PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34459212/
タイトル:Heart Failure and a Preserved Ejection Fraction: A Side-by-Side Examination of the PARAGON-HF and EMPEROR-Preserved Trials
<概要(意訳)>
背景:
多くのHFpEF患者(拡張機能障害を伴う心不全)は、冠動脈内皮の細胞機能障害、微小血管の希薄化、心筋線維化を引き起こし、左心室の拡張障害を引き起こす全身性代謝障害または炎症性障害の共存を特徴としている。
HFpEF患者を対象とした、SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン10mg)のEMPEROR-Preserved試験では、心血管死または心不全による入院の複合リスクを21%減少[HR 0.79(95%CI 0.69-0.90); p<0.001]させ、心不全による入院リスクを29%減少させた。
主要評価項目への影響は、事前に指定したサブグループで一貫していた。
エンパグリフロジンによる心不全による入院リスクへの影響は、HFpEF患者とHFrEF患者で同程度であった(相対リスク減少29% vs 31%)。
EMPEROR-Preserved試験とPARAGON-HF試験[アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害剤(ARNI)]の両方に参加した二人の著者(M.P.およびF.Z.)は、EMPEROR-Preserved試験とPARAGON-HF試験の結果を比較検討した。
方法:
ベースライン患者特性が類似しているEMPEROR-Preserved試験(EF≧40%、平均EF 54.3±8.8%、追跡期間の中央値26ヶ月、n=5,988)とPARAGON-HF試験(EF≧45%、平均EF 57.5±8.0%、追跡期間の中央値35ヶ月、n=4,796)の結果を適正に評価するために、PARAGON-HF試験のEFサブグループ[>42.5%~≦52.5%、>52.5%~≦62.5%、>62.5%]に合わせて、EMPEROR-Preserved試験を再分析した。
評価項目は、「心血管死または心不全による入院の複合、初発の心不全入院までの期間、心不全の総入院(初発および再発)、心血管死」の4項目とした。
結果:
PARAGON-HF試験とEMPEROR-Preserved試験におけるEFサブグループの被験者数は、それぞれ、
> 42.5%~≦52.5%:n=1427 vs n=2340
> 52.5%~≦62.5%:n=2166 vs n=2130
> 62.5%:n=1202 vs n=1106 であった。
「心血管死」に関しては、サクビトリル/バルサルタン(ARNI)とエンパグリフロジン(SGLT2阻害薬)ともに、有意な効果を示さなかった。
しかしながら、「心不全入院を含む他の評価項目」については、ほとんどのEFサブグループにおいて、サクビトリル/バルサルタンよりもエンパグリフロジンの効果の方が大きかった。
とくに、「> 42.5%~≦52.5%のEFサブタイプにおける初発の心不全入院までの期間」におけるハザード比は、サクビトリル/バルサルタン(ARNI)とエンパグリフロジン(SGLT2阻害薬)で、それぞれ、0.83(95%CI 0.65–1.06)と0.65(95%CI 0.50〜0.85)となり、エンパグリフロジンでは有意な結果が示された。
同様に、「> 52.5%~≦62.5%のEFサブタイプにおける初発の心不全入院までの期間」におけるハザード比は、サクビトリル/バルサルタン(ARNI)とエンパグリフロジン(SGLT2阻害薬)で、それぞれ、0.87(95%CI 0.71–1.07)と0.68(95%CI 0.51〜0.89)となり、エンパグリフロジンでは有意な結果が示された。
Circulation. 2021 Oct 12;144(15):1193-1195.
結論:
類似した被験者集団のHFpEF患者を対象とした2つの大規模臨床試験の評価項目を同じ左室駆出率サブグループで比較検討することで、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)とSGLT2阻害薬(エンパグリフロジン)のベネフィットを評価することは可能である。
心不全の転帰リスク減少効果の大きさは、ほとんどのHFpEF患者において、ネプライシン阻害薬よりもSGLT2阻害薬の方が大きいことが示された。