急性呼吸窮迫症候群を発症したCOVID-19患者の病態生理



PubMed URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32861276/

タイトル:Pathophysiology of COVID-19-associated acute respiratory distress syndrome: a multicentre prospective observational study

<概要(意訳)>

背景:

COVID-19患者は、死亡率の高いARDS(急性呼吸窮迫症候群)を発症するリスクがある。

本研究では、「ARDSを発症したCOVID-19患者」と「COVID-19に非関連のARDS」の機能的、形態学的な特徴を調査した。

方法:

イタリアの病院7施設を対象に前向き観察研究を行った。

2020年3月9日~22日の間、ベルリン基準を満たしたARDSを発症し、集中治療室(ICU)に入院したCOVID-19患者を連続登録した。

すべての患者は、標準的なICU人工呼吸器のボリュームコントロールモードで管理された。

また、ICU入院24時間以内に、「静的肺コンプライアンス、Pao2(動脈血酸素分圧)/Fio2(吸入気酸素飽和度)[P/F比:血液酸素化の指標]、換気回数、D-ダイマー濃度」を計測し、必要に応じて、胸部CTと肺のCT血管造影を実施した。

「COVID-19に非関連のARDS」のデータセットは、過去のARDS研究データから作成した。

主要評価項目は、「(ICU入院後)28日間の死亡率」とした。

結果:

2020年3月9日~22日の間、ベルリン基準を満たしたARDSを発症し、集中治療室(ICU)に入院したCOVID-19患者301例が連続登録された。

静的肺コンプライアンスの中央値は、「COVID-19に非関連のARDS患者:32(IQR 25–43)mL/cm H2O」と比較して、「ARDSを発症したCOVID-19患者:41(IQR 33–52)mL/cm H2O」は、28%高かった(p<0.0001)。

「ARDSを発症したCOVID-19患者」の6%(17/297人)は、「COVID-19に非関連のARDS患者」の95%パーセンタイル値を上回る静的肺コンプライアンスを示した。

肺の総重量は、両コホート間で差はなかった。

Lancet Respir Med. 2020 Aug 27; S2213-2600(20)30370-2.

「ARDSを発症したCOVID-19患者」の8%(23人)から得られた、肺のCT血管造影では、D-ダイマー濃度が中央値(1,880 ng/mL)よりも高い94%(15/16人)に、肺血栓塞栓症の所見を表す両側低灌流領域が認められた。

「D-ダイマー濃度が中央値以下のARDSを発症したCOVID-19患者:1.66(IQR 1.32-1.95)」における換気回数の中央値は、「Dダイマー濃度が中央値より高いARDSを発症したCOVID-19患者:1.90(IQR 1.50-2.33」」よりも、有意に低かった(p=0.0001)。

4グループ全体の28日死亡率は、36%(93/261人)であった。その内訳は、

HDLC(D-ダイマー濃度>中央値&静的肺コンプライアンス≦中央値)グループ:56%(40/71人)

HDHC(D-ダイマー濃度>中央値&静的肺コンプライアンス>中央値)グループ:35%(22/63人)

LDHC(D-ダイマー濃度≦中央値&静的肺コンプライアンス>中央値)グループ:27%(18/67人)

LDLC(D-ダイマー濃度≦中央値&静的肺コンプライアンス≦中央値)グループ:22%(13/60人)

となり、HDLCグループは、他の3グループよりも28日死亡率が有意に高かった(p=0.0001)。

Lancet Respir Med. 2020 Aug 27; S2213-2600(20)30370-2.

また、Coxモデルを使用した調整ハザード比(28日死亡リスク)は、HDLCグループを基準とした場合、

HDHC(D-ダイマー濃度>中央値&静的肺コンプライアンス>中央値)グループ:HR 0.448 (95%CI 0.230–0.873)

LDHC(D-ダイマー濃度≦中央値&静的肺コンプライアンス>中央値)グループ:HR 0.420 (95% CI 0.215–0.818)

LDLC(D-ダイマー濃度≦中央値&静的肺コンプライアンス≦中央値)グループ:HR 0.386(95%CI 0.152-0.985)

となった。 また、「性別」は28日死亡リスクの危険因子ではなかった。

Lancet Respir Med. 2020 Aug 27; S2213-2600(20)30370-2.

結論:

「ARDSを発症したCOVID-19患者」と「COVID-19に非関連のARDS患者」は、多くの点で、類似した肺損傷が認められた。

特に、D-ダイマー濃度が高く[>中央値:1,880 ng/mL]、静的肺コンプライアンスが低下[≦中央値:41(IQR 33–52)mL/cm H2O]した「ARDSを発症したCOVID-19患者」の「(ICU入院後)28日間の死亡率」は56%と非常に高かった。

 

【参考情報】

ベルリン定義からみた ARDS の病態と呼吸管理

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsrcr/25/1/25_66/_pdf 

呼吸生理と人工呼吸管理の基礎

http://www.mh.nagasaki-u.ac.jp/kaihatu/initial/higher/pdf/20160810_anesthesiology.pdf

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