PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33446410/
タイトル:2021 Update to the 2017 ACC Expert Consensus Decision Pathway for Optimization of Heart Failure Treatment: Answers to 10 Pivotal Issues About Heart Failure With Reduced Ejection Fraction: A Report of the American College of Cardiology Solution Set Oversight Committee
<概要(意訳)>
[症候性HFrEF(心不全ステージC)患者に対する推奨治療アルゴリズム]
新規に発症した症候性HFrEF患者の治療では、「β遮断薬」または「レニン-アンジオテンシン系阻害薬(ACE阻害薬/ARB)或いはレニン-アンジオテンシン系抑制薬とネプリライシン阻害薬との合剤(ARNI)」のどちらで治療を開始するかの治療番手に関する質問が一般的であるが、ACC Expert Consensus 2021の執筆委員会では、「β遮断薬」または「ACE阻害薬/ARB 或いは ARNI」のいずれかでの治療を開始することを推奨している。
しかしながら、場合によっては、これらの薬剤を同時に開始することが可能である。
また、これらの両薬剤は、治療開始順に関わらず、(たとえば、2週間ごとに)最大忍容量または目標用量まで漸増する必要がある。
参考)https://medley.life/medicines/prescription/2190041F2023/doc/
「日本におけるARNIの用法・用量」
通常、成人にはサクビトリル・バルサルタンとして1回50mgを開始用量として1日2回経口投与する。忍容性が認められる場合は、2~4週間の間隔で段階的に1回200mgまで増量する。1回投与量は50mg、100mg又は200mgとし、いずれの投与量においても1日2回経口投与する。なお、忍容性に応じて適宜減量する。
「ACE阻害薬/ARB 或いは ARNI」の治療開始は、患者がWet(うっ血所見あり)のときに忍容性が高くなることがよくありますが、β遮断薬は患者が十分な安静時心拍数でDry(うっ血所見なし)のときに忍容性が高くなる。
また、代償不全の徴候または症状のある患者では、β遮断薬の治療を開始すべきではない。
HFrEF患者には、エビデンスに基づいたβ遮断薬のみを使用すべきである。
最近、SGLT2阻害薬の臨床試験データより、重症度の幅広いHFrEF患者の推奨治療薬にSGLT2阻害薬を追加することで臨床転帰およびQOLが改善することが示された。
下記に治療薬剤の「推奨クラス」と「ARNI、イバブラジン、SGLT2阻害薬」の適応を示す(参照:FIGURE2-3)。
推奨クラスIの薬剤
・ARNI(サクビトリル・バルサルタン)[A]
・ACE阻害薬/ARB[B]
:ARNIの使用が禁忌、不耐性などがある場合に、ACE阻害薬/ARBの使用を考慮する
・エビデンスに基づいたβ遮断薬[C]
:ビソプロロール(メインテート)、カルベジロール(アーチスト)、メトプロロール酒石酸塩錠(セロケン、ロプレソール)
・(ループ)利尿薬(D)
・選択的アルドステロン拮抗薬(E)
・SGLT2阻害薬(F)
・ヒドララジン+二硝酸イソソルビド(血管拡張療法)(G)
推奨クラスⅡの薬剤
・イバブラジン(H)
J Am Coll Cardiol. 2021 Feb 16;77(6):772-810.
「ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬:エンレスト®錠」)」の適応症
・HFrEF(EF≤40%)患者
・NYHA分類II度(心疾患患者で日常生活が軽度から中等度に制限される)~IV度(心疾患患者で非常に軽度の活動でも何らかの症状を生ずる)
・ACE阻害薬またはARBの代わりに、HFガイドライン推奨薬剤と併用投与する
参考)https://medley.life/medicines/prescription/2190041F2023/doc/
「日本におけるARNIの効果・効能」
・慢性心不全(ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る)
[効能又は効果に関連する注意]
・本剤は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬又はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬から切り替えて投与すること
参考)ARNIは海外と国内で選択優先度が異なる
2021急性・慢性心不全診療 JCS/JHFSガイドラインフォーカスアップデート版において、
心不全ステージCのHFmrEF(40≦LVEF<50%)では、「ACE 阻害薬/ARB 投与例でARNIへの切替えを考慮可」という位置づけ、HFrEF(LVEF<40%)では、「基本薬(ACE阻害薬/ARB+β遮断薬+MRA)から、(ACE阻害薬/ARBをARNIへ切り替え+SGLT2阻害薬)と併用薬(うっ血に対し利尿薬、洞調律・75拍/分以上の場合イバブラジン、必要に応じジギタリス、血管拡張薬)に変更となり、注釈には“ACE阻害薬/ARB未使用で入院例への導入も考慮(ただし、保険適用外)”の旨が記載された。」
2021急性・慢性心不全診療 JCS/JHFSガイドラインフォーカスアップデート版
「イバブラジン(HCNチャネル阻害薬:コララン®錠)」の適応症
・HFrEF(EF≤35%)患者
・最大忍容量のβ遮断薬が投与
・洞調律かつ安静時心拍数が70拍/分以上
・NYHA分類II度(心疾患患者で日常生活が軽度から中等度に制限される)~Ⅲ度(心疾患患者で日常生活が高度に制限される)
参考)https://medley.life/medicines/prescription/2190039F1020/doc/
「日本におけるイバブラジンの効果・効能」
・洞調律かつ投与開始時の安静時心拍数が75回/分以上の慢性心不全
(ただし、β遮断薬を含む慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る)
[効能又は効果に関連する注意]
・β遮断薬の最大忍容量が投与されても安静時心拍数が75回/分以上の患者に投与すること。また、β遮断薬に対する忍容性がない、禁忌である等、β遮断薬が使用できない患者にも投与できる。
SGLT2阻害剤(ダパグリフロジン10㎎/日、エンパグリフロジン10㎎/日)の「適応症」
・糖尿病の有無に関わらず、HFrEF(EF≤40%)患者
・NYHA分類II度(心疾患患者で日常生活が軽度から中等度に制限される)~IV度(心疾患患者で非常に軽度の活動でも何らかの症状を生ずる)
・HFガイドライン推奨薬剤と併用投与する
SGLT2阻害剤(ダパグリフロジン10㎎/日、エンパグリフロジン10㎎/日)の使用に関する「禁忌」
・1型糖尿病患者(糖尿病性ケトアシドーシスのリスクが高い為)
・SGLT2阻害薬の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・授乳婦(データなし)
・透析患者
SGLT2阻害剤(ダパグリフロジン10㎎/日、エンパグリフロジン10㎎/日)の使用に関する「注意」
・eGFR <30 mL/min/1.73 m2のHFrEF患者に対するダパグリフロジンの使用
(DAPA-HF試験では、eGFR 30未満の患者は除外されていた為)
・eGFR<20 mL/min/1.73 m2のHFrEF患者に対するエンパグリフロジンの使用(EMPEROR-Reduced試験では、eGFR 20未満の患者は除外されていた為)
・妊娠
・生殖器真菌感染症リスクの増加
・体液量減少の一因となる可能性
(その場合、利尿薬の投与量を変更することを検討する)
・糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)
(ケトアシドーシスの潜在的リスクを回避する為に、予定された手術前の使用を一時的に中止することが推奨される)
・血糖値に関わらず、代謝性ケトアシドーシスの兆候と症状を鑑別する
・急性腎障害(AKI)および腎機能障害
(経口摂取量または脱水の状況下では、一時的に中止することを検討する)
・尿路性敗血症と腎盂腎炎
(尿路感染症の兆候と症状を評価し、必要に応じて迅速に治療する)
・会陰部に発生する壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)
(まれに、深刻で生命を脅かす症例が男女の患者で発生している為、発熱または倦怠感とともに、性器または会陰部の痛み、圧痛、紅斑、腫れを呈する患者を評価する)
J Am Coll Cardiol. 2021 Feb 16;77(6):772-810.
【参考情報】
2021年 JCS/JHFS ガイドラインフォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Tsutsui.pdf
急性・慢性心不全診療 JCS/JHFSガイドラインフォーカスアップデート版発表/日本循環器学会
https://www.carenet.com/news/general/carenet/51999
Nohria-Stevenson分類
https://med.toaeiyo.co.jp/contents/cardio-terms/test-exam-diagnosis/4-70.html