PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31822042/
タイトル:Type 2 diabetes increases the long‐term risk of heart failure and mortality in patients with atrial fibrillation
<概要(意訳)>
背景:
心房細動(AF)の非血栓塞栓症転帰に及ぼす2型糖尿病(T2DM)の影響は十分に調査されていない。
我々のAF患者の前向きコホート研究では、下記3つを目的とした。
①T2DMと「心不全(HF)(HFの新規発症含む)、全ての原因による死亡、心血管死」の関連を分析する。
②上記の臨床転帰に与えるベースラインのT2DM治療の影響を評価する。
③T2DMと新規発症したHFサブタイプの関連を調査する。
方法:
2010年1月~2012年5月の外来と入院時における心電図検査でAFと診断、またはそれ以前にAF既往のある18歳以上のAF患者1,803人(515人/1,288人:HF既往あり/なし)の内、ベースラインでT2DMを罹患していたのは389人(22%)であった。
AFの可逆的原因となる「甲状腺中毒症、心筋心膜炎、アルコールまたは薬物中毒」、急性肺塞栓症、4週間以内の急性心筋梗塞、6週間以内の冠動脈バイパス術や一般手術、NYHA分類Ⅳ度の重症心不全患者、CKD患者(eGFR<15 mL/min/1.73m2)、1型糖尿病等の患者は除外した。
フォローアップ期間の中央値は5年(範囲:1~69ヶ月)であった。
結果:
①糖尿病と臨床転帰[HF入院(A)、HF新規発症(B)、全ての原因による死亡(C)、心血管死(D)]との関連
カプラン・マイヤー分析による各臨床転帰の累積イベント発症率の「ログランク検定p値(T2DM既往有のAF患者 vs T2DM既往無のAF患者)」は、
(A)HF入院:Log rank p<0.001
(B)HF新規発症:Log rank p<0.001
(C)全ての原因による死亡:Log rank p<0.001
(D)心血管死:Log rank p<0.001
となり、全ての臨床転帰リスクは、T2DM既往無のAF患者よりも、T2DM既往有のAF患者の方が有意に高かった。
Eur J Heart Fail. 2020 Jan;22(1):113-125.
Cox比例ハザード分析による多変量解析では、
「T2DM既往無のAF患者」と比較した「T2DM既往有のAF患者」における各臨床転帰の調整ハザード比は、
(A)HF入院:1.85 (95%CI 1.51–2.28)
(B)HF新規発症:1.45 (95%CI 1.17–2.28)
(C)全ての原因による死亡:1.56 (95%CI 1.22–2.01)
(D)心血管死:1.48 (95%CI 1.34–1.93)
となった。 また、これらの結果は、ベースラインの「性別、年齢(65歳未満、65歳以上)、CAD(冠動脈疾患)、CKD(慢性腎臓病)」に影響を受けず一貫していた(交互p>0.05)。
しかしながら、LVEF(左室駆出率)≧50%と<50%で分類した全ての臨床転帰で有意な交互作用が認められた。
複数の潜在的な交絡因子を調整後の「T2DM既往無、かつLVEF<50%のAF患者」と比較した「T2DM既往有、かつLVEF≧50%のAF患者」における各臨床転帰の調整ハザード比は、
HF入院:2.44(95%CI 1.91-2.78)、p=0.009
HF新規発症:2.17(95%CI 1.69-2.48)、p=0.039
全ての原因による死亡:2.32(95%CI 1.62-2.86)、p=0.001
心血管死:2.19(95%CI 1.55-2.84)、p=0.021
となり、全ての臨床転帰リスクは、「T2DM既往無、かつLVEF<50%のAF患者」よりも、「T2DM既往有、かつLVEF≧50%のAF患者」で2倍以上となった。
Eur J Heart Fail. 2020 Jan;22(1):113-125.
