日本人心房細動患者の血中NT-proBNP値による有害転帰の予測



PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32418966/ 

タイトル:Prognostic Value of Serum N-Terminal Pro-Brain Natriuretic Peptide Level Over Heart Failure for Stroke Events and Deaths in Patients With Atrial Fibrillation

<概要(意訳)>

背景:

心房細動(AF)と心不全(HF)は、合併する頻度が高い。

本研究では、血中NT-proBNP値の上昇に関連する要因と、日本人AF患者の有害転帰に与える影響をHF合併の有無、または血中NT-proBNPレベルの四分位範囲(IQR)間との関連を調査した。

方法:

SAKURA AF Registry(登録期間:2013年9月~2015年12月、参加施設:東京都北部を中心とした63施設、対象:ワルファリン、またはDOACsを服用している20歳以上の非弁膜症性AF患者3,267例)のサブ解析を行った。

結果:

SAKURA AF Registryに登録された3,267人の内、30人はフォローアップ期間に脱落し、3,237人(HF合併AF患者:718人、HF非合併AF患者:2,519人)が分析対象となった。

追跡期間の中央値は、39.3(IQR 28.5-43.6)ヶ月であった。

カプランマイヤー分析により、HF合併の有無におけるAF患者の有害転帰(Log-rank検定)は、脳卒中/ 全身性塞栓症(p=0.693)、または大出血(p=0.721)に有意な差はなかったが、全ての原因による死亡(p<0.0001)とネットクリニカルイベント(p <0.0001)には有意な差があった。

ベースライン時の血中BNP値(換算式:NT-proBNP=BNP1.341-15)、またはNT-proBNP値を記録できたのは、登録者3,267人の内、2,417人であった。

その血中NT-proBNPの中央値は、508.2(IQR 202.0-1094.8)pg/mLであった。

NT-proBNP値が記録された2,417人における追跡期間の中央値は39.7(IQR29.4-43.9)であった。

この追跡期間中の有害転帰の内訳は、155人(2.1/100人年)が死亡、107人(1.5/100人年)が脳卒中/ 全身性塞栓症、93人(1.3/100人年)が大出血、285人(3.9/100人年)がネットクリニカルイベントであった。

155人の死亡の内訳は、60人は血管死、72人は非血管死、23人は原因不明であり、60人の血管死の内、24人は心不全が原因であった。

カプランマイヤー分析により、血中NT-proBNP(pg/mL)の四分位範囲[< 202 (reference)、202-508、509-1095、> 1095]間の有害転帰(Log-rank検定)は、大出血を除いた、全ての原因による死亡(p<0.001)、脳卒中/全身性塞栓症(p=0.027)、ネットクリニカルイベント(p<0.001)に有意な差があった。

Cox回帰分析(性別、年齢、BMI、AFタイプ、高血圧、糖尿病、心不全の既往、脳卒中/ TIAの既往、虚血性心疾患の既往、AFアブレーションの既往、DOACの使用、抗血小板薬の使用、抗不整脈薬の使用、貧血、腎障害で調整)により、血中NT-proBNP(pg/mL)の四分位範囲[< 202 (reference)、202-508、509-1095、> 1095]における最低値に対する最高値の有害転帰(死亡、脳卒中/全身性塞栓症、大出血、ネットクリニカルイベント)の調整ハザード比(HR)[(95%CI)、p値]は、

死亡:2.87 [(1.52-5.43)、p=0.0011]

脳卒中/全身性塞栓症:2.39 [(1.51-4.95)、p=0.0193]

大出血:1.15 [(0.54-2.43)、p=0.7151]

ネットクリニカルイベント:2.22[(1.43-3.46)、p=0.0004]

の結果となり、死亡・脳卒中/全身性塞栓症・ネットクリニカルイベントは有意に高くなったが、大出血には有意な差はなかった。

また、非発作性心房細動と比較した発作性心房細動の調整ハザード比(HR)[(95%CI)、p値]は、

死亡:1.27 [(0.83-1.93)、p=0.2935]

脳卒中/全身性塞栓症1.22 [(0.73-2.03)、p=0.4399]

大出血:0.91 [(0.52-1.57)、p=0.7242]

ネットクリニカルイベント:1.16 [(0.85-1.58)、p=0.3487]

の結果となり、各有害転帰で有意な差はなかった。

結論:

多変量回帰分析により、血中NT-proBNP(pg/mL)値の上昇に関連する主な要因は、非発作性心房細動、腎機能障害(CCr<60 ml/分)、β遮断薬の使用であった。

心不全を合併したAF患者の「死亡リスク」は有意に高くなり、血中NT-proBNP値が最高値(> 1095)であるAF患者の「死亡と脳卒中/全身性塞栓症のリスク」は、最低値(< 202)に比し有意に高くなった。

血中NT-proBNP値の測定は、抗凝固療法が必要な日本人AF患者の「死亡と脳卒中/全身性塞栓症のリスク」を層別化するのに役に立つことが分かった。

血中NT-proBNP値が上昇したAF患者は、注意深く観察していく必要があり、有害転帰を予防する為にAFアブレーションを含む治療介入を検討すべきである。

【参考情報】

多変量回帰分析:科学論文を読み解くための基礎知識

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsei/29/4/29_240/_pdf/-char/ja

BNPNT-proBNP

https://www.kyorin-pharm.co.jp/prodinfo/useful/doctorsalon/upload_docs/190863-1-01.pdf

Sponsored Link




この記事を書いた人