急性心不全患者における腎機能変化の軌跡



PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31319165/ 

タイトル:Trajectories of Changes in Renal Function in Patients with Acute Heart Failure

<概要(意訳)>

背景:

急性心不全患者における腎機能の悪化(WRF)は、20-30%に発症し、死亡リスクを上昇させる。

しかし、個々の患者の腎機能がどのように変化するかは不明であり、それらが臨床的特徴と予後にどのような関連があるかは未だ分かっていない。

我々は、急性心不全患者における腎機能変化の軌跡と予後への影響を調査した。

方法:

急性心不全患者を対象としたPROTECT試験を後ろ向きに観察し分析した。

入院7日以内に、3回以上の血清クレアチニン測定を実施し、腎機能変化の軌跡を特定した。

主要評価項目は、「180日における全ての原因による死亡」とした。

副次評価項目は、「60日における死亡/心不全の再入院」、または「60日おける心臓/腎臓が原因による入院」とした。

結果:

分析対象となった1,897例の臨床特徴は、男性70%、平均年齢70±12歳、平均LVEF(左室駆出率)32±13%、平均eGFR 49.0±20mL/min /1.73m2、4日間のループ利尿薬における反応量の中央値は、-0.39(-0.80 to -0.14)kg/40mg フロセミドであった。

腎機能変化の軌跡は、「Bump(↗↘)型:360例、Sustained Increase(↗)型:333例、Dip(↘↗)型:275例、Sustained Decrease(↘)型:264例、Various Changes(↑↓↑↓↑)型:245例、Dip followed by Bump(↘↗↘)型:208例、Bump followed by Dip(↗↘↗)型:162例、No Change(→)型:50例」の8通りであった。

J Card Fail.2019 Nov; 25(11): 866-874.

また、これらの患者間における臨床的特徴は大部分で類似しており、わずかな違いしか観察されなかった。

特に、No Change(→)型は、男性比率(84%)とBMI(31±7)が最も高く、Sustained Increase(↗)型は、最も高齢(72±11歳)であった。

Sustained Decrease(↘)型は、LVEF(31±13%)が最も低く、NYHA Ⅳ度(44%)の割合が最も多かった。また、平均eGFR(43.63±16.27)も最も低く、クレアチニン値は1.60(1.30–2.10)mg/dLであった。

Dip followed by Bump(↘↗↘)型は、ACE阻害薬の処方率(67%)が最も高かった。

臨床症状に関しては、重度の呼吸困難症状は、Dip(↘↗)型に最も多かった(88.8%)。

4日間のループ利尿薬に対する反応性(kg/40mg フロセミド)の低下は、とくに、Sustained Increase(↗)型[–0.33(–0.78~0.10)]、Bump(↗↘)型[–0.33(–0.70~0.11)]、No Change(→)型[–0.26(–0.47~0.14)]で認められた。

4日間のループ利尿薬に対する反応性(kg/40mg フロセミド)が最も高かったのは、Various Changes(↑↓↑↓↑)型[–0.46(–0.97〜0.16)]であった(p=0.001)。

主要評価項目の「180日における全死亡」は、301例/1,897例(15.9%)が発症した。

各型の発症数(率)は、それぞれ下記となり、有意な差はなかった(p=0.321)。

Bump(↗↘)型:59例/360例(16.3%)

Sustained Increase(↗)型:68例/333例(20.0%)

Dip(↘↗)型:43例/275例(15.5%)

Sustained Decrease(↘)型:51例/264例(19.0%)

Various Changes(↑↓↑↓↑)型:41例/245例(16.7%)

Dip followed by Bump(↘↗↘)型:25例/208例(12.0%)

Bump followed by Dip(↗↘↗)型:24例/162例(14.7%)

No Change(→)型:7例/50例(13.7%)

同様に、副次評価項目の「60日における死亡/心不全の再入院」(p=0.111)と「60日おける心臓/腎臓が原因による入院」(p=0.176)においても、有意な差はなかった。

また、主要評価項目と副次評価項目におけるカプランマイヤー分析のログランク検定p値は、それぞれ、p=0.51、p=0.2となり、8つの腎機能変化の軌跡型で有意な差は認められなかった。

J Card Fail.2019 Nov; 25(11): 866-874.

多変量Cox回帰分析による、No Change(→)型と比較した、主要評価項目のハザード比[HR(95%CI)]は、それぞれ下記となり、有意な差はなかった。

Bump(↗↘)型:1.53(0.66-3.57)、p=0.32

Sustained Increase(↗)型:1.59(0.68-3.69)、p=0.28

Dip(↘↗)型:1.27(0.54-3.02)、p=0.58

Sustained Decrease(↘)型:1.19(0.51-2.79)、p=0.69

Various Changes(↑↓↑↓↑)型:1.74(0.73-4.13)、p=0.21

Dip followed by Bump(↘↗↘)型:1.11(0.45-2.73)、p=0.82

Bump followed by Dip(↗↘↗)型:1.45(0.59-3.59)、p=0.42

J Card Fail.2019 Nov; 25(11): 866-874.

結論:

急性心不全における腎機能変化の軌跡は、個々の患者でかなり異なることが示された。

これらの差異に関わらず、臨床的特徴と予後は類似していた為、急性心不全における腎機能の変化が予後に与える影響に一石を投じることとなった。

 

【参考情報】

利尿薬を正しく使いこなそう

https://www.marianna-kidney.com/wp/wp-content/uploads/2019/06/2012603.pdf 

急性心不全に伴う腎機能悪化と予後との関係

https://www.yokohama-cu.ac.jp/news/2020/202009yamada_kidney.html

急性心不全患者の腎機能悪化を早期に予測する指標

http://dm-rg.net/news/2019/08/020166.html 

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