②ベースラインの糖尿病治療と臨床転帰との関連
ベースラインの糖尿病治療は、「1つの経口糖尿病治療薬を投与されたT2DM既往有のAF患者(n=206、53%)」、「2つの経口糖尿病治療薬を投与されたT2DM既往有のAF患者(n=87、22%)」、「インスリン、またはインスリンと経口糖尿病治療薬を投与されたT2DM既往有のAF患者:n=96(25%)」の3群に分類した。
「T2DM既往無のAF患者」と比較して、各臨床転帰に対して有意なリスク上昇を認めた「T2DM既往有のAF患者」各群における調整ハザード比は、
HF入院:1.47(95%CI 1.17-1.98)
「1つの経口糖尿病治療薬を投与されたT2DM既往有のAF患者」の
HF入院:1.88(95%CI 1.34-2.28)
HF新規発症:1.22(95%CI 1.06-1.55)
全ての原因による死亡:1.43(95%CI 1.26-1.80)
心血管死:1.21(95%CI 1.05-1.73)
「2つの経口糖尿病治療薬を投与されたT2DM既往有のAF患者」の
HF入院:2.61(95%CI 2.31-3.08)
HF新規発症:1.76(95%CI 1.51-2.24)
全ての原因による死亡:1.99(95%CI 1.74-2.19)
心血管死:2.17(95%CI 1.81-2.38)
となり、糖尿病治療の強度が増すとともに、臨床転帰リスクの上昇が認められた。
Eur J Heart Fail. 2020 Jan;22(1):113-125.
③T2DMと新規発症したHFサブタイプの関連
ベースラインでHF既往無のAF患者(n=1,288)におけるHF新規発症は84人であった。
84人の内、25人は「T2DM既往有のAF患者」での発症、59人は「T2DM既往無のAF患者での発症であった。
HF新規発症したAF患者(n=84)における、心不全サブタイプの割合は、HFpEF 67%(n=56)、HFmrEF 20%(n=17)、HFrEF 13%(n=11)であった。
ベースラインでHF既往無のAF患者で新規発症したHFのサブタイプは、ベースラインでのT2DM既往有無とフォローアップ期間中、およびHF新規発症前に発症したACS(急性冠症候群)によって著しい影響を受けた。
フォローアップ期間中にACSを発症しなかった場合、「HFpEF(LVEF≧50%)」は、ベースラインでT2DM既往有(86%)と既往無(73%)のAF患者ともに、最も一般的な新規発症HFのサブタイプであった。
フォローアップ期間中にACSを発症した場合、「HFrEF&HFmrEF(LVEF<50%)」は、ベースラインでT2DMの既往有(70%)と既往無(71.5%)のAF患者で、最も一般的な心不全サブタイプであった。
Eur J Heart Fail. 2020 Jan;22(1):113-125.
また、Cox回帰分析により、ベースラインで「T2DM既往無のAF」患者と比較した「T2DM既往有のAF患者」の「HFサブタイプの新規発症リスク」は、
HFpEF:2.38(95%CI 1.30–4.58)、p<0.001
HFmrEF&HFrEF:1.77(95%CI 1.11–3.62)、p=0.017
となり、全てのHFサブタイプの新規発症リスクは、「T2DM既往無のAF患者」よりも、「T2DM既往有のAF患者」の方が有意に高かった。
Eur J Heart Fail. 2020 Jan;22(1):113-125.
結論:
2型糖尿病の既往が有る心房細動患者の臨床転帰(心不全による入院、心不全の新規発症、全ての原因による死亡、心血管死)リスクは、2型糖尿病の既往が無い心房細動患者と比較して、有意に高かった。
とくに、インスリン治療、または経口糖尿病治療薬とインスリンの併用治療をしている場合に臨床転帰リスクが高かった。
また、2型糖尿病の既往の有無に関わらず、心房細動患者が新規発症した心不全サブタイプはHFpEFが最も一般的であった。
全ての心不全サブタイプ(HFpEF、HFmrEF、HFrEF)の新規発症リスクは、2型糖尿病の既往が有る心房細動患者の方が有意に高かった。
したがって、生活習慣の改善、肥満の管理、心血管疾患へのベネフィットが証明されているSGLT2阻害薬の早期介入等により、更なる心房細動の包括的なリスク低減を検討する必要があるだろう。