2型糖尿病患者の動脈硬化に対するSGLT2阻害薬の影響



PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30922297/ 

タイトル:How does empagliflozin improve arterial stiffness in patients with type 2 diabetes mellitus? Sub analysis of a clinical trial

<概要(意訳)>

背景:

SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン)は、心血管死のリスクを低下させることが示されているが、その根本的なメカニズムは未だ明らかになっていない。

我々は、以前、エンパグリフロジンが動脈硬化を改善することを実証した[参考:Circulation. 2017;136(12):1167–9.]。

本研究では、この動脈硬化の改善に寄与する要因を特定する調査を実施した。

方法:

2型糖尿病患者58例は、SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン25㎎/日)またはプラセボをクロスオーバー(ウオッシュアウト期間1週間)で6週間投与された。

中心収縮期圧と中心脈圧は、SphygmoCorシステム(AtCor Medical)によって記録された。

多変量回帰分析を使用して、血糖コントロール(HbA1c、空腹時血糖)、体液状態(コペプチン、ヘマトクリット)、交感神経活性(心拍数)、脂質(LDL-C)、収縮期24時間自由行動下血圧、炎症(hsCRP)、その他(尿酸)のパラメーターが「動脈硬化の血管パラメーター(中心収縮期血圧、中心脈圧、中心前方波、中心後方反射波)」に及ぼす影響を調査した。

結果:

2型糖尿病患者58例(白人100%、男性59%)のベースライン特性(平均)は、年齢 62±7歳、HbA1c 6.69±0.8%、上腕血圧128±13/78±7.2mmHg、24時間自由行動下血圧    129±10/79±6.3mmHg、体重87.7 kg、BMI 29.5±3.9kg/m2であった。

6週間のSGLT2阻害薬による治療は、プラセボ比較して、HbA1c(p <0.001)、空腹時血糖(p <0.001)、体重(p <0.001)、上腕収縮期/拡張期血圧(p <0.001/p=0.002)、24時間収縮期/拡張期自由行動下血圧(p=0.021/p=0.007)、中心収縮期血圧(p <0.001)、中心脈圧(p=0.027)、中心前方波[forward wave amplitude](p=0.031)、中心後方反射波[backward (refected) wave amplitude](p=0.045)の有意な減少を示した。

また、コペプチンレベル(p <0.001)とヘマトクリット(p = 0.004)は、プラセボと比較して、SGLT2阻害薬で治療された患者で有意に高かった。

一方で、尿酸と推算糸球体濾過量(eGFR)は、プラセボと比較して、SGLT2阻害薬で治療された患者で有意に低かった(p <0.001)。

一方で、心拍数(p=0.513)、総コレステロール(p=0.413)、HDL-C(p=0.219)、LDL-C(p=0.425)、hsCRP(p=0.458)は、2つのグループ間で差はなかった。

Cardiovasc Diabetol. 2019 Mar 29;18(1):44.

さらに、6週間のSGLT2阻害薬による治療で改善した動脈硬化のパラメーターである「中心脈圧(r=0.309、p=0.018)と中心後方反射波(r=0.309、p=0.020)」と「hsCRP」の間には有意な相関関係が示された。

しかしながら、動脈硬化のパラメーターである「中心収縮期血圧(r 0.165、p=0.217)と中心前方波(r=0.183、p=0.177)」と「hsCRP」の間には有意な相関関係は示されなかった。

多変量回帰分析により、

「中心収縮期血圧」と有意な相関が示されたのは、

収縮期血圧(β=0.355、p=0.024)であった。

「中心脈圧」と有意な相関が示されたのは、

年齢(β=-0.282、p=0.032)、収縮期血圧(0.332、p=0.017)、hsCRP(β=0.347、p=0.017)であった。

「中心前方波(FWA)」と有意な相関が示されたのは、

ヘマトクリット(β=-0.371、p=0.037)、収縮期血圧(β=0.338、p=0.038)であった。

「中心後方反射波(BWA)」と有意な相関が示されたのは、

性別(β=0.292、p=0.040)、収縮期血圧(β=0.371、p=0.014)、hsCRP(β=0.318、p=0.043)であった。

Cardiovasc Diabetol. 2019 Mar 29;18(1):44.

ゆえに、「動脈硬化の血管パラメーター(中心収縮期血圧、中心脈圧、中心前方波、中心後方反射波)」の改善に寄与する要因は、「年齢、性別、収縮期24時間自由行動下血圧、hsCRP」であることが示された。

 

結論:

「年齢と性別に加えて、収縮期24時間自由行動下血圧と高感度CRPの変化」は、SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン25㎎/日)の治療による動脈硬化の血管パラメーター改善の要因であったが、「交感神経活性(心拍数)、体液状態(コペプチン、ヘマトクリット)、血糖値(HbA1c、空腹時血糖)、脂質(LDL-C)、尿酸」のパラメーター変化と有意な相関は示されなかった。

ゆえに、動脈硬化の改善は、少なくともある程度、抗炎症メカニズムを介した有益な血管保護効果であることが示唆された。

 

【参考情報】

バソプレシン(AVP)の代替マーカーであるコペプチン

https://www.m3.com/academy-flash-report/articles/10141?refererType=open 

脈圧測定の臨床

https://www.arterial-stiffness.com/pdf/no08/009_015.pdf 

中心血圧(心臓付近の大動脈血圧)

http://www.fukushima-hosp.or.jp/sp/divisions/pdf/rinshou10.pdf 

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