高齢2型糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬の使用



PubMed URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28861952/ 

タイトル:Use of sodium–glucose cotransporter 2 inhibitors in older patients with type 2 diabetes mellitus

<概要(意訳)>

背景:

脱水症状に気づきにくい高齢の糖尿病患者にSGLT2阻害薬を投与することは、とくに注意が必要である。

本研究では、高齢2型糖尿病患者にSGLT2阻害薬を中長期的に使用し、有効性と安全性を評価した。

方法:

2014年4月~2016年3月の間、公立陶生病院の循環器内科でSGLT2阻害薬を投与された日本人2型糖尿病患者117例を対象とした。

ただし、急性心筋梗塞、うっ血性心不全、血液透析、悪性腫瘍の患者は除外した。

結果:

全体の平均年齢は73.7±10.0歳、男性は68.4%、平均追跡期間は289.3日であった。

併存疾患の割合は、高血圧 88.9%、脂質異常症 84.6%、慢性腎臓病 53.8%、心房細動 27.4%、急性心筋梗塞の既往 42.8%、狭心症の既往 27.4%、、脳卒中の既往 13.7%、急性(非代償性)心不全の既往 39.4%であった。

併用薬の割合は、RAS阻害薬68.4%、β遮断薬63.2%、Ca拮抗薬50.4%、スタチン79.5%、利尿薬60.8%、抗血小板薬53.0%、抗凝固薬38.5%であった。

SGLT2阻害薬の内訳は、エンパグリフロジン45.3%、イプラグリフロジン31.6%、ダパグリフロジン17.9%、カナグリフロジン5.1%であった。

他の抗糖尿病薬は、DPP-4阻害薬42.7%、SU薬10.3%、メトホルミン13.7%、α-グルコシダーゼ阻害薬14.5%、インスリン1.7%であった。

 

<血糖と代謝パラメーターの変化>

HbA1c値(%)は、投与前 7.3±1.9から投与6ヶ月 6.8±0.7となり、有意に減少した(p<0.01)。

空腹時血糖値(mg/dL)は、投与前 159.5±54.7から投与6ヶ月 139.6±39.5となり、有意に減少した(p <0.01)。

体重(kg)は、投与前 64.6±13.4から投与1ヶ月 58.1±12.9(p <0.05)、3ヶ月61.3±12.1 (p=0.05)で有意に減少し、6ヶ月 61.8±14.8では有意な減少はなかった(p=0.19)。

脂質パラメーターは、有意な増減変化はなかった。

血清アルブミン値(g/dL)は、投与前 4.10、投与1ヶ月 4.14、3ヶ月 4.19、6ヶ月 4.22となり、有意に増加した。

C反応性蛋白(mg/dL)は、投与前 0.20から投与1ヶ月 0.14で有意に低下(p<0.05)し、3ヶ月 0.12から6ヶ月 0.08まで持続していた。 このように、炎症性反応は低下する傾向が示された。

Geriatr Gerontol Int 2018; 18: 108-114

<腎機能の変化>

クレアチニン(mg/dL)は、投与前 1.06、投与1ヶ月 1.13、3ヶ月 1.10、6ヶ月 1.11となり、有意な増減はなかった。

尿素窒素は、投与前 19.5、投与1ヶ月 20.2、3ヶ月 20.1、6ヶ月 20.1となり、有意な増減はなかった。

eGFR(mL/min/1.73m2)は、投与前 54.9、投与1ヶ月 51.0、3ヶ月 52.6、6ヶ月 53.6となり、有意な増減はなかった。

<ヘモグロビンとヘマトクリットの変化>

SGLT2阻害薬の投与前のヘモグロビンとヘマトクリットの値は、それぞれ、13.2g/dLと39.2mg/dLであった。

投与3ヶ月後と6ヶ月後のヘモグロビンとヘマトクリットの値は、それぞれ、

13.4 g/dLと40.2mg/dL(p<0.05)と14.0 g/dLと41.2mg/dL(p<0.01)となり、有意に増加した。

<心エコー検査の評価>

SGLT2阻害薬の投与前の平均LVEF(左室駆出率)は、59.8 ± 13.0%であった。

投与1、3、6ヶ月後のLVEFは、それぞれ、51.6%、56.6%、57.3%となり統計学的に有意な増減は示されなかった。

また、血管内水分貯留の評価の指標として使用される下大静脈径(IVCD)の変化は、投与前、投与1、3、6ヶ月後で、それぞれ、1.3cm、1.3cm、1.3cm、1.4cmとなり統計学的に有意な増減は示されなかった。

つまり、SGLT2阻害薬の投与による「血管内脱水」は、引き起こされなかった。

Geriatr Gerontol Int 2018; 18: 108-114

<BNP値の変化>

本研究には、基礎疾患としてCVDを罹患した多くの高齢日本人糖尿病患者が含まれていたため、117例内78例はBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)値の正常上限値である18.5 pg/mLを超えていた。

この78例のBNP値(pg/mL)は、投与前153.5 から投与後100.1へ有意に減少した(p<0.05)。

Geriatr Gerontol Int 2018; 18: 108-114

<SGLT2阻害薬の治療開始時の利尿薬投与量>

SGLT2阻害薬の投与開始時は、71例(60.8%)が利尿薬を投与されていた。

利尿薬の投与群は、利尿薬の非投与群よりも、高齢で、心房細動と心不全による入院の既往者が高かった。

BNP値は、利尿薬の非投与群よりも、利尿薬の投与群の方が有意に高かった。

さらに、利尿薬の投与群では、腎疾患の有病率が高く、クレアチニン値が高く、eGFRは有意に低かった。

利尿薬の内訳は、ループ利尿薬51例(71.8%)、アルドステロン拮抗薬25例(35.2%)、サイアザイド系利尿薬20例(28.2%)であった。

SGLT阻害薬の投与開始時に利尿薬を減量したのは12例(16.9%)であった。

残りの59例(83.1%)は、BNP値の上昇、下腿浮腫などの心不全兆候があった為、利尿薬の投与量は減量せずに、SGLT2阻害薬の投与を開始した。

 

結論:

基礎疾患としてCVD(心血管疾患)を罹患した高齢の2型糖尿病患者にSGLT2阻害薬を6ヶ月間投与したところ、脱水症状の兆候は認められず、良好な血糖降下作用が示された。

SGLT2阻害薬は、適正かつ注意深く使用することで、高齢者にも有用なことが示唆された。

 

【参考情報】

下大静脈径の測定について

https://www.shizuoka-med.jrc.or.jp/dat/files/sect/file/lab%20news/labnews24.pdf

超音波検査を用いた下大静脈の観察による 循環動態の評価

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjaam/24/11/24_903/_pdf

Sponsored Link




この記事を書いた人