PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34593566/
タイトル:Kidney Outcomes Associated With SGLT2 Inhibitors Versus Other Glucose-Lowering Drugs in Real-world Clinical Practice: The Japan Chronic Kidney Disease Database
<概要(意訳)>
背景:
ランダム化比較試験は、SGLT2阻害薬の腎臓保護効果を示しており、臨床診療データベースは、これらの効果が臨床診療で期待できることを示唆している。
しかしながら、尿蛋白の有無、および治療開始前のeGFR低下有無でSGLT2阻害薬の治療効果が変化するかどうかは、CKD合併2型糖尿病患者では不明である。
方法:
全国多施設CKDレジストリであるJ-CKD-DB(慢性腎臓病患者に関する包括的データベース)を使用して、SGLT2阻害薬(カナグリフロジン、ダパグリフロジン、エンパグリフロジン、イプラグリフロジン、ルセオグリフロジン、トホグリフロジン)と他の血糖降下薬を開始した患者を1:1で傾向スコアマッチング(血糖降下薬の開始から12ヶ月以内にフォローアップから脱落した被験者は除外)を行った。
一次転帰には「eGFR低下率」が含まれ、二次転帰には「50%以上のeGFR低下または末期腎不全(eGFR<15 mL/min/1.73 m2)の複合転帰」が含まれていた。
eGFRの勾配分析には、少なくとも2つのindex date(SGLT2阻害薬の初期治療または追加治療の開始日)後の評価が必要であり、最初の評価はindex dateから120日以内に実施され、最後の評価はindex dateから180日以降に実施された。
結果:
傾向スコアマッチングにより、SGLT2阻害薬では1,033例の新規治療群、他の血糖降下薬では1,033例の新規治療群が含まれた。
全体における治療開始時の患者特性は、「平均年齢64.4歳、女性777例(37.6%)、平均HbA1c 7.8%、平均eGFR 68.1 mL/min/1.73 m2、eGFR60未満549例(26.6%)、尿蛋白あり578例(28.0%)、ACE阻害薬/ARBあり926例(44.8%)」であった。
DPP-4阻害薬(69.7%)、メトホルミン(54.2%)、SU薬(24.8%)は、他の血糖降下薬として最も頻繁に使用されていた。
平均フォローアップ期間は、SGLT2阻害薬で21.0±9.8ヶ月、他の血糖降下薬で19.5±10.4ヶ月であった。
「治療開始前」におけるeGFRの平均年間変化率(mL/min/1.73m2)は、
SGLT2阻害薬で、-1.3±4.4
他の血糖降下薬で、-1.4±7.2
であり、
「治療開始後」におけるeGFRの平均年間変化率(mL/min/1.73m2)は、
SGLT2阻害薬で、-0.47(95%CI -0.63〜-0.31)
他の血糖降下薬で、-1.22(-1.41〜-1.03)
eGFR低下率のグループ間差は、0.75(0.51〜1.00)となり、
SGLT2阻害薬の方がeGFR低下率を有意に抑制していた(p<0.001)。
Diabetes Care. 2021 Nov;44(11):2542-2551.
「尿蛋白[ディップスティック1+(30 mg/dL)以上]のあり」で検討したeGFRの平均年間変化率(mL/min/1.73m2)は、
SGLT2阻害薬で、-0.51(95%CI -0.83〜-0.19)
他の血糖降下薬で、-1.15(-1.56〜-0.75)
eGFR低下率のグループ間差は、0.65(0.13〜1.16)となり、
SGLT2阻害薬の方がeGFR低下率を有意に抑制していた(p=0.014)。
「尿蛋白のなし」で検討したeGFRの平均年間変化率(mL/min/1.73m2)は、
SGLT2阻害薬で、-0.45(95%CI -0.63〜-0.27)
他の血糖降下薬で、-1.25(-1.46〜-1.03)
eGFR低下率のグループ間差は、0.80(0.52〜1.07)となり、
SGLT2阻害薬の方がeGFR低下率を有意に抑制していた(p<0.001)。
「治療前に急速な腎機能低下(≧-3.0 mL/min/1.73 m2/年)のあり」で検討したeGFRの平均年間変化率(mL/min/1.73m2)は、
SGLT2阻害薬で、-0.73(95%CI -1.06〜-0.39)
他の血糖降下薬で、-0.60(-0.99〜-0.20)
eGFR低下率のグループ間差は、-0.13(-0.65〜0.39)となり、
有意な差はなかった。
