日本の慢性腎臓病患者に対する多職種ケアチーム介入の有効性と現状



PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37002509/ 

タイトル:Effectiveness and current status of multidisciplinary care for patients with chronic kidney disease in Japan: a nationwide multicenter cohort study

<概要(意訳)>

目的:

慢性腎臓病(CKD)の患者数は世界中で増加している。

日本では2005年に約1,330万人の成人がCKDと推定され、2015年には1,480万人に増加し、日本の高齢化を反映している可能性がある。

それに伴い、日本で腎代替療法(RRT)を開始する末期腎臓病の患者数は年々増加しており、透析療法を受ける患者数は34万人を超えている。

日本の透析人口は100万人当たり2,682人で、台湾に次いで世界で2番目に多い。

CKDが進行する危険因子には、高血圧、糖尿病、加齢などがあり、その結果、腎機能が悪化し、末期腎臓病や心血管疾患(CVD)に至る可能性がある。

CKDは、その疫学的特徴、高い死亡率、多額の医療費から、国際的に認識されている公衆衛生問題である。

したがって、CKD患者の重要な治療目標は、疾患の進行を遅らせ、合併症を最小限に抑え、QOLを改善することである。

 

集学的ケアモデルは、異なるが相互補完的なスキル、知識、経験を持つ様々な専門分野を包含し、患者の身体的・心理社会的ニーズの観点からヘルスケアを改善し、最適な結果を達成することを目的としている。

しかしながら、臨床現場におけるCKD患者に対する標準的治療の向上は、まだまだ求められている。

日本では、CKDの進行予防と患者のQOLの向上・維持を目的として、2017年に日本腎臓病協会(JKA)により、一定の要件を満たした看護師、管理栄養士、薬剤師がCKDEとしての資格を得ることができる「腎臓病療指導養士(CKDE)」制度が創設された。

すべてのCKDEは、生活習慣の改善、食事指導、CKDの病期に応じた薬物療法など、CKD患者を管理するための基本的なスキルを習得しており、CKDの集学的治療において重要な役割を果たしている。

2022年までに、日本には1,935人がCKDEの資格を取得し、腎臓専門医とCKDEによるCKD患者の集学的治療の普及に寄与している。

しかしながら、日本におけるCKD患者における集学的治療と腎機能との関連を検討した研究は限られており、これらの研究は単一施設の少数患者を対象としたものであった。

我々の多施設コホート研究では、CKD患者における集学的治療の現状と、集学的治療がCKD患者の腎機能悪化の抑制に寄与できるかどうかを調査した。

 

方法:

本研究は、24施設の医療機関に登録された約3,000例の日本人患者を対象とした多施設共同後ろ向きコホート研究として計画された。

2015年1月から2020年12月までの間に、集学的治療を受ける12ヵ月前から24ヵ月後までの腎機能データが得られたCKD患者を対象とした。

除外条件は、「20歳未満、eGFR≧60mL/分/1.73m2、活動性の悪性腫瘍、移植を受けた患者、長期の透析歴、年齢、性別、腎機能に関するデータが不足している患者」とした。

主要評価項目は、「集学的治療の介入12ヵ月前から24ヵ月後までのeGFRの年間低下率(ΔeGFR)」であった。

副次評価項目は、「集学的治療の介入12ヵ月前から24ヵ月後までの蛋白尿の年次変化と、2021年末までの全死亡およびRRT(血液透析、腹膜透析、腎移植)開始の複合転帰」とした。

この複合転帰は、2021年末までに発生した全死亡またはRRT(腎代替療法)のいずれかのイベントを評価した。

集学的治療は、「腎臓専門医と、看護師、登録栄養士、薬剤師、理学療法士、ソーシャルワーカー、臨床工学技士、臨床検査技師などの他分野の専門家から構成される多職種」によるCKD患者の集学的ケア(医学的管理、患者教育、CKD病期に応じた生活習慣の改善指導等)と定義した。

集学的治療は、「腎臓病療養指導士のためのCKD指導ガイドブック」に準拠した内容で実施した。

 

結果:

 <集学的治療開始時における患者特性>

試験期間中に登録された3,146例の内、131例(CKDステージ1または2の118例、ベースライン時の腎機能データがない13例)が除外され、3,015例が解析対象となった。

平均年齢は、70.5±11.6歳で、74.2%が男性であった。

eGFRの中央値、23.5 mL/min/1.73m2、UPCR中央値は1.13 g/gCrであった。

CKD重症度は、ステージ3bが761例(25.2%)、ステージ4が1,248例(41.4%)、ステージ5が726例(24.1%)であった。

CKDの最も一般的な原因は、糖尿病性腎症であり、次いで高血圧、糸球体腎炎であった。

 

