PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37677118/
タイトル:Comparative Cardiovascular Effectiveness and Safety of SGLT-2 Inhibitors, GLP-1 Receptor Agonists, and DPP-4 Inhibitors According to Frailty in Type 2 Diabetes
<概要(意訳)>
目的:
高齢2型糖尿病患者を対象として、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬の心血管系への有効性と安全性を異なる虚弱状態で比較評価すること。
方法:
本研究は、メディケアのパートA(入院患者保険)、パートB(外来患者保険)、パートD(処方薬保険)からのデータを利用した レトロスペクティブコホート研究である。
「SGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬」、「GLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬」、「SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬」を比較する3つの虚弱状態別[臨床的に意味のあるCFI値<0.15:非虚弱、CFI値0.15-0.24:プレ虚弱、CFI値≧0.25:虚弱]のランダム化試験を模倣するため、2013年4月(SGLT2阻害薬のカナグリフロジンが2013年3月29日に最初に承認された月)から2019年12月までの間に、対象となる3つの抗糖尿病薬クラスのいずれかを処方されたメディケア受給者の3つの新規ユーザーコホートを作成した。
対象の研究集団は、SGLT2阻害薬(カナグリフロジン、ダパグリフロジン、エンパグリフロジン、エルツグリフロジン)、GLP-1受容体作動薬(エクセナチド、リキセナチド、アルビグルチド、デュラグルチド、リラグルチド、セマグルチド)、DPP-4阻害薬(シタグリプチン、サキサグリプチン、リナグリプチン、アログリプチン)のいずれかで治療を開始した65歳以上の患者で、過去365日において、これらの薬剤に曝露されていない患者が含まれた。
コホート登録前の365日間に、対象となる患者は、少なくとも1回の2型糖尿病診断を入院中または外来で受けており、メディケアに継続して加入していることが必要であった。
過去365日以内に、1型糖尿病または二次性糖尿病、末期腎不全の診断、固形臓器移植、介護施設への入所があった患者、またはコホート登録日に同じ薬効分類の薬剤を併用した患者は除外した。
コホート登録前90日間に、心血管系または安全性における再発リスクが高い急性心筋梗塞、虚血性脳卒中、心不全、冠動脈または脳血管の血行再建術による入院、下肢切断、非椎体骨折、低血糖による入院または救急外来、急性腎障害、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)、重篤な性器感染症または尿路感染症、急性膵炎、非悪性胆道イベントによる入院があった患者は除外した。
主要な有効性評価項目は、「急性心筋梗塞または虚血性脳卒中の入院、心不全による入院、全死亡の複合イベントの初発までの期間」であった。
二次的有効性評価項目は、主要な有効性評価項目の個々が含まれた。
メディケアデータには、死因に関する情報が含まれていない為、主要な有効性評価項目に心血管死を含めることはできなかった。
その代わりに、全死亡(全ての原因による死亡)を含めた。
主要な安全性アウトカムは、「9つ[下肢切断、非椎体骨折、低血糖による入院または救急外来、急性腎障害、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)、重篤な性器感染症または尿路感染症、急性膵炎、非悪性胆道イベント]の複合イベントの初発までの期間」であった。
結果:
傾向スコアマッチング法(プロペンシティスコアマッチング法)の対象となる744,310例の患者の中から、SGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬(n=120,202のマッチングペア)、GLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬(n=113,864のマッチングペア)、SGLT-2阻害薬とGLP-1受容体作動薬(n=89,865のマッチングペア)を比較する3つの新規ユーザーコホートを特定した。
合計で、250,028例の患者は「非虚弱」、359,562例は「プレ虚弱」、38,272例は「虚弱(フレイル)」であった。
3つのコホートの内、SGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬のコホートでは、年齢が高く、男性患者の割合が高く、平均CFI(フレイル指数)が低く、平均合併症スコアが低く、薬剤の使用が少なく、救急外来の受診回数が少なかった。
<虚弱状態別の有効性と安全性比較:SGLT2阻害薬 vs DPP-4阻害薬>
治療開始後の平均追跡時間が10.6ヶ月の間に、主要な有効性評価項目の全発生率(年間1,000人あたり)は、SGLT-2阻害薬による新規治療患者で34.3、DPP-4阻害薬の新規治療患者で47.7であった[HR0.72(95%CI 0.69-0.75 )、年間1,000人あたりの全体イベント差13.35(95%CI 15.06-11.64)]。
