PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30745014/
タイトル:Higher Diuretic Requirements in Acute Heart Failure With Admission Hyponatraemia Versus Normonatraemia
<概要(意訳)>
背景:
急性非代償性心不全(ADHF)で入院した低ナトリウム血症患者が正常ナトリウム患者と比較して、より必要となる利尿薬の用量は未だ明らかでない。
方法:
ESCAPE(うっ血性心不全と肺動脈カテーテルの有効性の評価)試験のデータセットから、
急性心不全で入院した低ナトリウム血症患者と正常ナトリウム患者の特徴と利尿薬の必要量を調査した。
結果:
被験者430例の内、103例(24%)が低ナトリウム血症で、327例(76%)がナトリウム濃度は正常[参考:血清Na濃度の基準値:135〜148mEq(mmol)/L]であった。
低ナトリウム血症群の血清Na平均濃度は130.2 mEq/L[中央値(IQR):132(128、133)]であり、正常ナトリウム群の血清Na平均濃度は138.6 mEq/L[中央値(IQR):138(136、140)]であった。
正常ナトリウム群と比較して低ナトリウム血症群は、下記の如く、多くの検査値で臓器うっ血が示唆された。
内頸静脈圧(JVD)>12cmH2O:[50.2% vs 65.7%、p=0.007]
下肢浮腫のアセスメントスケール+2(軽症)[31.8% vs 49.5%、p=0.001]
右心房圧(RAP)mmHg:[12 vs 15、p=0.007]
尿素窒素(BUN)mg/dL:[27 vs 35、p<0.001]
クレアチニン(Cre)mg/dL:[1.3 vs 1.5、p=0.006]
直接ビリルビンmg/dL:[0.3 vs 0.5、p=0.044]
アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST):[28 vs 35、p<0.001]
アラニントランスアミナーゼ(ALT):[25 vs 32、p=0.002]
Heart, Lung and Circulation(2020)29, 233-241
本研究で使用されたループ利尿薬の内訳は、フロセミドが90%、トラセミドが12.3%、ブメタニドが6.7%であった。
正常ナトリウム群と比較して低ナトリウム血症群は、トラセミドの使用率は高かった(p=0.043)が、フロセミドとブメタニドの使用率に差はなかった。
入院(ベースライン)時のフロセミドの用量は、中央値200 mgで同等であったが、入院期間中のフロセミドの用量は、正常ナトリウム群より低ナトリウム血症群の方が有意に多く[中央値200 vs 290、p<0.001]、入院時と比較したフロセミド用量の増加率も有意に高かった[0% vs 33%、p=0.007]。
また、退院時のフロセミド用量も、正常ナトリウム群より低ナトリウム血症群の方が有意に多かった[中央値120 vs 160、p=0.015]。
入院時のNa濃度と入院期間中のフロセミド投与量の間には、弱いが有意な逆相関があった(n=372、r=-0.133、p=0.01)。
Heart, Lung and Circulation(2020)29, 233-241
クレアチニン(Cre)は、入院時から3日目は正常ナトリウム群より低ナトリウム血症群の方が有意に高かった(p<0.01)が、それ以降は差がなかった。
右心房圧(RAP)に関しては、入院から退院まで、正常ナトリウム群より低ナトリウム血症群の方が有意に高かった(p<0.01~p<0.05)。
Heart, Lung and Circulation(2020)29, 233-241
入院時の収縮期血圧[107 vs 99、p<0.001]と拡張期血圧[68 vs 64、p=0.009]は、正常ナトリウム群より低ナトリウム血症群の方が有意に低く、その後6ヶ月にかけて、複数の測定時点でその傾向が認められた。
Heart, Lung and Circulation(2020)29, 233-241
低ナトリウム血症群(n=103)の血清Na濃度は、入院期間中は増加を示さなかったが、退院時以降から6ヶ月にかけて有意に増加したが(p<0.01)、入院3ヶ月後の平均血清Na濃度は<135 mEq/Lのままであり、入院6ヶ月後の平均血清Na濃度は135.28 mEq/Lであった。
一方で、正常ナトリウム群の血清Na平均濃度は、入院から6ヶ月にかけて維持されていた。
Heart, Lung and Circulation(2020)29, 233-241
入院から6ヶ月における「死亡、心不全再入院、心臓移植の複合イベント」は、正常ナトリウム群より低ナトリウム血症群の方が有意に多かった[50.8% vs 65%、p=0.011]。
結論:
急性心不全で入院した低ナトリウム血症の患者は、正常ナトリウム濃度の患者と比較して、より高度のうっ血所見が認められ、より多くのループ利尿薬が体液過剰の是正に必要となった。
また、ループ利尿薬の増加は収縮期血圧に影響を与えなかったので、うっ血の状態によって
ループ利尿薬の投与量は決定するべきであろう。
【参考情報】
ESCAPE試験
https://www.ebm-library.jp/circ/trial/doc/c2002429.html
低ナトリウム血症
https://doctorsfile.jp/medication/463/
ナトリウムの読み方
https://www.kango-roo.com/learning/3567/
電解質のmEq/L単位からSI単位への変換
https://sysmex-support.com/jp/section/faq/biochemistry_electrolyte_bloodgas/13631.html
頚静脈の診察
http://igakukotohajime.com/2020/06/17/%E9%A0%9A%E9%9D%99%E8%84%88%E3%81%AE%E8%A8%BA%E5%AF%9F/
浮腫に関するQ&A
https://www.kango-roo.com/learning/3141/
浮腫のアセスメントスケール