PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32796615/
タイトル:Sodium-Glucose Cotransporter-2 Inhibitors at Discharge from Cardiology Hospitalization Department: Decoding A New Clinical Scenario
<概要(意訳)>
背景:
SGLT2阻害薬は、大規模臨床試験や前向き観察研究において、心疾患合併2型糖尿病患者の心血管系へのベネフィットを示しているが、急性心不全や急性冠症候群(ACS)の患者は除外されているので入院患者に対するSGLT2阻害薬のエビデンスは乏しい。
しかしながら、T2DM患者の心血管イベントと心不全入院リスクは、退院後1年間が最も高くなるのでSGLT2阻害薬の早期導入は新たな治療オプションとなる可能性がある。
本研究では、「(血行動態が安定した)退院時にSGLT2阻害薬を処方する」ことを「新しい臨床シナリオ」として、前向き観察研究を行った。
方法:
対象は、2018年4月~2019年2月の間に、循環器科を退院した連続104例(24例:入院中にT2DMの診断、80例:T2DMの既往)の2型糖尿病(T2DM)患者とした。
傾向スコア(プロペンシティスコア)マッチングにより、SGLT2阻害薬群(n=38)と非SGLT2阻害薬群(n=38)に割り付けた。
退院時に処方されたSGLT2阻害薬は、エンパグリフロジン、ダパグリフロジン、カナグリフロジンであった。
入院中にSGLT2阻害薬が処方された患者、入院期間が3日未満の患者、最後まで追跡(16±2ヶ月)できなかった患者等は除外した。
主要評価項目は、安全性[SGLT2阻害薬又は他のT2DM治療薬の中断、腎機能の悪化(40%以上のeGFR低下)、腎死、腎機能が原因による入院、その他(肝機能が原因による入院、代謝性アシドーシス、ケトアシドーシス又は糖尿病性ケトアシドーシス)]とした。
副次評価項目は、「①全ての原因による死亡、②心血管死、③心血管系による再入院、④心血管死または再入院の複合」の有効性とした。
結果:
安全性(主要評価項目)においては、両群間で同等であった。
SGLT-2阻害薬群では、1例(3%)のみが腎機能の悪化により、一時的に服用を中断した。
この患者は外来でフォローされ、腎毒性のある薬剤(アンジオテンシン変換酵素
阻害剤、鉱質コルチコイド受容体拮抗薬)を中断することで、SGLT2阻害薬の再導入が可能となった。
腎死の患者は、両群ともに0例であったが、腎機能が原因による入院は、非SGLT2阻害薬群で2例(5.3%)であった。
その他(肝機能が原因による入院、代謝性アシドーシス、ケトアシドーシス又は糖尿病性ケトアシドーシス)は、両群ともに0例であった。
J Clin Med. 2020 Aug 11; 9(8):E2600.
有効性(副次評価項目)の発症率とハザード比は、SGLT2阻害薬群 vs 非SGLT2阻害薬群、それぞれ、
「④心血管死または再入院の複合」:
7例(18.42%) vs 16例(42.11%)、[HR 0.35(95% CI 0.14 -0.85)、p=0.02]
「①全ての原因による死亡」:
0例(0%) vs 9例(23.68%)、[HR 0.79(95% CI 0.69-0.9)、p=0.001]
「②心血管死」:
0 例(0%) vs 7例(17.42%)、[HR 0.83(95% CI 0.73-0.94)、p=0.005]
「③心血管系による再入院」:
7 例(18.42%) vs 10例 (26.32%)、[HR 0.63(95% CI 0.24-1.60)、p=0.349)
J Clin Med. 2020 Aug 11; 9(8):E2600.
有効性(副次評価項目)のカプランマイヤー分析によるlog rank p値は、SGLT2阻害薬群 vs 非SGLT2阻害薬群、それぞれ、
「④心血管死または再入院の複合」:log rank p=0.015
「①全ての原因による死亡」:log rank p=0.001
「②心血管死」:log rank p=0.004
「③心血管系による再入院」:log rank p=0.35
となり、「③心血管系による再入院」の除く副次評価項目のリスクは、SGLT2阻害薬群で有意に低かった。
ただし、「③心血管系による再入院」の内訳の「心不全による再入院」は、SGLT2阻害薬群で有意に少なかった。
J Clin Med. 2020 Aug 11; 9(8):E2600.
結論:
「新しい臨床シナリオ」として、「心疾患合併2型糖尿病(T2DM)患者の退院時にSGLT2阻害薬を処方する」ことは、安全で忍容性が高いだけでなく、フォローアップ期間中の全死亡と心血管死リスクの減少に関連していた。
この臨床シナリオにおけるSGLT-2阻害薬の更なる有用性を研究するには、大規模臨床試験が必要だろう。