HFrEF患者における包括的な疾患修飾薬理療法の生涯ベネフィットの推定



PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32446323/ 

タイトル:Estimating lifetime benefits of comprehensive disease-modifying pharmacological therapies in patients with heart failure with reduced ejection fraction: a comparative analysis of three randomised controlled trials

<概要(意訳)>

背景:

MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)、ARMI(アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬)、SGLT2(ナトリウム・グルコース共輸送体 2)阻害薬の3つの薬剤は、従来治療薬のACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬、またはARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)、およびβ遮断薬よりもHFrEF(左室駆出率が低下した心不全)患者の死亡率を低下させることが大規模臨床試験で示されている。

これらの各薬剤は異なる患者背景下で研究されている為、併用することで将来的に享受できる治療効果は不明である。

本研究では、最近上市された3剤の大規模臨床試験データを使用して、包括的治療が慢性HFrEF患者に享受できる「(無イベント/全)生存率と(無イベント/全)生存期間の増加」を従来治療と比較した。

方法:

3つの重要な大規模臨床試験のEMPHASIS-HF試験[MRA(エプレレノン)vs プラセボ、n=2737]、PARADIGM-HF試験[ARNI(サクビトリルバルサルタン)vs エナラプリル、n=8399]、DAPA-HF試験[SGLT2阻害薬(ダパグリフロジン)vs プラセボ、n=4744]のクロストライアル分析により、包括的な疾患修飾薬理療法(MRA、ARNI、SGLT2阻害薬)と従来治療(ACE阻害薬、またはARB、およびβ遮断薬)の治療効果を間接的に比較した。

Lancet.2020 Jul 11; 396(10244): 121-128.

主要評価項目は、「心血管死、または心不全による初回入院の複合」とした。

また、「心血管死」、「心不全による初回入院」を個別に評価し、「全ての原因による死亡(全死亡)」を評価した。

包括的な疾患修飾薬理療法(MRA、ARNI、SGLT2阻害薬)の相対的な治療効果が長期に渡り一貫していると仮定して、EMPHASIS-HF試験の対照(プラセボ)群を従来治療(ACE阻害薬、またはARB、およびβ遮断薬)とした場合に、漸進的長期ベネフィットとして推定される「無イベント/全生存率と無イベント/全生存期間の増加」を比較した。

結果:

包括的治療と従来治療の「ハザード比」は、それぞれ、

「心血管死、または心不全による初回入院」:HR 0.38(95%CI 0.30-0.47)

「心血管死」:HR 0.50(95%CI 0.37-0.67)

「心不全による初回入院」:HR 032(95%CI 0.24-0.43)

「全死亡」:HR 0.53(95%CI 0.40-0.70)

となり、全評価項目において包括的治療の推定治療効果が上回ることが示された。

Lancet.2020 Jul 11; 396(10244): 121-128.

包括的治療と従来治療の「55歳、あるいは65歳から90歳まで治療した場合の(主要評価項目の)無イベント(平均)生存率」は、それぞれ、

55歳で開始した場合の包括的治療 vs 従来治療:

14.7 年 (95%CI 12.6~17.1年) vs 6.4年 (95%CI 4.8~8.0年)

ゆえに、包括的治療による「無イベント生存率の増加」は、8.3 年(95%CI 6.2~10.7年)となった。

65歳で開始した場合の包括的治療 vs 従来治療:

13.0 年 (95%CI 11.5~14.6年) vs 6.7年 (95%CI 5.8~7.5年)

ゆえに、包括的治療による「無イベント生存率の増加」は、6.3 年(95%CI 4.8~7.9年)となった。

Lancet.2020 Jul 11; 396(10244): 121-128.

包括的治療と従来治療の「55歳、あるいは65歳から治療開始した場合の90歳までの(平均)全生存率」は、それぞれ、

55歳で開始した場合の包括的治療 vs 従来治療:

17.7 年 (95%CI 14.9~20.5年) vs 11.4年 (95%CI 9.2~13.5年)

ゆえに、包括的治療による「全生存率の増加」は、6.3 年(95%CI 3.4~9.1年)となった。

65歳で開始した場合の包括的治療 vs 従来治療:

15.0 年 (95%CI 13.1~16.8年) vs 10.6年 (95%CI 9.4~11.8年)

ゆえに、包括的治療による「全生存率の増加」は、4.4 年(95%CI 2.5~6.2年)となった。

Lancet.2020 Jul 11; 396(10244): 121-128.

従来治療を比較した包括的治療の「55歳から80歳における(主要評価項目の)無イベント生存期間」の増加は、それぞれ、8.3年(95%CI 6.2~10.7年)、2.7年(95%CI 2.2~3.3年)となった。

従来治療を比較した包括的治療の「55歳から80歳における全生存期間」の増加は、それぞれ、6.3年(95%CI 3.4~9.1年)、1.4年(95%CI 0.8~1.9年)となった。

Lancet.2020 Jul 11; 396(10244): 121-128.

結論:

HFrEF患者における包括的な疾患修飾薬理療法の治療効果は非常に有意義であり、新たな治療基準として「β遮断薬、MRA、ARNI、SGLT2阻害薬」の併用は支持されるだろう。

 

【参考情報】

生存期間の解析

http://www.chugaiigaku.jp/images/EZR/sample3.pdf 

EMPHASIS-HF試験

https://www.ebm-library.jp/circ/trial/doc/c2003357.html 

PARADIGM-HF試験

https://www.ebm-library.jp/circ/trial/doc/c2005313.html

DAPA-HF試験 

https://www.ebm-library.jp/circ/trial/doc/c2018036.html 

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