PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33159841/
タイトル:Guideline recommendations and the positioning of newer drugs in type 2 diabetes care
<概要(意訳)>
【ADA–EASDコンセンサスレポートとESCガイドラインの推奨事項の違い】
2018年12月に発刊された「ADA-EASDコンセンサスレポート」の後、REWIND試験(デュラグルチド)、DECLARE-TIMI 58試験(ダパグリフロジン)、CREDENCE試験(カナグリフロジン)などの大規模な心血管および心腎アウトカム試験が報告された。
これらの試験は、特にHbA1cが目標を下回るまたは目標範囲にあり、複数の心血管リスク因子を有する2型糖尿病患者における心血管および腎アウトカムのエビデンスとなった。
2019年9月に公開された「ESCガイドライン」は、これらのエビデンスについての検討ができた。
「ADA-EASDコンセンサス」は、これらのエビデンスを反映する為に、2019年12月に更新版を公表した。
心血管リスクの定義と考慮に関する事項は、「ADA–EASDコンセンサスレポート」と「ESCガイドライン」では異なる。
「更新版のADA-EASDコンセンサスレポート」では、心血管アウトカム試験で使用された選択基準に基づいて、心血管リスクの高いグループを特定している。
一方、「ESCガイドライン」では、心血管疾患の予防に関する2016年のESCガイドラインから変更した心血管リスクのカテゴリーを独自に定義しており、1型糖尿病を含む。
ESCガイドラインにおける心血管高リスクの定義は、糖尿病の罹病期間に加えて、危険因子(高齢、高血圧、脂質異常症、喫煙、肥満)に基づいている為、ほとんど2型糖尿病が含まれる。
しかしながら、これらの定義を満たす患者特性が、DECLARE-TIMI58試験やREWIND試験などの心血管アウトカム試験の被験者の特性をどの程度反映しているかを判断することは困難である。
心血管保護における血糖降下薬の位置付けも異なる。
「ADA-EASDコンセンサスレポート」では、アテローム動脈硬化性心血管疾患を伴う2型糖尿病の患者、およびアテローム動脈硬化性心血管疾患の高リスク患者における心血管イベントの減少に関して、GLP-1受容体作動薬での治療を優先している。
一方で、SGLT2阻害薬は、慢性腎臓病や心不全の患者に対しては、GLP-1受容体作動薬よりもSGLT2阻害薬での治療を優先している。
「ESCガイドライン」では、アテローム動脈硬化性心血管疾患の患者、または心血管リスクが高いまたは非常に高い患者には、GLP-1受容体作動薬またはSGLT2阻害剤での治療を推奨しているが、この2剤の優劣はつけていない。
最も注目されている相違点は、メトホルミンの位置付けである。
多くの心血管アウトカム試験では、メトホルミンはベースラインの治療として投与されていた。
しかし、メトホルミンが心血管イベントの減少に寄与したことを示唆するエビデンスはない。
「ADA-EASDのコンセンサス」では、2型糖尿病の基本的な治療薬としてメトホルミンを位置付けているが、これはエビデンスに基づくものではなく、歴史の名残ではないかと明確に疑問視している。
さらに、アテローム動脈硬化性心血管疾患、慢性腎臓病、心不全リスクが患者には、HbA1cに関係なく、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害剤、またはその両方の追加を推奨している。
対照的に、「ESCガイドライン」では、アテローム動脈硬化性心血管疾患、または心血管リスクが高い未治療患者には、メトホルミンを第一選択薬として開始する必要がなく、GLP-1受容体作動薬またはSGLT2阻害薬での治療を推奨している。
Lancet Diabetes Endocriniol. 2021 Jan; 9(1): 46-52.
【アテローム動脈硬化性心血管疾患を伴う2型糖尿病に対する位置づけの違い】
「ADA-EASDコンセンサスレポート」では、アテローム動脈硬化性心血管疾患を伴う2型糖尿病患者の最大の脅威は、主要な心血管有害事象である為、SGLT2阻害薬よりもGLP-1受容体作動薬の位置づけの方が高い。
しかしながら、SGLT2阻害薬は、HbA1cレベルに関わらず、優れた代替治療選択肢である。
また、HFrEF[左室駆出率が低下(LVEF≦40%)した心不全]患者、慢性腎臓病(CKD)患者には、GLP-1受容体作動薬よりもSGLT2阻害薬の位置づけの方が高い。
「ESCガイドライン」では、アテローム動脈硬化性心血管疾患を伴う2型糖尿病患者には、HbA1cレベルに関わらず、SGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬での治療を推奨している。
【アテローム動脈硬化性心血管疾患を伴わない2型糖尿病に対する位置づけの違い】
「ADA-EASDコンセンサスレポート」では、主要な心血管有害事象のリスクを低減する為に、心血管疾患リスクの高い(具体的には、冠動脈、頸動脈、下肢の動脈狭窄率が50%を超える55歳以上、左室肥大、アルブミン尿、eGFR<60mL/min/1.73m2)1次予防の2型糖尿病患者には、HbA1cレベルに関わらず、GLP-1受容体作動薬またはSGLT2阻害薬での治療を推奨している。
また、HFrEF[左室駆出率が低下(LVEF≦40%)した心不全]患者、慢性腎臓病(CKD)患者には、GLP-1受容体作動薬よりもSGLT2阻害薬の位置づけの方が高い。
「ESCガイドライン」では、アテローム動脈硬化性心血管疾患はないが、他の標的臓器障害のある2型糖尿病患者(タンパク尿、eGFR <30 mL/min/1.73m2、左心室肥大、網膜症)、3つ以上の主要な危険因子(50歳以上、高血圧、脂質異常症、喫煙、肥満)、罹病期間20年超えの1型糖尿病、心血管疾患の高リスク(標的臓器障害がなく、糖尿病の罹病期間が10年以上、およびその他の危険因子を有する)の患者は、HbA1cレベルに関わらず、SGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬での治療を推奨している。
【メトホルミンの使用対する位置づけの違い】
「ADA-EASDコンセンサスレポート」では、全ての2型糖尿病患者のベースライン治療でメトホルミンを推奨している。
「ESCガイドライン」では、心血管疾患の中等度リスク、糖尿病の罹病期間が10年以下、他の危険因子がない2型糖尿病患者では、メトホルミンを第一選択薬として推奨している。
また、心血管リスクの高い2型糖尿病患者では、SGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬を使用し、HbA1cの目標が達成されない場合は、メトホルミンの追加を推奨している。
結論:
糖尿病患者の心血管合併症のリスク減少を最初に検討したUGDP試験の結果が報告されてから50年以上が経過した。
その試験の結論は、血糖コントロールを改善するだけでは、そのリスク減少は達成しえないことが示された。
UKPDS試験などの後の研究では、上述の見解を大部分支持したが、良好な血糖コントロールは、10〜15年にわたって代謝記憶(メタボリックメモリー)と心血管合併症のリスク減少に繋がっていることを示唆した。
これらの所見は、血糖コントロールによって網膜症の発症リスクを減少することが一貫して示されている所見と対照的である。
つまり、網膜症の発症リスク減少に関しては血糖コントロールが重要であるが、糖尿病患者の心血管疾患の予防と管理においては血糖コントロールだけでは不十分である。
今後は、糖尿病患者のケアに関わる開業医の協力を得て、心腎疾患のリスクが高い糖尿病患者がGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬の恩恵を享受できるようにするべきである。
【参考情報】
ADA-EASDコンセンサスレポート2019
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31857443/
ESCガイドライン2019
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31497854/
UGDP試験