年間1,000人あたりの虚弱状態別のイベント差は、非虚弱で6.74、プレ虚弱で16.58、虚弱で27.24となり、虚弱の重症度が大きくなるにつれて絶対的減少率が大きくなることが示された(異質性P<0.001)
治療開始1年時のNNTは、非虚弱で159、プレ虚弱で66、虚弱で39であった。
主要な安全性のアウトカムの全発生率(年間1,000人あたり)は、SGLT-2阻害薬による新規治療患者で36.6、DPP-4阻害薬の新規治療患者で45.3であった[HR0.81(95%CI 0.77-0.84 )、年間1,000人あたりの全体イベント差8.72(95%CI 10.44-7.00)]。
年間1,000人あたりの虚弱状態別のイベント差は、非虚弱で5.21、プレ虚弱で10.27、虚弱で11.59となり、虚弱の重症度が大きくなるにつれて絶対的減少率が大きくなることが示された(異質性P=0.004)
治療開始1年時のNNTは、非虚弱で197、プレ虚弱で103、虚弱で83であった。
<虚弱状態別の有効性と安全性比較:GLP-1受容体作動薬 vs DPP-4阻害薬>
治療開始後の平均追跡時間が10.7ヶ月の間に、主要な有効性評価項目の全発生率(年間1,000人あたり)は、GLP-1受容体作動薬による新規治療患者で44.1、DPP-4阻害薬の新規治療患者で59.6であった[HR0.74(95%CI 0.71-0.77 )、年間1,000人あたりの全体イベント差15.49(95%CI 17.46-13.52)]。
年間1,000人あたりの虚弱状態別のイベント差は、非虚弱で7.02、プレ虚弱で18.54、虚弱で25.8となり、虚弱の重症度が大きくなるにつれて絶対的減少率が大きくなることが示された(異質性P<0.001)。
治療開始1年時のNNTは、非虚弱で162、プレ虚弱で60、虚弱で42であった。
主要な安全性のアウトカムの全発生率(年間1,000人あたり)は、GLP-1受容体作動薬による新規治療患者で51.9、DPP-4阻害薬の新規治療患者で57.5であった[HR0.90(95%CI 0.87-0.94 )、年間1,000人あたりの全体イベント差5.54(95%CI 7.59-3.49)]。
年間1,000人あたりの虚弱状態別のイベント差は、非虚弱で3.16、プレ虚弱で7.16、虚弱で-3.45となり、非虚弱とプレ虚弱で絶対的減少率が大きくなることが示された(異質性P=0.048)。
治療開始1年時のNNTは、非虚弱で339、プレ虚弱で152、虚弱で804であった。
Diabetes Care 2023;46(11):1–11
<虚弱状態別の有効性と安全性比較:SGLT2阻害薬 vs GLP-1受容体作動薬>
治療開始後の平均追跡時間が9.6ヶ月の間に、主要な有効性評価項目の全発生率(年間1,000人あたり)は、SGLT2阻害薬による新規治療患者で36.3、GLP-1受容体作動薬の新規治療患者で39.6であった[HR0.92(95%CI 0.87-0.97 )、年間1,000人あたりの全体イベント差3.30(95%CI 5.31-1.29)]。
年間1,000人あたりの虚弱状態別のイベント差は、非虚弱で0.91、プレ虚弱で3.78、虚弱で13.30となり、2群間における有効性に異質性はないことが示された(P=0.067)。
治療開始1年時のNNTは、非虚弱で1,425、プレ虚弱で289、虚弱で86であった。
主要な安全性のアウトカムの全発生率(年間1,000人あたり)は、SGLT2阻害薬による新規治療患者で41.1、GLP-1受容体作動薬の新規治療患者で45.4であった[HR0.91(95%CI 0.86-0.95 )、年間1,000人あたりの全体イベント差4.36(95%CI 6.52-2.20)]。
年間1,000人あたりの虚弱状態別のイベント差は、非虚弱で2.19、プレ虚弱で4.22、虚弱で18.21となり、2群間における安全性に異質性はないことが示された(P=0.086)。
治療開始1年時のNNTは、非虚弱で532、プレ虚弱で250、虚弱で60であった。
Diabetes Care 2023;46(11):1–11
有効性と安全性の結果は、実施されたすべての感度分析で一貫していた。
心血管系疾患の既往歴によるサブグループ解析では、SGLT2阻害薬で治療開始した患者は、DPP-4阻害薬またはGLP-1受容体作動薬と比較して、心血管疾患を有する患者で相対的および絶対的な有効性の差が大きいことが示された。
ここでも、絶対的な有効性の差は、虚弱状態の重症度が高いほど大きくなった。
年齢別のサブグループ解析では、75歳以上で絶対的有効性の差が大きかったが、若年患者でも、虚弱状態の重症度が高くなるにつれて有効性の差が大きくなる傾向が認められた。
主要な安全性アウトカムについては、SGLT2阻害薬で治療した75歳以上の虚弱患者で絶対的減少が最も大きかった。
結論:
高齢2型糖尿病患者に対するSGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬は、DPP-4阻害薬と比較して、虚弱状態に関わらず、重篤な安全性アウトカムの全発生率を増加させることなく、心血管イベントおよび死亡を減少させた。
重要なことは、すべての有効性アウトカムの絶対リスク減少率は、虚弱の重症度が高くなるにつれて大きくなったことである。
これらのデータは、臨床ガイドラインに情報を提供し、虚弱患者におけるより個別化された意思決定を支援することができる。