HFrEF患者におけるSGLT2阻害薬の有効性:メタ解析



PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32877652/

タイトル:SGLT2 inhibitors in patients with heart failure with reduced ejection fraction: a meta-analysis of the EMPEROR-Reduced and DAPA-HF trials

<概要(意訳)>

背景:

DAPA-HF試験(ダパグリフロジンの評価)とEMPEROR-Reduced試験(エンパグリフロジンの評価)の両試験では、SGLT2阻害薬により、左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)患者の「心血管死、または心不全による入院」の複合リスクが、糖尿病の有無に関わらず

減少することが示された。

しかし、両試験ともに、心血管死または全死亡への影響や臨床的に重要なサブグループへの影響を評価することは出来ていない。

公開された両試験のデータから、HFrEF患者の致死的、非致死的な心不全イベントと腎転帰に対するSGLT2阻害薬の有効性をメタ分析した。

方法:

DAPA-HF試験とEMPEROR-Reduced試験のメタ分析を行った。

主要評価項目は、「全死亡」とした。

また、事前に指定したサブグループに対する「心血管死、または心不全による(初発の)入院」の複合リスクを評価した。

これらのサブグループは、「Ⓐ2型糖尿病の有無、Ⓑ性別、Ⓒアンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害剤(ARNI)治療の有無、Ⓓ年齢(≦65歳、>65歳)、Ⓔ年齢(<55歳、55-64歳、65-74歳、≧75歳)、Ⓕ心不全入院の既往有無、Ⓖ推定糸球体濾過率(eGFR<60、≧60)、ⒽNYHA分類(Ⅱ、Ⅲ~Ⅳ)、Ⓘ人種(白人、黒人、アジア人)、Ⓙ地域(北アメリカ、ラテンアメリカ、ヨーロッパ、アジア)、ⓀBMI(<30、≧30)。

初発イベントまでのエンドポイントは、Cox比例ハザードモデルによるハザード比(HR)を使用し、有効性の交互作用にはコクラン(Cochran)のQ検定を使用した。 また、再発イベントの分析は、Lin-Wei-Yang-Yingモデルを使用した。

結果:

両試験の被験者合計8,474人の内、SGLT2阻害薬の治療効果の推定リスクは、それぞれ、

A)全死亡

相対リスク減少率:13%、[HR 0.87(95%CI 0.77-0.98)]、p=0.018

B)心血管死

相対リスク減少率:14%、[HR 0.86(95%CI 0.76-0.98)]、p=0.027

C)心不全あるいは心血管死による(初発の)入院

相対リスク減少率:26%、[HR 0.74(95%CI 0.68-0.82)]、p<0.0001

D)初発の心不全入院

相対リスク減少率:31%、[HR 0.69(95%CI 0.62-0.78)]、p<0.0001

E)初発の腎複合転帰

相対リスク減少率:38%、[HR 0.62(95%CI 0.43-0.90)]、p=0.013

F)心不全あるいは心血管死による全て(初発・再発)の入院:

相対リスク減少率:25%、[HR 0.75(95%CI 0.68-0.84)]、p<0.0001

となった。また、A)~F)における両試験間の交互作用(不均一性)は認められなかった。

Lancet. 2020 Aug 28;S0140-6736(20)31824-9.

上述のⒶ~Ⓚにおけるサブグループの「心血管死、または心不全による(初発の)入院」の複合リスクでは、

Ⓐ2型糖尿病の有無

T2DM有の相対リスク減少率:26%、[HR 0.74(95%CI 0.65-0.84)]、p<0.0001

T2DM無の相対リスク減少率:25%、[HR 0.75(95%CI 0.65-0.87)]、p<0.0001

Ⓑ性別(男/女)

男の相対リスク減少率:24%、[HR 0.76(95%CI 0.68-0.85)]、p<0.0001

女の相対リスク減少率:32%、[HR 0.68(95%CI 0.56-0.84)]、p=0.0004

Ⓒアンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害剤(ARNI)治療の有無

ANRI治療有の相対リスク減少率:32%、[HR 0.68(95%CI 0.53-0.89)]、p=0.0043

ANRI治療無の相対リスク減少率:25%、[HR 0.75(95%CI 0.68-0.84)]、p<0.0001

Lancet. 2020 Aug 28;S0140-6736(20)31824-9.

