルが高いほど主要アウトカムのイベント発生リスクが高くなることが示された。

虚弱の重症度と主要副次評価項目である「HF総入院」および「eGFRの低下勾配」との間にも同様の関係がみられた。

また、副次評価項目である「腎複合エンドポイント」は、虚弱の重症度の増加とともに有意に増加した。

DELIVER試験では、FIが高くなるにつれて腎臓の有害事象の頻度が高くなることが指摘されており、本試験においても腎臓の有害事象に虚弱が同様の影響を及ぼす可能性が示唆された。

 

第三に、我々は、SGLT2阻害薬に関する過去の報告よりも広い虚弱レベルにわたって、エンパグリフロジンの治療効果に関する重要な観察を行い、非常に重度の虚弱HFpEF患者やKCCQで評価した初期QoLが非常に不良な患者においても、エンパグリフロジンが臨床的有用性を維持することをより確信することができた。

虚弱はHF進行の有意な予測因子であることが報告されており、虚弱とHF間の悪循環が文献的に報告されている。

したがって、虚弱の重症度に関係なく、高リスクのHFpEF患者に有効な治療法があれば、提案されている複数の治療法や介入は十分な治療を受けていないHFpEF患者にとって、臨床的に有益である。

 

KCCQはHF患者のQoLを詳細に測定するもので、予後と相関があることが報告されている。

以前に示唆されたように、虚弱の増加はベースラインのKCCQスコアの悪化と関連し、予後も悪化した。

エンパグリフロジンはプラセボと比較して、DELIVER試験やPARAGON試験よりも重度の虚弱HFpEF患者が含まれたEMPEROR-Preserved試験においても、FIカテゴリー全体で一貫してKCCQスコアを増加(QOLを改善)させた。

 

HF入院に対するエンパグリフロジンの有益な効果は、症状頻度/負担/身体的制限の構成要素に好影響を与える能力を有し、KCCQ評価(自記式の質問表で、症状の頻度、症状の負担感と安定性、身体的制限、社会的制限、QOL、自己効力感の7領域に対応する23項目を0~100のスコアで定量化する)によるQoLの一貫した改善を一部説明する可能性がある。

KCCQスコアを使用することが、今回の報告で見られたFIの改善を引き起こすかどうかを検討する必要があるが、これは、すでにKCCQへの影響を報告していることから、KCCQをFIの一部として提示することが適切かどうかという概念的な観点と、KCCQの変化がFI改善の主要因かどうかという観点の両方から検討する必要がある。

 

EMPEROR-Preserved試験におけるKCCQへの影響は、既に報告されているにも関わらず、患者の症状や患者が報告する限界は、累積欠損のFIを導き出す重要な側面であるため、FIを作成する際に患者報告アウトカムにKCCQを使用することは依然として適切であると考えている。

KCCQの変化が改善の唯一の原因であるかどうかという疑問に関して、KCCQの15項目すべてをFIから除外する感度分析を行うことにより、この仮定を検証したところ、32週目と52週目に見られたFIの傾向に対して、エンパグリフロジンの有意な効果が依然として認められ、12週目には統計学的有意性はなくなったものの、同様の傾向が認められた(結果は示さず)。

これは、TOPCAT試験の虚弱解析でKCCQが39項目中15項目に寄与したのに対し、DAPA-HFの解析ではEQ-5D(32項目中5項目に寄与)のみが用いられたのと同様である。

 

DAPA-HF試験(およびDELIVER試験)の虚弱解析の論文では、32項目(または30項目)の患者報告項目のうち5項目しかFIに使用されておらず、FIの15.6~16.7%に過ぎないのに対して、我々の解析では34%、TOPCAT試験では38%が該当した。

KCCQも使用したPARADIGM-HF試験およびATMOSPHERE試験の虚弱解析では、42項目のうち15項目(36%)が使用されており、系統的な違いがある。

 

安全性に関しては、これまでの報告と同様に、SGLT2阻害薬の副作用イベント発生率は虚弱の重症化とともに増加した。

特に重篤な有害事象は、非虚弱群に比べ、すべての虚弱カテゴリーで有意に増加し、尿路感染症/性器感染症などいくつかの特定有害事象では、エンパグリフロジンに無作為に割り付けられた患者で発生率が高い傾向がみられたが、交互作用は認められなかった。

 

最後に、各評価時点におけるFIの1クラス以上の改善/悪化について、比例オッズモデルおよびレスポンダー分析により評価したところ、プラセボと比較して統計学的および臨床的に重要な改善が認められた。

ベースラインのFIだけでなく、その変化も年齢に関係なく死亡や入院のリスク上昇に関連することが、これまでのいくつかの報告から示唆されており、エンパグリフロジンのこの効果は有用であると考えられる。

 

この報告の長所は、HFpEFに有効であると同時に、虚弱状態を悪化させる可能性について懸念が表明されていた治療法を評価する臨床試験の一環として行われた前向き研究で、サンプルサイズが大きいことである。

FIはこれまでの研究で用いられてきた確立された方法であるため、今回の結果は、同様のアプローチで虚弱を評価してきた先行研究と比較することができる。

一方で、その限界も認識しなければならない。

限界としては、この解析に含まれた患者は臨床試験のために選ばれた患者であるため、一般人口を完全に代表するものではないこと、また、この解析は事後的な解析であり、事前に指定されたものではないことが挙げられる。

本論文で検討されたFIのカットオフ値0.3および0.4は、文献的に十分な検証がなされておらず、今後の研究でこれらのカットオフ値の適用性を検討すべきである。

EMPEROR-Preserved試験の追跡期間は、26ヵ月と長くなく、虚弱の時系列的な変化を長く保証することはできない。

 

結論:

エンパグリフロジンは主要な有効性アウトカムを改善したが、重度の虚弱患者では効果が減弱する可能性があった。

エンパグリフロジンは、追跡調査中の虚弱状態も改善した。

 

【参考情報】

Efficacy and Safety of Dapagliflozin According to Frailty in Patients With Heart Failure: A Prespecified Analysis of the DELIVER Trial

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36029465/ 

総論 フレイルの全体像を学ぶ 2. フレイルの評価方法と最新疫学研究

https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/frailty-yobo-taisaku/R2-2-2.html 

心不全患者のQOLへの影響:KCCQについて

https://pro.boehringer-ingelheim.com/jp/product/jardiance/chf-new-drug-treatment-for-hf-role-of-sglt2 

日本の心不全の現状とEMPEROR-Preserved試験の結果解説

https://pro.boehringer-ingelheim.com/jp/product/jardiance/chf-heart-failure-in-japan-emperor-preserved-results 

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