心不全患者におけるSGLT2阻害薬のアルブミン尿に対する影響



PubMed URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36129693/ 

タイトル:Association of Empagliflozin Treatment With Albuminuria Levels in Patients With Heart Failure: A Secondary Analysis of EMPEROR-Pooled

<概要(意訳)>

目的:

アルブミン尿は、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)としてルーチンに評価され、糸球体濾過バリアの構造的損傷を示し、腎臓および心血管系の予後不良と関連している。 SGLT2阻害薬は2型糖尿病患者のUACRを低下させることが証明されているが、心不全患者のUACRに対する影響については、まだ十分に研究されていない。

本研究では、幅広い左室駆出率レベルの心不全患者を対象としたエンパグリフロジンの大規模臨床試験における「ベースラインのアルブミン尿、およびアルブミン尿の変化」とアウトカムの関連を解析した。

方法:

この事後解析では、EMPEROR-Reduced試験(EF≦40%の心不全患者を対象)とEMPEROR-Preserved試験(EF>40%の心不全患者を対象)の国際多施設無作為化二重盲検並行群間プラセボ対照試験の患者データを統合し、EMPEROR-Pooled解析を実施した。 

各試験でベースラインのUACRデータが欠落している患者は、解析から除外した。

 EMPEROR-Preserved試験は2017年3月27日から2021年4月26日まで、EMPEROR-Reduced試験は2017年4月6日から2020年5月28日まで実施された。 

本研究では、これらの データを2022年1月から6月まで分析した。 

アルブミン尿は、朝排尿時のスポット尿検体からUACRを用いて評価され、無作為化時およびその後の各試験来院時(4週目、12週目、32週目、52週目、その後は24週毎)に採取され、中央検査室で分析された。

正常アルブミン尿はUACR<30 mg/g、微量アルブミン尿はUACR 30~299 mg/g、顕性アルブミン尿はUACR≧300 mg/gと定義された。 

EMPEROR試験の主要評価項目は「心血管死または心不全の初回発現までの期間」であり、重要な副次評価項目は「初発および再発の心不全の発現、eGFRのベースラインからの変化の傾き」、その他の副次評価項目(探索的)は「腎の複合評価項目イベント(慢性透析、腎移植、または持続的なeGFR低下のいずれか)の初回発現までの期間等」、その他の評価項目(探索的)は「治験薬投与中止後30日までのeGFRのベースラインからの変化等」であった。

追加の事後解析では、「ベースライン時に顕性アルブミン尿を認めなかった患者における顕性アルブミン尿への進展、およびベースライン時に顕性アルブミン尿を認めた患者における正常アルブミン尿または微量アルブミン尿への持続的寛解」におけるエンパグリフロジンとアルブミン尿の変化との関連を検討した。  

UACRの経時的変化についても、コホート全体、ベースラインのUACRと糖尿病のサブグループ別に評価した。  

最後に、ベースラインのUACRカテゴリー別に治療の安全性を評価した。 

結果:

合計9,673例(平均年齢69.9歳、女性3,551例[36.7%]、男性6,122例[63.3%]、アジア人1,496例[15.5%]、黒人514例[5.3%]、白人7,130例[73.7%]、その他の人種476例[4.9%])の患者が組み入れられた。

EMPEROR-Reduced試験からは3,710例、EMPEROR-Preserved試験からは5963例が含まれ、ベースラインのUACRが欠落していた45例(0.5%)は全集団から除外された。

プール集団では、5,552例が正常アルブミン尿(UACR<30mg/g)であり、1025例が顕性アルブミン尿(UACR>300mg/g)であった。  

正常アルブミン尿と比較して、顕性アルブミン尿の患者背景は、「若年、白人以外の人種、肥満、男性、ヨーロッパ以外の地域、NT-proBNP、高感度トロポニンTの高値、高血圧、NYHA分類の重症度が高い、心不全の罹病期間が長い、12ヶ月未満の心不全入院が多い、糖尿病(インスリン使用を含む)、高血圧、低eGFR、ACE阻害薬またはARBおよびMRAの使用頻度が低い」という特徴があった。

左室駆出率(LVEF)は、UACRのカテゴリー間で同様であった。 

<ベースライン時のUACR値別におけるエンパグリフロジンと評価項目との関連性> 

プラセボ群では、ベースライン時のUACRの値が高いほど、各評価項目のイベント増加が観察された。  

例えば、UACR>300mg/gの患者は、UACR<30mg/gの患者に比べて、主要評価項目のイベント(心血管死または初発の心不全入院までの期間)の発生率が2.7倍(100人年当たり22.2対8.2)、心血管死イベントの発生率が2.3倍(100人年当たり8.2対3.6)高かった。 

エンパグリフロジン群では、全解析[心血管死または心不全の初回発現までの期間、心血管死、初発の心不全入院、初発および再発の心不全入院、全死亡、腎複合エンドポイント等]におけるアウトカムとの関連は、ベースライン時のUACR値に関わらず、一貫していることが示された(交互P値>0.05)。

例えば、主要評価項目のイベント発生率は、プラセボと比較して、UACR<30mg/gの患者で20%の減少[HR 0.80(95%CI 0.69-0.92)]、UACR30-299mg/gの患者で26%の減少[HR 0.74(95%CI 0.63-0.86)]、UACR>300mg/gの患者で22%の減少[HR 0.78(95%CI 0.63-0.98)]が示された(交互P値=0.71)。

JAMA Cardiol. 2022 Nov 1;7(11):1148-1159.

