プライマリケア医によるCKD診療促進プログラムの長期的有効性



PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35195257/  

タイトル:Long-term effectiveness of a primary care practice facilitation program for chronic kidney disease management: an extended follow-up of a cluster-randomized FROM-J study

<概要(意訳)>

目的:

プライマリケア医(PCP)を対象とした「集学的ケア診療促進プログラム」は、慢性腎臓病(CKD)の転帰を改善することが期待されているが、その長期的有効性に関する明確なエビデンスはない。

我々は以前に、このプログラムなしのA群とプログラムありのB群の2群からなる3年半のクラスター無作為化比較試験(FROM-J study)を行った。

本研究の目的は、FROM-J研究の10年間の延長追跡調査を通じて、CKD転帰に対する診療促進プログラムの長期的有効性を評価することとした。

 

方法:

FROM-J10研究は、FROM-J試験に登録されたCKD患者のコホート研究であり、PCP(プライマリケア医)を対象としたCKD臨床促進プログラムの有効性を評価するクラスター無作為化比較試験であり、A群(標準介入:CKD診療ガイドブックに従った標準治療)とB群(診療促進プログラムによる集学的ケア介入)の2群からなる。

本研究では、49地域の医師会から合計489例のPCPが登録され、2,417例のCKD患者が登録された。

その後、各地域の医師会が無作為に2つのグループに分けられた。

当初、FROM-J研究は介入期間3.5年の研究として計画され、その結果が報告されている。

その後、集学的ケア介入の長期的効果を調査する為、研究開始5年後と10年後に追加のデータ収集と解析が行われた。

 

心血管死[非致死的心筋梗塞(入院を要するもの)、非致死的脳卒中(入院を要するもの)、心不全(入院を要するもの)を含む]、腎代替療法[(RRT、血液透析、腹膜透析、腎移植を含む)の開始]、死亡の各入力欄が質問票に作成され、イベント発生日が記入された。

これらの各イベントの調査欄から、その件数と発生日を集計した。

さらに、CVD(心血管疾患)に関する情報の信憑性を確保するため、CVDイベント発生時の医療機関名、担当医師名、発生日も記入した。

質問票は、患者が死亡しても親族が回答できるように作成し、患者宅へ送付した。

したがって、患者が居住地を変えない限り、データを収集することが可能であった。

さらに、血清クレアチニン値を毎年記録するよう求めた。

本研究は、ヘルシンキ宣言を遵守し、筑波大学臨床研究倫理委員会の承認を得て実施された。

 

主要評価項目は、「CVDイベント、RRTの開始、eGFR 50%低下の複合エンドポイント」とした。

CVDイベントは、[心血管死、非致死的心筋梗塞(入院を要する)、非致死的脳卒中(入院を要する)、心不全(入院を要する)]と定義され、カウントされた。

RRTは、[慢性維持透析(血液透析、腹膜透析)および腎移植]と定義し、これらの治療の開始をカウントした。

eGFR 50%低下は、登録時点から連続する2点以上で初めて50%以上の低下が観察された時点と定義し、3点以上のeGFR測定がある場合は、線形回帰式から50%低下が推定された時点をイベントと定義した。

 

副次評価項目は、「死亡率、eGFR低下率、PCP(プライマリケア医)と腎臓専門医の連携率」であった。

eGFR低下率は、eGFR値に基づき一般化線形モデルまたは混合モデルを用いて算出した。

PCPから腎臓専門医への紹介率は、以下のように計算された:

研究開始から最終観察時点までに腎臓専門医に紹介された数/分析された患者数

 

PCPへの再導入率は、研究開始から最終観察時点までに腎臓専門医に紹介され、その後PCPに戻った患者の数として算出した。

イベントは2008年10月1日から2018年10月31日まで、検査データは2018年10月1日から2019年3月31日までが対象となった。

 

主要および副次評価項目の解析に加えて、腎機能の急速な悪化の発生率も調査した。

急速な悪化とは、登録時からCKD病期分類の2ステージ以上の進行と定義した。

G3期は、G3aとG3bを別々の病期として解析した。

腎機能の急速悪化の解析では、登録時のベースラインeGFRが欠落している場合は、1年以内の最も近いeGFR値で代用した。

Nephrol Dial Transplant. 2023 Jan 23;38(1):158-166.

結果:

FROM-J研究開始5年後の調査では、2,070例[A群1,069例(標準介入)、B群1,001例(集学的介入)]のデータを得た。

さらに、10年後の調査では、1,473例(A群785例、B群688例)のデータを得た。

FROM-Jで行われた解析に基づくと、FROM-Jに登録された2,471例のCKD患者の内、2,379例(A群1,195例、B群1,184例)がFROM-J10研究の解析対象となった。

ベースラインの患者特性では、A群(標準介入)よりもB群(集学的介入)の方が有意に高かった。

さらに、登録時のCKD病期にも2群間で有意な差が認められた(p=0.03)。

 

主要評価項目(CVDイベント、RRT開始、eGFR50%低下の複合エンドポイント)は、B群(集学的介入)の方がA群(標準介入)よりも低い傾向にあったが、その差は統計学的に有意ではなかった(p=0.051)。

また、主要評価項目の各発症率も検討した。

CVDイベントの発生率は、A群(標準介入)よりB群(集学的介入)で有意に低かった(p =0.001)。

「集学的ケア診療促進プログラム」によるCVDイベントの絶対リスク減少率(ARR)は4.1%であり、NNT(1例の患者のCVDを予防するために必要な治療必要数)は24.4であることが示唆された。

 

次に、カプラン・マイヤー法を用いてイベント発生率を検討した。

「CVDイベント、RRT開始、eGFR50%低下の複合エンドポイント」に有意な差はなかったが(p=0.09)、CVDイベント発生率はA群(標準介入)よりB群(集学的介入)で有意に低かった(p=0.02)。

RRT開始およびeGFR 50%低下に関しては、両群に差はみられなかった。

Nephrol Dial Transplant. 2023 Jan 23;38(1):158-166.

