HFrEF標準治療薬の治療状況別の心血管アウトカムに対するSGLT2阻害薬の影響



PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34861154/ 

タイトル:Empagliflozin in the treatment of heart failure with reduced ejection fraction in addition to background therapies and therapeutic combinations (EMPEROR-Reduced): a post-hoc analysis of a randomised, double-blind trial

<概要(意訳)>

背景:

HFrEF患者の基礎治療に新しい治療薬を追加するベネフィットを評価することは、重要である。

本研究は、HFrEF患者のベースラインにおける基礎治療薬の用量と組み合わせにSGLT2阻害薬(エンパグリフロジン)を追加する有効性と安全性を評価することを目的とした。

方法:

EMPEROR-Reduced試験[20ヶ国(アジア、オーストラリア、ヨーロッパ、北アメリカ、南アメリカ)、520施設(病院、診療所)で実施されたランダム化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験]の事後分析を実施した。

左室駆出率(LVEF)≦40%、NYHA Ⅱ~Ⅳ度のHFrEF患者は、標準治療薬にSGLT2阻害薬(エンパグリフロジン10㎎/日)群、またはプラセボ群に1:1に無作為に割り付けられた。

主要評価項目は、「(初発の)心血管死または心不全による入院」とした。

副次評価項目は、「心不全の総入院」とした。

 

HFrEFの基礎治療薬である「ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)、ARB(アンジオテンシンII受容体遮断薬)、ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)、β遮断薬、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)」の「目標用量(50%未満または以上)と組み合わせ」によって、SGLT2阻害薬の有効性と安全性に与える影響を評価した。

本研究は「ClinicalTrials.gov(世界最大の臨床試験の登録サイト)」、に登録(NCT03057977)されている。

Lancet Diabetes Endocrinol. 2022 Jan;10(1):35-45.

結果:

2017年3月6日から2020年5月28日迄の間に、3,730例のHFrEF患者[平均年齢:66.8歳、女性:23.9%]が、SGLT2阻害薬群(49.9%)とプラセボ群(50.1%)に割り付けられた。

 

ほとんどの被験者(88.3%:3,293/3,730例)は、「ACE阻害薬/ARB/ARNI」のいずれかを投与されていた。

ACE阻害薬またはARBを投与された被験者の46.4%(1,191/2,566例)は、目標用量の50%以上が投与されていた。

 

β遮断薬は全体被験者の94.7%(3,533/3,730例)に投与され、その内の51.7%(1,825/3,533例)が目標用量の50%以上が投与されていた。

MRAは全体被験者の71.3%(2,661/3,730例)に投与され、その内の97.7%(2,601/2,661例)が目標用量の50%以上が投与されていた。

 

ほとんどの被験者(84.1%:3,138/3,730例)は、「ACE阻害薬/ARB/ARNI」と「β遮断薬」の2剤が併用投与されていた。

しかしながら、「ACE阻害薬/ARB」と「β遮断薬」を目標用量の50%以上で投与されていたのは全被験者の20.2%(755/3,730例)のみであった。

 

2,280例(61.1%)の被験者は、「ACE阻害薬/ARB/ARNI」と「β遮断薬とMRA」の3剤が併用投与されていた。

501例(13.4%)の被験者は、「ARNIとβ遮断薬とMRA」の3剤が併用投与されていた。

 

主要評価項目の「(初発の)心血管死または心不全による入院」における、プラセボ群に対するSGLT2阻害薬群のハザード比[HR(95%CI)]は、それぞれ、

全体:0·75 (0·65–0·86)の結果に対して、

ACE阻害薬/ARB(目標用量≧50%):0.67 (0.52–0.88)

ACE阻害薬/ARB(目標用量<50%):0.85 (0.69–1.06)、交互p=0.18

β遮断薬(目標用量≧50%):0.81 (0.66–1.00)

β遮断薬(目標用量<50%):0.66 (0.54–0.80) 、交互p=0.15

MRA(目標用量≧50%):0.75 (0.63–0.88)

MRA(目標用量<50%):0.77 (0.22–2.63)、交互p=0.96

「ACE阻害薬/ARB/ARNI」と「β遮断薬」(2剤併用の全用量)

2剤併用あり:0.73 (0.62–0.85)

