アジア11地域の心不全患者におけるカリウム異常



PubMed URLhttps://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31851416/

タイトル: Potassium Abnormalities in Patients With Heart Failure From 11 Asian Regions: Insights From the ASIAN-HF Registry

<概要(意訳)>

背景:

血清カリウム濃度の異常(低カリウム血症、高カリウム血症)は心不全(HF)患者によくみられ、ガイドライン推奨の治療薬の中止や減量、有害転帰と関連している。 その為、現在のHFガイドラインでは、血清カリウム濃度の頻回なモニタリングを推奨している。 世界人口の60%以上がアジアに居住しているが、アジア人HF患者のカリウム異常に関するデータは乏しく、HF患者のカリウム異常の有病率と臨床アウトカムに関するこれまでの研究の大半は西洋からの報告であった。 糖尿病や慢性腎臓病などのカリウム異常の危険因子は、アジア人HF患者の間で特に高い有病率であるが、カリウム異常に対するアジアの知見は乏しい。よって、アジア人HF患者のカリウム異常の有病率、予測因子、および臨床転帰を調査した。

方法:

アジア11地域(中国、香港、インド、インドネシア、日本、マレーシア、フィリピン、シンガポール、韓国、台湾、タイ)の46施設から合計6,480人のHF患者が、ASIAN‐HFレジストリーに登録された。 登録基準は、18歳以上、少なくとも過去6ヶ月に非代償性HFを発症し、入院または外来で治療された症候性HF患者とした。 除外基準は、弁膜症が原因の心不全、平均余命が1年未満の場合、および/または同意が得られない患者とした。 合計5054人(78%)の患者が、登録時に測定された血清カリウム値を記録した。 血清カリウム測定を行わなかった患者(n = 1,426)と比較して、血清カリウム測定を行った患者は、より高齢で併存症が多く、推算糸球体濾過量(eGFR)は同等であった。また、アンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACEi/アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)と鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(MRA)の治療頻度は少なかったが、β遮断薬とループ利尿薬の治療頻度は高かった。 すべての参加施設で、低カリウム血症と高カリウム血症の定義は、それぞれ<3.5 mmol / L> 5.0 mmol / Lとした。 更に、高カリウム血症は、軽度(> 5.0 – <5.5 mmol / L)と中程度/重度(≥5.5mmol / L)に分類した。 主要評価項目は、「1年以内のHF再入院と全ての原因による死亡の複合」であり、Cox比例ハザードモデルを適用して解析した。 血清カリウム濃度とHFサブタイプ間においては、交互作用検定を行った。 全ての検定は両側検定を行い、P<0.05を統計的に有意であると定義した。

結果:

5054人の患者(平均年齢:62歳、女性:27%、HFrEF81%)の血清カリウム濃度は、2.3 – 8.0 mmol / Lの範囲で、平均は4.2±0.56 mmol / Lであった。 低カリウム血症は342人(6.8%)、高カリウム血症は356人(7.0%)に認められた。全体で合計98人の患者(1.9%)に、中等度/重度の高カリウム血症(≥5.5mmol / L)が認められた。 高カリウム血症、または低カリウム血症の患者における心不全の重症度(NYHA分類)は、正常カリウム血症の患者と同等であった(P =0.14)。 高カリウム血症の患者はMRAでの治療頻度が低く、正常カリウム血症の患者はACEi / ARBでの治療頻度が高く、低カリウム血症の患者はループ利尿薬での治療頻度が高かった(全てのP <0.05)。 低カリウム血症は、インドネシア(19.7%)、香港(17.5%)、および台湾(10.2%)の患者で最も多かった。一方で、高カリウム血症は、HFサブタイプに関係なく、インド(12.7%)とタイ(10.6%)の患者で最も多かった(両方の交互作用P> 0.5)。 中等度から重度の高カリウム血症の患者では、軽度の高カリウム血症と比較してMRAの使用がわずかに低かった(35%対46%、P = 0.048)。 これらの地理的差異は、年齢、性別、NYHA分類、eGFR、糖尿病の既往、入院または外来患者、ACEi / ARBMRA、β遮断薬、ループ利尿薬の使用などの交絡因子補正した多変量解析でも有意であった。 多変量ロジスティック回帰分析の結果、「糖尿病、腎障害、弱いHFの他覚症状と自覚症状、血清ナトリウム濃度の低下、ループ利尿薬の未使用」が高カリウム血症と関連していた。 低カリウム血症の患者は、「女性、高い心拍数、強いHFの他覚症状と自覚症状、ループ利尿薬の使用」が関連していた。 主要評価項目の「1年以内のHF再入院と全ての原因による死亡」は、合計1001人(21.7%)の患者に発症した。 低カリウム血症は、HFサブタイプに関係なく、有害転帰と関連していた[ハザード比(HR1.46; 95%信頼区間(CI1.17–1.81; P = 0.001; 交互作用P > 0.5]交絡因子の補正後においても、低カリウム血症は一貫して有害転帰と有意に関連していた(HR 1.28; 95CI 1.02–1.61; P = 0.035)。 主要評価項目に対するHRが最も低いカリウム濃度を(4.9 mmol / L)を参照(HR1)とし、多変量で調節した3次スプライン解析においても、低カリウム血症は、有害転帰と関連していた。対照的に、ベースラインにおける高カリウム血症は、有害転帰と関連していなかった(HR 0.86; 95CI 0.66–1.12; P = 0.259)。 アジア人HF患者のカリウム異常に関する本研究では、低カリウム血症(6.8%)と高カリウム血症(7.0%)の全体的な有病率は、西洋から報告された結果と同様であった。しかしながら、アジア内のカリウム異常は、併存疾患、腎機能、HF治療薬の違いと関係なく、地理的差異が観察された。 これらの結果は説明できないが、医療システムや地域の慣習の違いが反映している可能性がある。 HFのアジア人患者におけるカリウム異常の臨床的相関は、西洋およびヨーロッパからの報告と同様であり、アジアの地理的領域間で異ならなかった。た。 3次スプライン分析に基づいた我々の結果は、血清カリウム濃度が低いほど有害転帰が増加することを示し、これは米国の過去の報告と一致しており、U字型の関連を報告した過去の研究(補足:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29025765/)とは対照的であった。

結論:

血清カリウム濃度の異常はアジアのHF患者によくみられ、顕著な地域差が認められた。 低カリウム血症は、インドネシア(19.7%)、香港(17.5%)、台湾(10.2%)のHF患者でより高い有病率が観察された。高カリウム血症は、インド(12.7%)とタイ(10.6%)のHF患者で観察された。ベースラインでの低カリウム血症は、1年以内のHF再入院と全ての原因による死亡のリスク増加と関連していた。

【参考情報】低カリウム血症を認めたときに、鑑別すべきこと

https://www.jhf.or.jp/pro/hint/c4/hint014.html

Sponsored Link




この記事を書いた人