副次評価項目(死亡率、eGFR低下率、PCPと腎臓専門医の連携率)の死亡率には、有意な差はなく、カプラン・マイヤー法でも有意な差は認められなかった。

また、登録時の異なるCKD病期における両群間の死亡率に有意な差はなかった。

 

全患者を解析に含めた場合、eGFR低下率に有意差は認められなかった。

これは介入3.5年後の解析結果と同じであった 。

しかし、介入3.5年後の解析では、登録時のCKDステージがG3期の患者においてのみ、eGFR低下率がB群(集学的介入)で有意に低かった。

そこで、前回のFROM-J研究の解析に続き、今回の10年追跡研究でもCKDステージ別のeGFR低下率の解析を行った。

その結果、eGFR低下率は、登録時にステージG3a期の患者においてのみ、B群(集学的介入)の方がA群(標準介入)よりも有意に低かった。

 

PCPから腎臓専門医への紹介率および腎臓専門医からPCPへの逆紹介率は、介入3.5年後の解析結果と同様に、A群(標準介入)よりもB群(集学的介入)で高かった。

 

早期CKD患者における腎機能の急速な悪化の発生率は、将来のESKD(末期腎不全)リスクの代用指標となる可能性がある。

そこで、登録時のG3b期より早期のCKD患者において、「集学的ケア診療促進プログラム」が腎機能の急速な悪化を抑制できるかどうかを検討するために追加解析を行った。

登録時からCKD病期分類の2ステージ以上の進行と定義した。

解析の結果、腎機能の急速な悪化は、登録時にG3a期の患者においてのみ、A群(標準的介入)よりB群(集学的介入)で有意に低かった。

Nephrol Dial Transplant. 2023 Jan 23;38(1):158-166.

考察:

この10年間の縦断的コホート研究は、PCP(プライマリケア医)によるCKD管理のための集学的ケアを活用したCKD診療促進プログラムの長期的効果を評価したものである。

主要複合アウトカムに統計学的有意差はなかったが、CVDイベントの発生率はB群(集学的介入)で有意に低かった。

CKD患者におけるCVDイベントの予防は、公衆衛生上の重要な課題である。

最近、SGLT2阻害薬がCVDイベントを予防できることが多くの報告で明らかになったが、

本研究の「集学的ケア診療促進プログラム」によるCVDイベントのNNT24.4(1例の患者のCVDを予防するために必要な治療必要数)は、それらと同等かそれ以上のようである。

 

本研究では、集学的介入のどの点がCVDの減少に最も効果的であったかを明らかにすることは困難であった。

3.5年間の介入後の結果では、いくつかの測定ポイントにおいて、BMI、HbA1c、SBPおよびDBPなどのデータが、A群(標準介入)よりもB群(集学的介入)で良好に改善したことが示された。

一方、追加解析の結果、腎臓専門医への紹介の有無とCVDイベントの発症は統計的に関連していないことが明らかになった。

 

我々は、PCPによる「集学的ケア診療促進プログラム」が、複数因子の複合的な改善によりCVDイベントの減少につながったという仮説を立てた。

登録時にG3a期の患者において、eGFRの全体的な低下率はA群(標準介入)で2.35±3.87mL/分/1.73m/年、B群(集学的介入)で1.68±2.98mL/分/1.73m/年であった。

A群とB群におけるeGFRの低下速度の差が持続すれば、約20年後にRRT開始率が両群間で有意に異なる可能性がある。

 

糖尿病患者を対象としたSTENO-2試験で観察されたように、死亡を含む腎転帰への影響を示すのに20年以上を要した。

また、FROM-J研究の登録時の平均年齢は、A群(標準介入)で63.2歳、B群(集学的介入)で62.8歳であり、FROM-J研究から20年後の両群の参加者の平均年齢は80歳以上となる。

日本では、60歳代の早期CKD患者数が増加すると予想されており、これらの患者の20年後以降のRRT導入を回避することは、将来的に社会的な大きな意味を持つ。

この傾向を検討するため、過去10年間にCKD病期分類が2ステージ以上に進行した患者を急速悪化群とした。

その結果、登録時にG3a期の患者において、腎機能の急速な悪化の発生率はA群(標準介入)よりもB群(集学的介入)で有意に低かった。

先行研究でも同様に、教育プログラムがG3a期のCKD患者に有効であることが示されているが、本研究では、PCP(プライマリケア医)を受診しているCKD患者においても、この教育的向上が観察されることがわかった。

 

本研究にはいくつかの限界がある。

第一に、前述のように実際の介入期間は3.5年に限られており、それ以上の期間の医療支援システムの効果を明らかにすることはできない。

第二に、FROM-J10研究は、長期コホート研究であり、データはPCPから得たものであるため、追跡不能、病院閉鎖による無回答、リコールバイアスなどの影響は否定できない。

しかし、長期研究として5年目に2,070例、10年目に1,473例のデータを収集することができたので、本研究の信頼性を確保するのに十分なデータ収集率であったと考える。

 

結論:

PCP(プライマリケア医)によるCKD診療促進プログラムは、CVD(心血管疾患)イベントを確実に減少させ、将来のESKD(末期腎不全)への進行を抑制する可能性がある。

Nephrol Dial Transplant. 2023 Jan 23;38(1):158-166.

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