<UACR値別におけるエンパグリフロジンとeGFR年間低下速度との関連性>

エンパグリフロジン群は、ベースライン時のUACR値に関わらず、eGFRの年間低下速度を緩やかにすることが示された(交互P値=0.57)。  

 UACR<30mg/gにおけるeGFR年間低下速度は、それぞれ、

プラセボ群で、-2.4(95%CI -2.6~-2.1)mL/min/1.73m2/年であった。

エンパグリフロジン群で、-0.8(95%CI -1.0~-0.5)mL/min/1.73m2/年であった。  

eGFR年間低下速度の勾配差は、1.6(95%CI 1.2~1.9)mL/min/1.73m2/年であった。  

UACR 30~299mg/gにおけるeGFR年間低下速度は、それぞれ、

プラセボ群で、-2.5(95%CI -2.9~-2.2)mL/min/1.73m2/年であった。

エンパグリフロジン群で、-1.4(95%CI -1.7~-1.0)mL/min/1.73m2/年であった。  

eGFR年間低下速度の勾配差は、1.2(95%CI 0.7~1.6)mL/min/1.73m2/年であった。  

UACR>30mg/gにおけるeGFR年間低下速度は、それぞれ、

プラセボ群で、-4.0(95%CI -4.6~-3.3)mL/min/1.73m2/年であった。

エンパグリフロジン群で、-2.3(95%CI -2.9~-1.6)mL/min/1.73m2/年であった。  

eGFR年間低下速度の勾配差は、1.7(95%CI 0.8~2.6)mL/min/1.73m2/年であった。  

JAMA Cardiol. 2022 Nov 1;7(11):1148-1159.

安全性に関しては、ベースライン時のUACR値が高い患者で、有害事象、投与中止に至った有害事象、重篤な有害事象、急性腎不全の頻度が高かった。

しかしながら、プラセボ群とエンパグリフロジン群の間には差はなかった。 

JAMA Cardiol. 2022 Nov 1;7(11):1148-1159.

<エンパグリフロジンと顕性アルブミン尿への進展、および正常アルブミン尿または微量アルブミン尿への寛解との関連性>

ベースライン時に、顕性アルブミン尿を認めなかった8,648例(エンパグリフロジン4,312例、プラセボ4,336例)において、エンパグリフロジン群は、プラセボ群と比較して、顕性アルブミン尿の新規発生率の低下が示された(100人年当たりエンパグリフロジン5.7件 vs. プラセボ7.1件、[HR 0.81(95%CI 0.70-0.94);p=0.005]。

この傾向は、サブグループ間(年齢、左室駆出率、糖尿病の有無、ベースラインのeGFR、BMI、心不全の既往歴)でも一貫していることが示された。

ベースライン時に、顕性アルブミン尿であった1,025例(エンパグリフロジン525例、プラセボ500例)において、エンパグリフロジン群は、プラセボ群と比較して、正常アルブミン尿または微量アルブミン尿への寛解率の増加が示された[HR 1.31(95%CI 1.07-1.59);p=0.009]。

エンパグリフロジン群の顕性アルブミン尿から正常アルブミン尿または微量アルブミン尿への寛解率は、年齢が高くなるほど大きくなる傾向が観察された[65歳未満の患者で[HR 1.04(95%CI 0.75-1.44)]、65~75歳の患者で[HR 1.30(95%CI 0.91-1.86)]、75歳超の患者で[HR 1.77(95%CI 1.23-2.56)](交互P値=0.03)。

JAMA Cardiol. 2022 Nov 1;7(11):1148-1159.

<エンパグリフロジンとアルブミン尿の経時的関連性>

エンパグリフロジン群は、プラセボ群と比較して、全集団におけるUACRの経時的変化と有意な関連は認められなかった[HR 0.99(95%CI 0.95-1.05)]。

しかしながら、アルブミン尿の減少は、ベースライン時のUACR高値カテゴリーで、より顕著であった(UACR<30mg/gで[HR 1.04(95%CI 0.97-1.11)]、UACR30-300mg/gで[HR 0.95(95%CI 0.87-1.04)]、UACR>300mg/gで[HR 0.88(95%CI 0.75-1.03)](交互P値=0.04)。

ベースライン時の糖尿病有無におけるUACRの変化は、糖尿病の患者では有意であった[HR 0.91(95%CI 0.85-0.98)]が、糖尿病のない患者では有意ではなかった[HR 1.08(95%CI 1.01-1.16)]。

JAMA Cardiol. 2022 Nov 1;7(11):1148-1159.

結論:

このEMPEROR-Pooled試験の事後解析では、エンパグリフロジンはプラセボと比較して、ベースライン時のUACR(尿中アルブミン/クレアチニン比)値に関わらず、心血管死または心不全入院の減少、顕性アルブミン尿への進展抑制、正常アルブミン尿または微量アルブミン尿へ寛解する頻度が高かった。

エンパグリフロジンは、全集団におけるUACRの低下と関連しなかったが、糖尿病患者では非糖尿病患者よりもUACRの低下効果が大きかった。

さらに、ベースライン時のUACR値が高い患者では、UACRの低下傾向が観察された。

これらの所見は、エンパグリフロジンによるアルブミン尿の減少を観察するためには、アルブミン尿値が高いことが必要であることを示唆するだろう。

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