外来患者の処方に及ぼす病院フォーミュラリーの影響



PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35373631/   

タイトル:Influence of Hospital Formularies on Outpatient Prescribing Practices: Analysis of the Introduction of a Local Formulary: A Single-Center, 2-Year Follow-Up, Retrospective Cohort Study of a Local Formulary in Japan

<概要(意訳)>

目的:

病院フォーミュラリーが外来処方と治療費に与える影響を評価して、患者のケアと医療費を最適化する地域フォーミュラリーを確立するためのガイドを提供する。

 

方法:

今回のレトロスペクティブコホート研究は、戸田中央メディカルケアグループ(TMG)施設である新座病院の回復期リハビリテーション病棟に入院した患者を対象とした。

 

TMG薬剤師350名の中から、くすり情報、感染症、精神科、地域医療などの経験者を中心に、フォーミュラリーを運営する10名の薬剤師チーム(フォーミュラリー薬剤師)を形成した。

これらの薬剤師が作成した医薬品リストの原案は、TMGの各病院における薬事審議会で承認された後、フォーミュラリーが導入された。

薬事審議会は、病院長、薬事審査委員会委員長(医師)、医師8名、事務長、看護部長、薬剤師長1名、新座病院事務員2名で構成されている。

 

フォーミュラリー薬剤師は、システマティックレビューを実施するか、コクランライブラリーの中心的データベースであるCDSR(Cochrane Database of Systematic Reviews)を使用して包括的な情報を収集し、それらを使用して医薬品を客観的に評価し、医薬品採用の優先順位を作成した。

その後、TMGの薬剤師がフォーミュラリードラフトに基づいてシステムを導入した。

Inquiry. 2022 Jan-Dec;59:469580221087876.

フォーミュラリーに基づいて、薬剤師が投薬の変更が必要であると判断した場合、薬剤師は処方薬を提案し、医師に同等の用量を示した。

その後、医師が処方した薬剤を服用した患者の状態を薬剤師と看護師は連携してフォローアップ(平均90日)した。

 

2017年4月から2018年3月の間に、新座病院の回復期リハビリテーション病棟に入院した患者の入院時に使用されたフォーミュラリー推奨薬のデータを使用した。

2017年4月から2019年3月までの外来処方データを追跡データとして利用した。

データは、電子カルテではなく医薬品管理システムを使用して収集された。

 

フォーミュラリーに基づいて投薬を変更した患者を選択し、その中で退院時に処方箋が変更されていない患者をフォーミュラリー導入患者(n = 154)と定義した。

フォーミュラリー推奨薬を処方されてから半年以内に再来し、処方薬を継続して服用している患者をフォーミュラリー継続患者と定義した。

 

薬価は、入院時に服用した薬、退院時に処方された薬、退院後に新座病院を再受診したときに処方された薬の国民健康保険料に基づいて計算された。

1 日の総投薬費用は、患者 (n=154) が服用した753枚の処方箋の合計として定義された。

RASとCCBの配合剤におけるRASコストは、配合剤の薬価からCCBジェネリックの最低薬価を引いて算出した。

データは、2020年10月23日の1ドル=104.76円で換算され、日本円とドルで表示した。

 

今回の研究では、患者数の不均衡と非劣性試験を実施する患者数の確保が困難な為、フォーミュラリー導入群と非導入群の比較分析は実施しなかった。

 

結果:

183例の入院患者の内、154例(男性76例/女性78例、年齢の中央値78歳、入院期間の中央値89日)は、フォーミュラリーの登録対象となった。

154例(324枚の処方箋)の内、297枚(92%)の処方箋は、フォーミュラリー推奨薬が代替薬として処方され、27枚(8%)の処方箋は、入院中に新規薬剤が導入された時点で、フォーミュラリー推奨薬が処方された。

薬剤師によって提案された医師の代替薬受け入れ率は100%であり、入院中に薬剤は切り替えられなかった。

 