<多職種チームによるCKD患者の介入>

介入は半数以上の患者に「入院」で行われ、残りの患者は「外来」で行われた。

多職種チームメンバーの大半は管理栄養士(90.4%)で、看護師(86.2%)、薬剤師(62.3%)、理学療法士(25.9%)が続いた。

多職種ケアチームメンバーの平均人数は4人で、5人のチームメンバーによる介入を受けた患者は33.7%、4人のチームメンバーによる介入を受けた患者は29.2%であった。

 

<集学的治療前後のΔeGFR>

全体におけるeGFRの年間平均低下率(ΔeGFR)は、集学的治療の介入前では-6.0±9.0であったが、介入後6ヵ月では-0.34±5.78、12ヵ月では-1.40±6.82、24ヵ月では-1.45±4.04となり、その差は、介入後のすべての評価時点で有意であった(p<0.0001)。

Clin Exp Nephrol. 2023 Jun;27(6):528-541.

さらにDM群における平均ΔeGFRは、介入前では-6.60±9.5、介入後6ヵ月では-1.04±5.92、12ヵ月では-2.28±7.39、24ヵ月では-2.06±4.50となり、その差は、介入後のすべての評価時点で有意であった(p<0.0001)。

非DM群においては、それぞれ、-5.55±8.56、0.20±5.61、-0.76±6.29、-1.06±3.66となり、その差は、介入後のすべての評価時点で有意であった(p<0.0001)。

Clin Exp Nephrol. 2023 Jun;27(6):528-541.

CKDステージ3の患者における平均ΔeGFRは、介入前では-4.05±9.19、介入後6ヵ月では-0.53±6.84、12ヵ月では-1.82±7.43、24ヵ月では-1.83±4.21であった。

その差は、介入後のすべての評価時点で有意であった。

CKDステージ3の患者における平均ΔeGFRをG3aとG3bのサブグループに分けると、その差は、ステージG3bでのみ有意であった。

 

CKDステージ4の患者における平均ΔeGFRは、介入前では-6.20±8.35、介入後6ヵ月では-0.19±5.01、12ヵ月では-1.33±6.14、24ヵ月では-1.54±3.66となり、その差は、介入後のすべての評価時点で有意であった(p<0.0001)。

 

CKDステージ5の患者における平均ΔeGFRは、介入前では-8.43±9.13、介入後6ヵ月では-0.33±5.42、12ヵ月では-0.72±6.98、24ヵ月では-0.20±4.36となり、その差は、介入後のすべての評価時点で有意であった(p<0.0001)。

 

「平均ΔeGFR」と「多職種ケアチームのメンバー数」との間には有意な相関はみられなかったが、すべての時点において「平均ΔeGFR」と「多職種ケアチームによる介入回数」との間には有意な相関がみられた(p<0.05; Supplementary Table 1)。

Clin Exp Nephrol. 2023 Jun;27(6):528-541.

<集学的治療後の蛋白尿の変化>

UPCR中央値は、ベースライン時の1.13 g/gCrから、介入後6ヵ月で0.96 g/gCr(p<0.0001)、12ヵ月で0.82 g/gCr(p<0.0001)、24ヵ月で0.78 g/gCr(p=0.019)となり、その差は、介入後のすべての評価時点で有意に低下した。

DM群では介入後すべての測定時期で、UPCRに有意な減少がみられたが、非DM群では6ヵ月時のみであった(p=0.0003)。

 

介入後12ヵ月および24ヵ月における「UPCRの変化率」と「多職種ケアチームのメンバー数」との間には有意な相関がみられたが、すべての時点において「UPCRの変化率」と「多職種ケアチームによる介入回数」との間には有意な相関はみられなかった(Supplementary Table 2)。

Clin Exp Nephrol. 2023 Jun;27(6):528-541.

