CKD患者を対象としたSGLT2阻害薬の年間eGFR低下率抑制の意義



PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37529652/       

タイトル:EMPA-KIDNEY: expanding the range of kidney protection by SGLT2 inhibitors

<概要(意訳)>

<EMPA-KIDNEY試験は、複数のCKD原疾患を有し、先行のCKD患者を対象としたSGLT2阻害薬の試験よりもeGFRおよびUACR値が低い患者において、心筋保護に関するエビデンスを提供する>

EMPA-KIDNEY試験の主要評価項目は、「腎疾患の進行または心血管死の初回発現までの期間」であり、腎疾患の進行の定義は、「末期腎不全(維持透析の開始または腎移植の実施)、判定された腎疾患による死亡、無作為割付後のeGFR40%以上の持続的低下、eGFR 10 mL/min/1.73m未満の持続的低下」であった。

注目すべきは、eGFRの持続的低下の閾値が、DAPA-CKD試験で用いられた無作為割付後のeGFR 50%以上の持続的低下、eGFR 15mL/min/1.73m未満の持続的低下(末期腎不全の定義)と異なることである。

腎代替療法を考慮するためのeGFRの閾値としては、eGFR 15 mL/min/1.73mよりも10 mL/min/1.73m2の方がより適切である。

試験終了時、主要評価項目のイベントは、エンパグリフロジン群で432/3304例(13.1%)に発現したのに対し、プラセボ群で558/3305例(16.9%)に発現し、エンパグリフロジンの相対リスク減少率(RRR)は28%であった[HR 0.72(95%CI 0.64-0.82)、p<0.001]。

注目すべきは、主要評価項目の「腎疾患の進行」にベネフィットが集中していたことである。

一方で、「心血管死亡率」は両群で低く、EMPA-KIDNEY試験のプラセボ群ではDAPA-CKD試験のプラセボ群より約21%低かった。

重要な副次評価項目の「全ての原因による入院」は、エンパグリフロジンはプラセボと比較して、14%の相対リスク減少率(RRR)であった[HR 0.86(95%CI 0.78-0.95)、p=0.003]。

事前に規定されたサブグループにおいて、主要評価項目に対するベネフィットエンドは、糖尿病の有無、ベースラインのeGFR、年齢、性別、CKDの原因、ベースラインのCVDまたはRAS阻害薬の有無とは無関係に一貫していたが、ベースラインのUACRが若干影響し、UACR値が高いほどRRRが大きいことが示唆された(傾向p=0.02)。

UACRのサブグループにおける主要評価項目のハザード比が、1.01(0.66-1.55)であったことから、UACR<30mg/gの患者にはベネフィットが認められなかったと解釈する人もいる。

しかし、後述するように、主要評価項目のイベント発生率の低さやプラセボ群の慢性eGFRスロープ(年間低下率)の遅さ(表1)によって評価すると、この群は低リスク群であった。

EMPA-KIDNEY試験は、事前に規定された有効性のベネフィットを理由とした早期中止基準を満たしたため、早期終了された。

その為、全追跡期間の中央値は約2.0年となり、先行のCREDENCE試験およびDAPA-CKD試験(いずれも2.6年)よりも短期間となった。

エンパグリフロジンに関連するベネフィットは、高リスクサブグループにおける差によってもたらされたため、試験の早期終了は低リスクサブグループにおけるイベントの差を検討する統計学的パワーが不足した可能性がある。

一旦、ベネフィットが示された後に試験を継続することは、倫理的に問題があったのだろう。

この点に関しては、慢性eGFRスロープ[すなわち、SGLT2阻害薬や他の腎保護薬で観察されるeGFRの初期、血行力学的、可逆的な低下を考慮しない(イニシャルディップ期間を除いた)eGFRスロープ]の方が、低リスク群における介入の影響をよりよく表すことができるかもしれない。

実際に、慢性eGFRスロープのデータから、エンパグリフロジンは全てのeGFRカテゴリー、UACRカテゴリー、糖尿病の有無にかかわらず、CKDの進行を遅延させることが示された。

具体的には、UACR<30mg/gにおいて、エンパグリフロジン群とプラセボ群の慢性eGFRスロープの絶対差は0.78(0.32-1.23)mL/min/1.73m/yearであった(図2A)。

これは、エンパグリフロジン群はプラセボ群と比較して、慢性eGFRスロープ(年間低下率)を8倍遅延(図2B)させたことになる。

その結果、エンパグリフロジンに割り付けられた患者のうち、UACR<30mg/gで慢性eGFRスロープが最も緩やかであった(図2C)。

したがって、SGLT2阻害薬による治療は、アルブミン尿の進展ステージが早ければ早いほど、EMPA-KIDNEY試験で観察された腎機能温存の結果は良好(エンパグリフロジンの年間eGFR低下率は-0.11)であった。

Clin Kidney J. 2023 Jun 16;16(8):1187-1198.

N Engl J Med. 2023 Jan 12;388(2):117-127.(Supplementary Appendix)

ゆえに、アルブミン尿の程度に関係なく腎保護作用が示されたことは、アルブミン尿を発症することが知られている病態で正常アルブミン尿を理由に治療介入の延期、尿細管間質性腎疾患のようなアルブミン尿を呈さない頻度が高い病態で治療を開始しない理由にはならないというメッセージであろう。

CREDENCE試験もDAPA-CKD試験もUACR<200mg/gの患者を登録しておらず、DAPA-CKD試験のポストホック解析ではUACRの閾値が1000 mg/gと3500 mg/gのデータしか得られないため、これらの結果はEMPA-KIDNEY試験の重要な貢献の一つである(表1)。

SGLT2阻害薬を早期に開始した方が良い結果が得られるという同じメッセージが、eGFRカテゴリー別のeGFRスロープのサブグループ解析でも示された(図3)。

慢性eGFRスロープ(イニシャルディップ期間を除いたeGFR年間低下率)は、ベースラインのeGFRに応じて、eGFR 10 mL/分/1.73mと定義される腎不全までの時間を推定することができた(図3A)。

エンパグリフロジンは、eGFRが20 mL/分/1.73mの時に開始した場合、腎不全、ひいては腎代替療法の必要性を1.9年、eGFRが85 mL/分/1.73mの時に開始した場合、26.6年遅延させることができる(図3B)及びC)。

血液透析の開始が1.9年遅れると、300回/例の血液透析セッションを回避することがで

き、それに伴う人的苦痛、医療費、輸送費、エネルギーと水の消費、プラスチック廃棄物

の発生を回避することができる(図3D)。

血液透析の開始が26.6年遅れると、4000回/例以上の血液透析セッションとそれに伴う影

響を回避できる可能性がある。

腎不全に至らない患者であっても、eGFRの低下は転帰やQOLの悪化、心血管疾患や死亡リスクの上昇と関連している。

特筆すべきは、SGLT2阻害薬は一度投与が開始されると、CKDランダム化比較試験(RCT)では腎代替療法開始まで継続投与されていることである。

Clin Kidney J. 2023 Jun 16;16(8):1187-1198.

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