SGLT2阻害薬の心血管および腎転帰に対する収縮期血圧の影響



PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34556320/ 

タイトル:Empagliflozin Improves Cardiovascular and Renal Outcomes in Heart Failure Irrespective of Systolic Blood Pressure

<概要(意訳)>

背景:

SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン)は、HFrEF患者の心血管死または心不全による入院リスクを軽減するが、収縮期血圧(SBP)との交互作用は不明である。

本研究の目的は、EMPEROR-Reduced試験におけるSGLT2阻害薬の「心血管および腎転帰」に対する「収縮期血圧」の影響を評価することである。

方法:

3,730例の被験者は、ベースラインのSBP値により3群[<110 mmHg(928例)、110-130 mm Hg(1,755例)、> 30 mm Hg(1,047例)]に割り付けられた。

本研究では、SGLT2阻害薬の「心血管死または心不全による入院(一次転帰)」、ならびに「心不全の総入院、eGFRの低下率、腎転帰」に対する効果、「収縮期血圧」との交互作用を調査した。

結果:

3,730例の被験者は、エンパグリフロジン10㎎/日(1,863例)またはプラセボ(1,867例)に無作為に割り付けられた。

ベースラインの患者特性において、SBPが低い(<110 mmHg)患者は、左室駆出率(LVEF)が低く、NT-proBNP(pg/mL)の血中濃度が高く、過去12ヶ月の心不全入院歴が高く、心不全の重症度が高かった。

また、ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)の投与率、デバイス[植込み型除細動器、心臓再同期療法 (CRT)]による治療率が高かった。

 

「ベースラインのSBP」と「主要エンドポイントのイベント発生率」との関係は、プラセボ群のイベント発生率を計算することによって評価した。

「心血管死または心不全による入院」の発生率(100人/年)は、それぞれ、

SBP<110 mmHg:26.29 (22.23-30.69)

SBP 110-130 mmHg:20.84 (18.13-23.74)

SBP>130 mmHg:16.46 (13.42-19.81)

となり、ベースラインSBPの低下に伴い、増加することが示された(交互p=0.0015)。

 

「心不全による総入院」の発生率(100人/年)は、それぞれ、

SBP<110 mmHg:28.07

SBP 110-130 mmHg:21.96

SBP>130 mmHg:17.87

となり、ベースラインSBPの低下に伴い、増加することが示された(交互p=0.0075)。

 

次に、プラセボ群と比較した、「心血管死または心不全による入院」に対する、SGLT2阻害薬群のハザード比[HR(95%CI)]は、それぞれ、

SBP<110 mmHg:0.78 (0.61-1.00)

SBP 110-130 mmHg:0.71 (0.58-0.87)

SBP>130 mmHg:0.82 (0.62-1.09)

となり、SGLT2阻害薬の「心血管死または心不全による入院」に対する効果は、ベースラインのSBPに影響しないことが示された(交互p=0.83)。

 

プラセボ群と比較した、「心不全による総入院」に対する、SGLT2阻害薬群のハザード比[HR(95%CI)]は、それぞれ、

SBP<110 mmHg:0.74 (0.51-1.06)

SBP 110-130 mmHg:0.66 (0.50-0.88)

SBP>130 mmHg:0.74 (0.51-1.07)

となり、SGLT2阻害薬の「心不全による総入院」に対する効果は、ベースラインのSBPに影響しないことが示された(交互p=0.96)。

J Am Coll Cardiol. 2021 Sep 28;78(13):1337-1348.

プラセボを補正したベースラインのSBPグループの血圧変化は、それぞれ、

SBP<110 mmHg:早期にわずかに上昇

SBP 110-130 mmHg:変化なし

SBP>130 mmHg:わずかに低下

となった。

 

プラセボ群の症候性低血圧の発生率(100人/年)は、それぞれ、

SBP<110 mmHg:8.2

SBP 110-130 mmHg:4.0

SBP>130 mmHg:2.9

となり、ベースラインSBPの低下に伴い「症候性低血圧」のリスク増加が示された。

また、同様の傾向がSGLT2阻害薬群[SBP<110 mmHg:7.3、SBP 110-130 mmHg:4.9

、SBP>130 mmHg:3.0]で示されたが、プラセボ群と同程度であった。

J Am Coll Cardiol. 2021 Sep 28;78(13):1337-1348.

プラセボ群と比較したSGLT2阻害薬群の「eGFRの変化差(mL/min/1.73 m/year)」は、それぞれ、

SBP<110 mmHg:1.85 (0.55-3.15)

SBP 110-130 mmHg:1.79 (0.87-2.71)

SBP>130 mmHg:1.56 (0.39-2.74)

となり、SGLT2阻害薬の「eGFRの変化差」に対する効果は、ベースラインのSBPに影響しないことが示された(交互p= 0.68)。

 

また、SGLT2阻害薬群では治療開始時にeGFRのイニシャルディップの影響を受ける可能性がある為、ベースラインから治療中止後23~45日までの「eGFRの変化差(mL/min/1.73 m/year)」を評価した。

SBP<110 mmHg:2.8 (–0.2 to 5.9)

SBP 110-130 mmHg:4.3 (2.1 to 6.5)

SBP>130 mmHg:2.1 (–0.5 to 4.8)

となり、SGLT2阻害薬の「eGFRの変化差」に対する効果は、eGFRのイニシャルディップの影響を考慮しても、ベースラインのSBPに影響しないことが示された(交互p= 0.63)。

J Am Coll Cardiol. 2021 Sep 28;78(13):1337-1348.

プラセボ群と比較した、「腎複合アウトカム[慢性透析、腎移植、持続的なeGFR40%低下、ベースラインeGFR≧30の場合eGFR<15 mL/min/1.73 m(ベースラインeGFR<30の場合eGFR<10)]」に対する、SGLT2阻害薬群のハザード比[HR(95%CI)]は、それぞれ、

SBP<110 mmHg:0.28 (0.10-0.75)

SBP 110-130 mmHg:0.48 (0.23-0.99)

SBP>130 mmHg:0.72 (0.35-1.49)

となり、SGLT2阻害薬の「腎複合アウトカム」に対する効果は、ベースラインのSBPに影響しないことが示された(交互p=0.088)。

結論:

ベースラインの収縮期血圧が低い(<110 mm Hg)HFrEF患者は、心不全の転帰リスクが最も高いことが示された。

SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン10㎎/日)は、ベースラインの収縮期血圧に関わらず、心不全と腎の転帰リスクを低減させた。

ベースラインの収縮期血圧が低いHFrEF患者は、SGLT2阻害薬に対する忍容性が高く、収縮期血圧の低下や症候性低血圧の増加を示さなかった。

J Am Coll Cardiol. 2021 Sep 28;78(13):1337-1348.

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