心不全入院患者のアドバンス・ケア・プランニングと終末期ケアの好み



PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34480526/ 

タイトル:Preferences on advance care planning and end-of-life care in patients hospitalized for heart failure

<概要(意訳)>

背景:

心不全の管理には、早期のアドバンス・ケア・プランニング[Advance Care Planning(ACP):今後の治療・療養について患者・家族と医療従 事者があらかじめ話し合う自発的なプロセス]の導入が推奨される。

本研究では、心不全患者のACPおよび終末期[end-of-life (EOL)]ケアに関する好みを、希望するACP導入タイミングを含めて調査した。

方法:

大学病院における専任の医師と看護師から心不全の入院患者に配布した92項目のアンケート調査によってデータを収集した。

187例の患者がアンケート調査に同意し(回答率:92.6%)、171例が調査を完了した[有効回答率:84.7%、男性:67.3%、年齢:73.0(中央値)歳]。

ロジスティック回帰分析により、ACP導入に対する前向きな姿勢の予測因子を特定した。

 

<アンケート内容>

  1. アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の好み

進行した心不全患者は、意思決定能力が低下する可能性があります。

下記項目についての重要性をどのように評価しますか。

 

1-A)「意思決定能力が低下した場合に備えて、将来の医療に関するあなたの好みについて家族や医療提供者と話し合う」

  • まったくそう思わない 2.そう思わない 3.ややそう思わない 4.わからない 

5.ややそう思う 6.そう思う 7.まったくそう思う

 

「ややそう思う」、「そう思う」、「まったくそう思う」と答えた場合、ACPを開始する最も適切な時期はいつだと思いますか。

1.1回目の心不全入院中 2.2回目の心不全入院中 3.過去1年間に心不全の入院を繰り返した後 4.生命が脅かされていると感じる状況 5.その他

 

「ややそう思う」、「そう思う」、「まったくそう思う」と答えた場合、家族や医療提供者と話し合ったことはありますか。

  • 話し合った 2.話し合ってない

 

1-B)「意思決定能力が低下した場合に備えて、代理の意思決定者を指名する」

1.まったくそう思わない 2.そう思わない 3.ややそう思わない 4.わからない 

5.ややそう思う 6.そう思う 7.まったくそう思う

 

「ややそう思う」、「そう思う」、「まったくそう思う」と答えた場合、代理の意思決定者を決定しましたか。

1.決定した 2.決定していない

 

1-C)「終末期ケア中の医療・ケアの方針についての文書を作成する」

1.まったくそう思わない 2.そう思わない 3.ややそう思わない 4.わからない 

5.ややそう思う 6.そう思う 7.まったくそう思う

 

「ややそう思う」、「そう思う」、「まったくそう思う」と答えた場合、代理の意思決定者を決定しましたか。

1.作成した 2.作成していない

 

2.終末期(EOL)ケアの好み

寿命末期において、下記要因の重要性をどのように評価しますか。

・十分な治療を受ける

・自然死する

・愛する人に伝えたいことを言う

・将来の状態について何を期待するかを知る

・死にかけていることに気づかずに死ぬ

・自分の肉体的および精神的な弱さを家族にさらさない

・人生は生きる価値があると感じる

・宗教に支えられている

・自分の好きな場所に滞在する

1.まったくそう思わない 2.そう思わない 3.ややそう思わない 4.わからない 

5.ややそう思う 6.そう思う 7.まったくそう思う

 

「自分の好きな場所に滞在する」ことに「ややそう思う」、「そう思う」、「まったくそう思う」と答えた場合、どの場所を選びますか。

1.自宅 2.病院 3.介護施設 4.その他

ESC Heart Fail. 2021 Dec;8(6):5102-5111.

結果:

本研究に登録された患者は、全て日本人で67.3%が男性、年齢の中央値は73歳、左室駆出率の中央値は44.1%であった。

49.1%(84例)の患者は、心不全入院の既往があった。

 

SHFM[Seattle Heart Failure Model:病棟で比較的容易に入手できる臨床項目を用いて生存率を推定することを目的としてLevyらが2006年に考案した心不全患者の予後予測スコア]によって推定された1年生存率の中央値は、94.2%であった。

 

アンケートに回答した171例の内、74.3%(127例)がACPについて話し合うことの重要性を認識していた。

しかしながら、その内の21.7%(27例)しか心不全入院中にACPを開始していなかった。

 

心不全患者が希望するACP導入タイミングについては、

・過去1年間に心不全入院を繰り返した時が48.1%

・生命が脅かされると感じる状況の時が17.6%

・2回目の心不全入院時が16.8%

・1回目の心不全入院時が12.2%

・その他が5.4%

となった。

 

SHFMによって推定された1年生存率は、ACPに対して重要性を認識する患者と認識しない患者に有意な差は示されなかった(p=0.444)。

ESC Heart Fail. 2021 Dec;8(6):5102-5111.

単変量ロジスティック回帰分析による、ACPに対する前向きな姿勢の決定要因[オッズ比:OR(95%CI)]は、

・うつ(PHQ-2スコアの増加):0.75(0.61-0.92)、p=0.006

・結婚:2.53(1.25-5.12)、p=0.010

・大卒またはそれ以上:2.66(1.28-5.56)、p=0.009

であり、心不全の重症度(Ⅲ~Ⅳ度)、心不全の入院既往、SHFMによる推定の1年生存率は該当しなかった。

ESC Heart Fail. 2021 Dec;8(6):5102-5111.

心不全患者が終末期ケアに重要だと考える要因は、それぞれ、

・愛する人に伝えたいことを言う:83.4%

・自然死する:81.8%

・自分の好きな場所に滞在する:75.6%

・人生は生きる価値があると感じる:72.5%

・死にかけていることに気づかずに死ぬ:61.2%

・十分な治療を受ける:56.5%

・将来の状態について何を期待するかを知る:50.3%

・自分の肉体的および精神的な弱さを家族にさらさない:44.7%

・宗教に支えられている:15.8%

となった。

ESC Heart Fail. 2021 Dec;8(6):5102-5111.

結論:

心不全入院患者のアドバンス・ケア・プランニング(ACP)に対する認識とACPの開始状況には乖離があった。

終末期ケアに関する患者の好みは異なる可能性があるため、医師は患者のケア目標に合わせて適切なACP導入タイミングを検討する必要があるだろう。

 

【参考情報】

「人生会議」してみませんか

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02783.html 

アドバンス・ケア・プランニング いのちの終わりについて話し合いを始める

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000173561.pdf 

アドバンス・ケア・プランニングの プロセスと具体的支援

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jabedit/26/1/26_90/_pdf/-char/ja 

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