2剤併用なし:0.84 (0.62–1.13)、交互p=0.42

「ACE阻害薬/ARB」と「β遮断薬」(2剤併用かつ目標用量≧50%)

2剤併用あり:0.74 (0.54–1.03)

2剤併用なし:0.75 (0.64–0.87)、交互p=0.96

「ACE阻害薬/ARB/ARNI」と「β遮断薬」と「MRA」(3剤併用の全用量)

3剤併用あり:0.73 (0.61–0.88)

3剤併用なし:0.76 (0.62–0.94)、交互p=0.77

「ACE阻害薬/ARB」と「β遮断薬」と「MRA」(3剤併用かつ目標用量≧50%)

3剤併用あり:0.80 (0.55–1.17)

3剤併用なし:0.74 (0.64–0.86)、交互p=0.71

「ARNI」と「β遮断薬」と「MRA」(3剤併用の全用量)

3剤併用あり:0.55 (0.35–0.86)

3剤併用なし:0.77 (0.67–0.89)、交互p=0.15

 

ゆえに、SGLT2阻害薬は「標準治療薬の用量と組み合わせ」に関わらず、HFrEF患者の「心血管死または心不全による入院」リスクを一貫して低減することが示された。

Lancet Diabetes Endocrinol. 2022 Jan;10(1):35-45.

副次評価項目の「心不全による総入院(初発・再発入院)」における、プラセボ群に対するSGLT2阻害薬群のハザード比[HR(95%CI)]は、それぞれ、

全体:0·75 (0·65–0·86)の結果に対して、

ACE阻害薬/ARB(目標用量≧50%):0.46 (0.32–0.67)

ACE阻害薬/ARB(目標用量<50%):0.83 (0.61–1.13)、交互p=0.019(交互作用あり)

β遮断薬(目標用量≧50%):0.73 (0.54–0.97)

β遮断薬(目標用量<50%):0.64 (0.49–0.84) 、交互p=0.53

MRA(目標用量≧50%):0.73 (0.57–0.92)

MRA(目標用量<50%):0.65 (0.14–3.15)、交互p=0.90

「ACE阻害薬/ARB/ARNI」と「β遮断薬」(2剤併用の全用量)

2剤併用あり:0.66 (0.54–0.82)

2剤併用なし:0.82 (0.53–1.29)、交互p=0.39

「ACE阻害薬/ARB」と「β遮断薬」(2剤併用かつ目標用量≧50%)

2剤併用あり:0.61 (0.38–0.97)

2剤併用なし:0.71(0.58–0.88)、交互p=0.54

「ACE阻害薬/ARB/ARNI」と「β遮断薬」と「MRA」(3剤併用の全用量)

3剤併用あり:0.70 (0.54–0.90)

3剤併用なし:0.70(0.52–0.94)、交互p=0.99

「ACE阻害薬/ARB」と「β遮断薬」と「MRA」(3剤併用かつ目標用量≧50%)

3剤併用あり:0.68 (0.40–1.18)

3剤併用なし:0.70 (0.57–0.86)、交互p=0.94

「ARNI」と「β遮断薬」と「MRA」(3剤併用の全用量)

3剤併用あり:0.59 (0.35–1.01)

3剤併用なし:0.72(0.58–0.88)、交互p=0.52

 

ゆえに、SGLT2阻害薬は「標準治療薬の用量と組み合わせ」に関わらず、HFrEF患者の「心不全による総入院」リスクを一貫して低減することが示された。

但し、ACE阻害薬またはARBを目標用量の50%以上と未満で投与されたHFrEF患者の「心不全による総入院」リスクには、交互作用(p=0.019)が示された。

Lancet Diabetes Endocrinol. 2022 Jan;10(1):35-45.

有害事象の「低血圧、症候性低血圧、高カリウム血症」の発生率は、SGLT2阻害薬群、プラセボ群における標準治療薬の用量と組み合わせに関わらず、同程度であった。

結論:

SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン10㎎/日)は、標準治療薬(ACE阻害薬/ARB/ARNI、β遮断薬、MRA)の用量および組み合わせに関わらず、HFrEF患者の心血管アウトカム(心血管死または心不全による入院、心不全による総入院)のリスクを低減することが示された。

ゆえに、HFrEFの標準治療薬(用量、組み合わせ)に関わらず、SGLT2阻害薬はHFrEF患者の基礎治療薬となる可能性が示唆された。

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