Ⓓ年齢(≦65歳、>65歳)

≦65歳の相対リスク減少率:25%、[HR 0.75(95%CI 0.64-0.87)]、p=0.0002

>65歳の相対リスク減少率:25%、[HR 0.75(95%CI 0.66-0.85)]、p<0.0001

Ⓔ年齢(<55歳、55-64歳、65-74歳、≧75歳)

<55歳の相対リスク減少率:11%、[HR 0.89(95%CI 0.66-1.21)]、p=0.46

55-64歳の相対リスク減少率:31%、[HR 0.69(95%CI 0.57-0.83)]、p<0.0001

65-74歳の相対リスク減少率:26%、[HR 0.74(95%CI 0.63-0.87)]、p=0.0004

≧75歳の相対リスク減少率:23%、[HR 0.77(95%CI 0.64-0.92)]、p=0.0033

Lancet. 2020 Aug 28;S0140-6736(20)31824-9.

Ⓕ心不全入院の既往有無

HF入院の既往有の相対リスク減少率:28%、[HR 0.72(95%CI 0.62-0.82)]、p<0.0001

HF入院の既往無の相対リスク減少率:23%、[HR 0.77(95%CI 0.67-0.87)]、p=0.0001

Ⓖ推定糸球体濾過率(eGFR<60、≧60)

eGFR<60の相対リスク減少率:23%、[HR 0.77(95%CI 0.68-0.88)]、p=0.0001

eGFR≧60の相対リスク減少率:28%、[HR 0.72(95%CI 0.62-0.82)]、p<0.0001

ⒽNYHA分類(Ⅱ、Ⅲ~Ⅳ)

NHYAⅡ度の相対リスク減少率:33%、[HR 0.67(95%CI 0.59-0.76)]、p<0.0001

NHYAⅢ~Ⅳ度の相対リスク減少率:13%、[HR 0.87(95%CI 0.75-1.01)]、p=0.064

Lancet. 2020 Aug 28;S0140-6736(20)31824-9.

Ⓘ人種(白人、黒人、アジア人)

白人の相対リスク減少率:17%、[HR 0.83(95%CI 0.74-0.93)]、p=0.0012

黒人の相対リスク減少率:47%、[HR 0.53(95%CI 0.75-1.01)]、p=0.0005

アジア人の相対リスク減少率:39%、[HR 0.61(95%CI 0.49-0.75)]、p<0.0001

Ⓙ地域(北アメリカ、ラテンアメリカ、ヨーロッパ、アジア)

北アメリカの相対リスク減少率:29%、[HR 0.71(95%CI 0.55-0.92)]、p=0.0088

ラテンアメリカの相対リスク減少率:30%、[HR 0.70(95%CI 0.57-0.84)]、p=0.0002

ヨーロッパの相対リスク減少率:12%、[HR 0.88(95%CI 0.76-1.02)]、p=0.086

アジアの相対リスク減少率:39%、[HR 0.61(95%CI 0.49-0.76)]、p<0.000

Lancet. 2020 Aug 28;S0140-6736(20)31824-9.

ⓀBMI(<30、≧30)

BMI<30の相対リスク減少率:26%、[HR 0.74(95%CI 0.66-0.83)]、p<0.0001

BMI≧30の相対リスク減少率:24%、[HR 0.76(95%CI 0.65-0.90)]、p=0.001

となり、ⒽNYHA分類(交互p=0.0087)、Ⓘ人種(交互p=0.0063)、Ⓙ地域(交互p=0.037)の間では、交互作用(不均一性)が認められたが、その他サブグループでは一貫したリスク減少が認められた。

Lancet. 2020 Aug 28;S0140-6736(20)31824-9.

結論:

「心不全による入院」に対するエンパグリフロジンとダパグリフロジンの有効性は、各大規模臨床試験で一貫していた。

また、これら両薬剤は、HFrEF患者の「腎複合転帰」も改善し、「全死亡」および「心血管死」を減らすことが示唆された。

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