<転帰>

観察期間の中央値は35ヵ月[20-50ヵ月]で、この間に149例(4.9%)が死亡し、747例(24.8%)がRRTを開始し、66例(2.2%)が追跡不能となった。

RRTの内訳は、血液透析が618例(82.7%)、腹膜透析が66例(8.8%)、腎移植が25例(3.5%)であった。

DM群の患者特性では、男性、CVD合併、若年、BMIとUPCRが高く、eGFRと血清アルブミン値が低い傾向がみられた。

 

「複合エンドポイント(全死亡およびRRT開始)」に対するKaplan-Meier解析では、DM群と非DM群の間に有意差が認められた(log-rank p<0.0001)。

非DM群(参照群)と比較して、DM群の「全死亡およびRRT開始」の非調整ハザード比[HR 1.74(95%CI 1.53-1.99)]は、有意に高かった(p<0.0001)。

年齢、性別、CVD既往歴などの背景因子で調整したDM群のハザード比[HR 1.68(95%CI 1.47-1.93)]は、有意に高かった(p<0.0001)。

背景因子とベースライン時のBMI、ヘモグロビン、血清アルブミン、eGFR、UPCR値などの検査データをさらに調整したDM群のハザード比[HR 1.28(95%CI 1.09-1.51)]は、有意に高かった(p<0.0001)。

 

「全死亡」に対するKaplan-Meier解析では、DM群と非DM群の間に有意差が認められた(log-rank p=0.31; Supplementary Fig. 2)。

 

非DM群(参照群)と比較して、年齢、性別、CVD既往歴などの背景因子で調整したDM群のハザード比[HR 1.49(95%CI 1.08-2.06)]は、有意に高かった。

背景因子とベースライン時のBMI、ヘモグロビン、血清アルブミン、eGFR、UPCR値などの検査データをさらに調整したDM群のハザード比[HR 1.49(95%CI 1.01-2.19)]は、有意に高かった(p=0.044; Supplementary Table 3)。

糖尿病(DM)患者は、CKD重症度が高くなるにつれて、BMI、ヘモグロビン、血清アルブミン、HbA1cが減少し、UPCRは増加した。

Clin Exp Nephrol. 2023 Jun;27(6):528-541.

全死亡およびRRT(血液透析、腹膜透析、腎移植)開始の複合イベント発生率は、CKD重症度が高くなるにつれて増加した(log-rank p<0.0001)。

 

Kaplan-Meier解析では、ベースライン時のCKD重症度によって全死亡率が有意に異なることが明らかになった(log-rank p=0.0009;Supplementary Fig. 2)。

CKD重症度のG3a群と比較して、年齢、性別、CVDの既往、DMの有無などの背景因子で調整した、G3b群、G4群、G5群のハザード比は、それぞれ、HR 2.43(95%CI 1.04-7.08)、HR 2.49(95%CI 1.11-7.17)、HR 3.77(95%CI 1.61-11.0)であった。

 

しかしながら、背景因子とベースライン時のBMI、ヘモグロビン、血清アルブミン、UPCR値などの検査データをさらに調整したところ、G5群のみ、G3a群と比較したハザードが高かった[HR 3.03(95%CI 1.01-9.11)](p=0.048; Supplementary Table 4)。

Clin Exp Nephrol. 2023 Jun;27(6):528-541.

全死亡およびRRT(血液透析、腹膜透析、腎移植)開始の複合エンドポイントと「多職種ケアチームのメンバー数」には、有意な関連がみられた。

多職種ケアチームのメンバーが一人増えるごとの、ハザード比は、HR 0.85(95%CI 0.80–0.89 )となり、複合イベント発生率の有意な減少が示された(p<0.0001)。

同様に、「多職種ケアチームによる介入回数」にも、有意な関連がみられた。

多職種ケアチームによる介入回数が一回増えるごとの、ハザード比は、HR 0.97(95%CI 0.96–0.98 )となり、複合イベント発生率の有意な減少が示された(p<0.0001)。

 

複合イベント発生率に対するハザード比を多職種ケアチームの専門分野構成によって比較したところ、管理栄養士[HR 0.47(95%CI 0.35-0.63)、および理学療法士[HR 0.39(95%CI 0.31-0.48)が多職種ケアチームに含まれる場合、複合イベント発生率の有意な減少が示された(p<0.0001)。

Clin Exp Nephrol. 2023 Jun;27(6):528-541.

多変量Cox比例ハザード回帰分析により、「糖尿病の有無、男性、CVDの既往、ベースライン時のヘモグロビン値、eGFR値、UPCR値、管理栄養士と理学療法士による介入」は、複合イベントの独立した予測因子として同定された。

Clin Exp Nephrol. 2023 Jun;27(6):528-541.

結論:

多職種ケアチームによる集学的治療は、CKD患者におけるeGFRの年間低下率を有意に遅らせ、原疾患に関係なく有効であることを示した。

CKD重症度のG3〜G5の患者には、集学的治療が推奨される。

CKDE(腎臓病療指導養士)システムが、CKD患者の医療水準の向上に寄与することを確認するためには、さらなる研究が必要である。

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