急性非代償性心不全で入院した高齢患者に対する早期リハビリテーションの効果



PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32956621/ 

タイトル:Early rehabilitation in older patients hospitalized with acute decompensated heart failure: A retrospective cohort study

<概要(意訳)>

背景:

急性非代償性心不全(ADHF)で入院した患者の身体機能は著しく低下しているが、早期リハビリテーションと後期リハビリテーションの有効性を比較したデータはほとんどない。

本研究では、ADHFで入院した高齢患者に対するリハビリテーション介入時期と身体機能との関係を調査した。

方法:

この後ろ向きコホート研究では、2012年から2014年の間にADHFで入院した65歳以上の患者とリハビリテーション介入した患者を、それぞれ、2施設の病院における救急科受診データと電子医療記録によって特定された。

 

主要評価項目は、「入院後30日以内における少なくとも40mの自立歩行の達成率」とした。

副次評価項目は、「入院後30日以内における50m以上の自立歩行の達成率」とした。

患者の歩行時は、歩行補助器具の使用は許可された。

この定義は、Barthel Index(バーセルインデックス; BI)によるADL評価(移動)の15点に相当する。

その他評価項目は、「退院後6ヶ月間における全ての原因および心不全による再入院と全ての原因による死亡」とした。

 

患者は、早期リハビリテーション(入院から72時間以内に開始)と後期リハビリテーション(入院から72時間後に開始)を介入した患者の2群に分類した。

 

競合リスク回帰を使用して、競合イベント(死亡を伴う多変量)、潜在的な交絡因子を調整し、MI分析[多重補完法(Multiple Imputation)]を実施した。

結果:

2012年1月から2014年12月の間に、65歳以上の合計1,374例の高齢患者が救急科を受診し、ADHFにより入院した。

これらの患者で、医師からリハビリテーション介入が必要と判断された361例の患者を特定した。

その内、305例は入院中に理学療法(身体に障害のあるものに対し、主として基本的動作能力の回復を図るため、治療体操その他運動を行わせ、及び電気刺激、マッサージ、温熱その他物理的手段を加えること)が施行されていた。

最終的に適格性をクリアしたのは、259例(平均年齢83.1歳)であった。

リハビリテーション介入までの平均時間は、10.8日であった。

 

30例(11.6%)の患者が早期リハビリテーション(入院から72時間以内)群、残りの229例が後期リハビリテーションに割り付けられた。

 

入院中、232例(89.6%)は理学療法(食事や入浴、歯を磨くなど応用的な動作のリハビリテーション)のみ[早期リハビリテーション群で25例(83.3%) 、後期リハビリテーション群で207例(90.3%)]を施行された。

4例(1.5%)は作業療法[]のみ[早期リハビリテーション群で1例(3.3%) 、後期リハビリテーション群で3例(1.3%)]を施行された。

23例(8.9%)は理学療法と作業療法を[早期リハビリテーション群で4例(13.3%) 、後期リハビリテーション群で19例(8.3%)]施行された。

 

退院前に死亡した患者は、早期リハビリテーション群で0例(0.0%)、後期リハビリテーション(対照)群で13例(5.7%)であった。

 

全体の内、60例(23.2%)が「入院後30日以内における少なくとも40mの自立歩行」を達成した。

この「主要評価項目」の達成率は、それぞれ、早期リハビリテーション群で53.3%(16例)、後期リハビリテーション群で19.2%(44例)であった(p<0.001)。

競合リスク回帰分析では、早期リハビリテーションは「主要評価項目」の達成と有意に関連することが示された[HR 8.03(95%CI:2.15-29.98); p=0.002]。

 

全体の内、90例(34.8%)が「入院後30日以内における50m以上の自立歩行」を達成した。

この「副次評価項目」の達成率は、早期リハビリテーション群で63.3%(19例)、後期リハビリテーション群で31.0%(71例)であった(p<0.001)。

競合リスク回帰分析では、早期リハビリテーションは「副次評価項目」の達成と有意に関連することが示された[HR 5.34(95%CI:3.46-8.25); p<0.001]。

Am Heart J. 2020 Dec;230:44-53.

259例の研究被験者の内、207例が退院後に追跡調査(6ヶ月)された。

「6ヶ月間における全ての原因による再入院」は、早期リハビリテーション群で32.1%(9例)、後期リハビリテーション群で48.6%(87例)であった。

競合リスク回帰分析では、この「その他評価項目」リスクは、後期リハビリテーションと比較して早期リハビリテーションは有意な減少と関連しないこと(減少傾向)が示された[HR 0.43(95%CI:); p=0.03]。

 

「6ヶ月間における心不全による再入院」は、早期リハビリテーション群で7.1%(2例)、後期リハビリテーション群で27.4%(49例)であった。

競合リスク回帰分析では、この「その他評価項目」リスクは、後期リハビリテーションと比較して早期リハビリテーションは有意な減少と関連することが示された[HR 0.28(95%CI:0.10-0.79); p=0.02]。

ADHFで入院した患者の「心不全による再入院」を1例抑制する為には、5例の患者に「早期リハビリテーション」を介入する必要があることが示された。

 

「退院後の全ての原因による死亡」は、早期リハビリテーション群で10.7%(3例)、後期リハビリテーション群で13.4%(24例)であった。

競合リスク回帰分析では、この「その他評価項目」リスクは、後期リハビリテーションと比較して早期リハビリテーションは有意な減少と関連しないこと(減少傾向)が示された[HR 0.47(95%CI:0.06-3.56); p=0.47]。

Am Heart J. 2020 Dec;230:44-53.

結論:

急性非代償性心不全(ADHF)で入院した高齢患者に対して、入院後72時間以内にリハビリテーション療法を早期介入することは、「自立歩行率と退院後の心不全による入院リスク」の有意な低下に寄与することが示された。

ADHFで入院した高齢患者の早期リハビリテーションとその後の外来リハビリテーションの有効性を確認するには、今後、前向き多施設ランダム化比較試験を含む縦断的多施設共同研究が必要だろう。

 

【参考情報】

理学療法士と作業療法士の違いは?

https://www.kmw.ac.jp/contents/pt/about/difference-ot 

バーセルインデックスとは ADLの評価表

https://rehaplan.jp/mag/2224/ 

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