PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33275161/
タイトル:The liver-alpha cell axis associates with liver fat and insulin resistance: a validation study in women with non-steatotic liver fat levels
<概要(意訳)>
背景:
2型糖尿病を発症する多くの患者は、グルカゴンレベルの上昇(高グルカゴン血症)の所見が見られる。
肝臓-α細胞(グルカゴンを分泌する膵臓のα細胞)軸の概念は、高グルカゴン血症と肝臓脂肪含有量の増加との相関を示すという過去の研究報告がある。
しかしながら、この相関は非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の被験者が対象になっている。
本研究では、肝臓脂肪含有量の低い女性コホートにおける肝臓-α細胞軸の指標である「グルカゴン-アラニン指数(空腹時グルカゴン×空腹時アラニン)」と「肝臓脂肪含有量」、「インスリン抵抗性」との関連を調査した。
【参考情報】http://ohashi-clinic.net/t-news/t-news1912.html
げっ歯類で肝グルカゴン受容体シグナリングを阻害するとα細胞増殖、高グルカゴン血症、高アミノ酸血症が見られる。高アミノ酸血症はα細胞過形成一因とも考えられる。これらの現象は肝・α細胞軸と名付けられている。
方法:
前向き観察研究であるPPSDiab(2型糖尿病の予測・予防・細分類)研究に参加している2型糖尿病発症リスクが低いまたは高い若い女性79例(1型・2型糖尿病は除外、アミノ酸と肝臓脂肪含有量を測定できた被験者が対象)のデータを分析した。
肝臓の脂肪含有量はMRIで計測し、インスリン抵抗性はHOMA-IRとして計算した。
「グルカゴン-アラニン指数」と「肝臓脂肪含有量」、「HOMA-IR」等におけるスピアマンの相関分析を実施した。
また、「グルカゴン-アラニン指数」と「肝臓脂肪含有量」、「HOMA-IR」等における多変量線形回帰分析を実施した。
結果:
まず、空腹時のアラニン(pmol/L)、グルカゴン(μmol/L)、グルカゴン-アラニン指数を肝臓脂肪含有量(平均0.51%)の四分位数(Q1~4)間で比較した。
空腹時のアラニンは、四分位数Q1~4にかけて継続的に増加した。
一方、空腹時のグルカゴンとグルカゴン-アラニン指数は、四分位数Q2~4で増加した。
空腹時のアラニン、グルカゴン、グルカゴン-アラニン指数は、肝臓脂肪含有量と相関していた。
Diabetologia. 2020 Dec4. doi: 10.1007/s00125-020-05334-x.
「グルカゴン-アラニン指数と肝臓脂肪含有量」の相関は、肝臓脂肪含有量0.5%以下では示されなかったが、「0.5%超で正の相関」が示された。
さらに、「グルカゴン-アラニン指数」は、「全体コホートのHOMA-IR、空腹時血糖値、(OGTT)2時間値」と「正の相関」を示した。
(全てのアミノ酸の中で、グルタミン酸は「グルカゴンと肝臓脂肪含有量」の両方に対して最も高い相関を示した。)
Diabetologia. 2020 Dec4. doi: 10.1007/s00125-020-05334-x.
線形回帰分析では、「研究コホート全体と肝臓脂肪含有量が0.5%を超える」被験者で、年齢(Model1)、または年齢とHOMA-IR(Model2)の調整後においても、「肝臓脂肪含有量はグルカゴン-アラニン指数と有意な相関」が示された。
同様に、「研究コホート全体と肝臓脂肪含有量が0.5%を超える」被験者で、年齢(Model1)、または年齢と肝臓脂肪含有量(Model3)の調整後においても、「HOMA-IRはグルカゴン-アラニン指数と有意な相関」が示された。
Diabetologia. 2020 Dec4. doi: 10.1007/s00125-020-05334-x.
結論:
2型糖尿病の発症リスクが低い又は高い若い女性の研究コホートにおいても、(NAFLDを対象とした)過去の研究で報告された「グルカゴン-アラニン指数と肝臓脂肪含有量およびHOMA-IR」との関連を再現した。
つまり、肝臓の脂肪含有量が0.5%を超えるとグルカゴン-アラニン指数(肝臓-α細胞軸の指標)が増加し、相対的な高グルカゴン血症に関連していることが示された。
【参考情報】
偏回帰係数(B)と標準化偏回帰係数(β)はどう違うのか
https://haru-reha.com/regression_coefficient/
グルカゴン測定の意義と 新しいグルカゴン・バイオロジー
http://www.cosmic-jpn.co.jp/data/up_img/1565071271-801636.pdf
グルカゴンの作用
https://www.genken.nagasaki-u.ac.jp/genetech/genkenbunshi/pdf/H24.1.19.pdf