コロナ禍における糖尿病患者の行動変化



PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33020726/ 

タイトル:Behavioral changes in patients with diabetes during the COVID-19 pandemic

<概要(意訳)>

背景:

コロナ禍で日本政府は緊急事態宣言を発令し、COVID-19感染拡大を防ぐ為にステイホームを促した。

本研究では、「糖尿病患者のライフスタイルと血糖コントロール」に対する緊急事態宣言の影響を調査した。

方法:

2020年4月1日~6月13日の間に、当院(山王病院)を定期受診している糖尿病患者に、「緊急事態宣言により変化した身体活動や食生活」を担当医師が問診した。

問診は、下記5つの質問であった。

1)緊急事態宣言とステイホームの間に「身体活動(PA)」に変化はありましたか?

2)この期間に「変更または開始した身体活動(PA)」はありますか?

3)この期間に「食生活」の変化はありましたか?

4)この期間に「変更または開始した食生活」はありますか?

5)この期間の「PAと食事」における包括的な評価レベル[PAの場合:0=増加、1=変化なし、2 =低下、食生活の場合:0=改善、1=変化なし、2 =悪化]は、それぞれ、何になりますか?

結果:

合計168例(161例:2型糖尿病、7例:1型糖尿病)の患者が本研究に参加した。

血糖値の変化レベルによって、3つのグループに分類した。

前回受診時からHbA1c>0.2%の上昇を示した(血糖コントロール悪化)患者をグループD(n=57)、HbA1c>0.2%の低下を示した(血糖コントロール改善)患者をグループI(n=51)、HbA1c≦±0.2%の増減に留まった(血糖コントロール不変)患者をグループN(n=60)とした。

体重変化に関しては、全体の内、26例(15.5%)が2kg以上の増加を示し、12例(7.1%)が2Kg以上の減少を示した。

グループ(血糖コントロール改善)Iでは、0.06±1.60kgの体重減少を示した。

グループ(血糖コントロール悪化)Dでは、0.84±1.60kgの体重増加を示した。

グループ(血糖コントロール不変)Nでは、0.33±1.40kgの体重増加を示した。

質問1[緊急事態宣言とステイホームの間に「身体活動(PA)」に変化はありましたか?]に関して、3つのグループで最も多かった回答(複数回答可)は、「在宅勤務への移行により、通勤時のPAレベルが低下した」であった。

グループ(血糖コントロール改善)Iでは、18例(35.3%)であった。

グループ(血糖コントロール悪化)Dでは、29例(50.9%)であった。

グループ(血糖コントロール不変)Nでは、24例(40.0%)であった。

質問2[緊急事態宣言とステイホームの間に「変更または開始した身体活動(PA)」はありますか?] に関して、3つのグループで最も多かった回答(複数回答可)は、「ウォーキングまたはジョギング」であった。

グループ(血糖コントロール改善)Iでは、19例(37.3%)であった。

グループ(血糖コントロール悪化)Dでは、10例(17.5%)であった。

グループ(血糖コントロール不変)Nでは、23例(38.3%)であった。

2番目に多かった回答(複数回答可)は、「筋力トレーニング(腕立て伏せ、腹筋運動、ストレッチ、スクワット)」であった。

グループ(血糖コントロール改善)Iでは、7例(13.7%)であった。

グループ(血糖コントロール悪化)Dでは、8例(14.0%)であった。

グループ(血糖コントロール不変)Nでは、10例(16.7%)であった。

Diabetol Int. 2020 Sep 30;12(2):1-5.

質問3[緊急事態宣言とステイホームの間に「変更または開始した食生活」はありますか?] に関して、3つのグループで最も多かった回答(複数回答可)は、「食事の量や内容に目立った変化はなかった」であった。

グループ(血糖コントロール改善)Iでは、19例(37.3%)であった。

グループ(血糖コントロール悪化)Dでは、16例(28.1%)であった。

グループ(血糖コントロール不変)Nでは、26例(43.3%)であった。

2番目に多かった回答(複数回答可)は、「お菓子またはスイーツの量が増えた」であった。

グループ(血糖コントロール改善)Iでは、3例(5.9%)であった。

グループ(血糖コントロール悪化)Dでは、28例(49.1%)であった。

グループ(血糖コントロール不変)Nでは、11例(18.3%)であった。

質問4[緊急事態宣言とステイホームの間に「変更または開始した食生活」はありますか?] に関して、3つのグループで最も多かった回答(複数回答可)は、「野菜の摂取量を増やそうとした」であった。

グループ(血糖コントロール改善)Iでは、10例(19.6%)であった。

グループ(血糖コントロール悪化)Dでは、5例(8.8%)であった。

グループ(血糖コントロール不変)Nでは、11例(18.3%)であった。

2番目に多かった回答(複数回答可)は、「食事の総量(特に炭水化物の摂取量)を減らしようとした」であった。

グループ(血糖コントロール改善)Iでは、9例(17.6%)であった。

グループ(血糖コントロール悪化)Dでは、3例(5.3%)であった。

グループ(血糖コントロール不変)Nでは、7例(11.7%)であった。

Diabetol Int. 2020 Sep 30;12(2):1-5.

質問5[緊急事態宣言とステイホームの間に「PAと食事」における包括的な評価レベルは?] に関して、3つのグループで最も多かった回答(複数回答可)は、「PAは低下し、食生活は悪化した」であった。

グループ(血糖コントロール改善)Iでは、3例(5.9%)であった。

グループ(血糖コントロール悪化)Dでは、29例(50.9%)であった。

グループ(血糖コントロール不変)Nでは、9例(15.0%)であった。

 

2番目に多かった回答(複数回答可)は、「PAは低下し、食生活は改善した」であった。

グループ(血糖コントロール改善)Iでは、13例(25.5%)であった。

グループ(血糖コントロール悪化)Dでは、6例(10.5%)であった。

グループ(血糖コントロール不変)Nでは、18例(30.0%)であった。

 

3番目に多かった回答(複数回答可)は、「PAは低下し、食生活は変化なし」であった。

グループ(血糖コントロール改善)Iでは、4例(7.8%)であった。

グループ(血糖コントロール悪化)Dでは、13例(22.8%)であった。

グループ(血糖コントロール不変)Nでは9例(15.0%)であった。

Diabetol Int. 2020 Sep 30;12(2):1-5.

多重ロジスティック回帰分析では、身体活動(PA)の変化を「0=増加、1=変化なし、2 =低下」、食生活の変化を「0=改善、1=変化なし、2 =悪化」としてコード化した。

グループ(血糖コントロール改善)Iと比較した、グループ(血糖コントロール悪化)Dのオッズ比は、それぞれ、

身体活動(PA)の変化:OR 5.03(95%CI 2.20-11.54)、p<0.05

食生活の変化:OR 6.92(95%CI 3.23-14.85)、p<0.05

となった。

 

結論:

緊急事態宣言の間に、身体活動レベルが低下した糖尿病患者の血糖コントロールは悪化していた。

しかしながら、身体活動レベルの変化に関わらず、食生活を維持または改善することは糖尿病患者の血糖コントロールに好影響を及ぼす可能性がある。

コロナ禍でより多くの糖尿病患者が在宅勤務に移行し、家に長期間居る可能性がある為、効果的で実行可能な運動と食事療法を促進する方法を開発する必要があるだろう。

 

【参考情報】

オッズ比とは?

https://best-biostatistics.com/contingency/odds_risk.html 

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