「治療前に急速な腎機能低下(≧-3.0 mL/min/1.73 m2/年)のなし」で検討したeGFRの平均年間変化率(mL/min/1.73m2)は、
SGLT2阻害薬で、-0.37(95%CI -0.55〜-0.20)
他の血糖降下薬で、-1.49(-1.70〜-1.27)
eGFR低下率のグループ間差は、1.12(0.84〜1.39)となり、
SGLT2阻害薬の方がeGFR低下率を有意に抑制していた(p<0.001)。
「eGFR<60」で検討したeGFRの平均年間変化率(mL/min/1.73m2)は、
SGLT2阻害薬で、-0.14(95%CI -0.51〜0.22)
他の血糖降下薬で、-0.89(-1.28〜-0.50)
eGFR低下率のグループ間差は、0.74(0.21〜1.28)となり、
SGLT2阻害薬の方がeGFR低下率を有意に抑制していた(p=0.006)。
「eGFR≧60」で検討したeGFRの平均年間変化率(mL/min/1.73m2)は、
SGLT2阻害薬で、-0.55(95%CI -0.73〜-0.38)
他の血糖降下薬で、-1.33(-1.55〜-1.11)
eGFR低下率のグループ間差は、0.78(0.50〜1.05)となり、
SGLT2阻害薬の方がeGFR低下率を有意に抑制していた(p<0.001)。
「65歳未満」で検討したeGFRの平均年間変化率(mL/min/1.73m2)は、
SGLT2阻害薬で、-0.72(95%CI -0.93〜-0.50)
他の血糖降下薬で、-1.38(-1.67〜-1.09)
eGFR低下率のグループ間差は、0.66(0.30〜1.03)となり、
SGLT2阻害薬の方がeGFR低下率を有意に抑制していた(p<0.001)。
「65歳以上」で検討したeGFRの平均年間変化率(mL/min/1.73m2)は、
SGLT2阻害薬で、-0.12(95%CI -0.35〜0.11)
他の血糖降下薬で、-1.08(-1.32〜-0.83)
eGFR低下率のグループ間差は、0.95(0.62〜1.29)となり、
SGLT2阻害薬の方がeGFR低下率を有意に抑制していた(p<0.001)。
「ACE阻害薬/ARBあり」で検討したeGFRの平均年間変化率(mL/min/1.73m2)は、
SGLT2阻害薬で、-0.60(95%CI -0.83〜-0.36)
他の血糖降下薬で、-1.58(-1.86〜-1.31)
eGFR低下率のグループ間差は、0.99(0.63〜1.35)となり、
SGLT2阻害薬の方がeGFR低下率を有意に抑制していた(p<0.001)。
「ACE阻害薬/ARBなし」で検討したeGFRの平均年間変化率(mL/min/1.73m2)は、
SGLT2阻害薬で、-0.36(95%CI -0.57〜-0.15)
他の血糖降下薬で、-0.87(-1.14〜-0.61)
eGFR低下率のグループ間差は、0.51(0.18〜0.85)となり、
SGLT2阻害薬の方がeGFR低下率を有意に抑制していた(p=0.003)。
Diabetes Care. 2021 Nov;44(11):2542-2551.
フォローアップ期間中に、腎複合イベント(50%以上のeGFR低下と末期腎不全)は、SGLT2阻害薬で30件[14/1,000人年]、他の血糖降下薬で73件[36/1,000人年]発生した。
「腎複合イベント」の累積発生率は、SGLT2阻害薬グループよりも他の血糖降下薬グループの方が高く、「50%以上のeGFR低下」と「末期腎不全」の各イベント累積発生率においても同様であった(全Log-rank p<0.001)。
また、(他の血糖降下薬に併用した)SGLT2阻害薬の腎複合イベントリスクは、他の血糖降下薬と比較して、有意に低かった[HR0.40(95%CI 0.26-0.61);p<0.001]。
この結果は、「尿蛋白の有無、治療前の急速な腎機能低下、eGFR<60/≧60、65歳未満/以上、ACE阻害薬/ARBの使用有無」で検討しても、交互作用は認められず、一貫した効果が示された。
Diabetes Care. 2021 Nov;44(11):2542-2551.
結論:
日常診療では、SGLT2阻害薬を投与されたCKD合併2型糖尿病患者は、尿蛋白の有無や治療開始前のeGFR低下率に関わらず、他の血糖降下薬を投与された患者よりも腎転帰が有意に良好であることが示された。
これらのデータは、無作為化試験の結果を補完するものであり、臨床試験で観察された腎機能に対するSGLT2阻害薬の利点は、より広範な日常診療の患者集団に適用できる可能性を示唆することだろう。
【参考情報】
J-CKD-DBについて
尿検査の蛋白プラスマイナスの意味は?