フォーミュラリー登録対象となった154例の内、19例は6ヶ月以内に新座病院を再来したが、その他の患者は診療所や他病院でフォローアップされた。

新座病院を再来した19例に処方されたフォーミュラリー推奨薬は継続されていた。

 

154例の内、67例は入院時にRASを服用しており、46例(69%)は、先発品のARBを服用していた。

40例は後発品のエナラプリルに切り替えられ、35例は後発品のイミダプリルに切り替えられた。

 

46例は入院時にHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系高脂血症治療薬)を服用しており、その内28例(61%)は先発品を服用していた。

退院時には、22例は後発品のアトルバスタチンに切り替えられた。

 

80例は入院時にCCBを服用しており、14例(18%)は先発品を服用していた。

退院時には、74例は後発品のアムロジピンに切り替えられた。

 

11例は入院時にキサンチン酸化還元酵素阻害剤(XOR)を服用しており、8例(73%)は先発品を服用していた。

退院時には、15例は後発品のアロプリノールに切り替えられ、1例は元のフェブキソスタット(商品名:フェブリク)を処方された。

 

81例は入院時にPPIを服用しており、24例(30%)は先発品を服用していた。

退院時には、87例は後発品のランソプラゾールに切り替えられた。

 

7例は入院時にα-GIを服用しており、2例(29%)は先発品を服用していた。

退院時には、8例は後発品のボグリボースに切り替えられたが、1例は新規の処方であった。

 

入院時から退院時のフォーミュラリー推奨薬の用量変化を表2に示す。

RASの場合、エナラプリルの用量は、10.7±5.0 mgから7.2±2.6 mgと有意に変化した(p <.001)が、他の薬剤の用量に有意な用量の変化はなかった。

 

HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系高脂血症治療薬)の場合、アトルバスタチンの用量は、7.8±3.9 mgから7.0±3.2 mgと有意な変化はなかった(p=0.124)。

CCBの場合、アムロジピンの用量は、5.7±3.1mgから5.4±3.0 mgと有意な変化はなかった(p=0.442)。

XOR(キサンチン酸化還元酵素阻害剤)の場合、アロプリノールの用量は、73.3±62.3mgから96.7±48.1 mgと有意な変化はなかった(p=0.086)。

PPIの場合、ランソプラゾールの用量は、15.9±7.0 mgから15.2±3.6 mgと有意な変化はなかった(p=0.408)。

α-GIの場合、ボグリボースの用量は、0.5±0.2 mgから0.6±0.1 mgと有意な変化はなかった(p=0.317)。

Inquiry. 2022 Jan-Dec;59:469580221087876.

入院時と退院時の薬剤コストと差額を表3に示す。

入院時における1日当たりの全体コストは14,567.5円(N=154、患者1人の1日コストは94.6円)であったが、退院時における1日当たりの全体コストは5,930.6円(N=154、患者1人の1日コストは38.5円)となり、有意なコスト低下が示された(差額−8636.9円: p<0.001)。

 

薬剤クラスでは、RAS、HMG-CoA還元酵素阻害薬、PPIにおける退院時と入院時の差額は、それぞれ、−4773.4円(p<0.001)、−1800.9円(p<0.001)、−1974.1円(p<0.001)となり有意なコスト低下が示された。

一方で、CCBに関しては、退院時と入院時の差額は、124.3(p=0.026)となり有意なコスト増加が示された。

XOR(キサンチン酸化還元酵素阻害剤)とα-GIに関しては、有意な差はなかったが、それぞれ、−179.3円(p=0.061)、−85.7円(p=0.655)となり減少傾向が示された。

Inquiry. 2022 Jan-Dec;59:469580221087876.

結論:

病院フォーミュラリーの推奨薬は、退院後も継続され、外来処方に関連するコストの大幅な削減を促進した。

病院フォーミュラリーの導入は、地域フォーミュラリー導入の基礎となり、地域の医療費削減に寄与する。

 

【参考情報】

戸田中央メディカルケアグループ(TMG) 薬剤部 フォーミュラリー

https://www.tmg.or.jp/pharmacist/drug-info/formulary-evidence/ 

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