内分泌代謝とCOVID-19感染の関連



PubMed URLhttps://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32242089

タイトル:Endocrine and metabolic link to coronavirus infection.

<概要(意訳)>

2型糖尿病(T2DM)は、新型コロナウイルス感染の危険因子のようだ。 実際に、T2DMと高血圧は、重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS-CoV)などの他のコロナウイルス感染症の最も一般的な併存症として確認されている。Center for Disease Control and PreventionCDC)を含むいくつかのレポートによると、T2DMとメタボリックシンドロームの患者は、COVID-19に感染すると、死亡リスクが最大で10倍になる可能性がある。T2DMとメタボリックシンドロームは、多くの感染症の症状を悪化させ死亡リスクを高めるが、特に、コロナウイルス感染は代謝性炎症への考慮が重要である。動物実験では、T2DMの併存は免疫調節不全を引き起こし、MERS-CoV感染を重症化させた。この研究では、ヒトDPP4MERS-CoVSタンパク質に存在する受容体結合領域との結合に関連)を発現する糖尿病マウスがサイトカインのプロファイルの変化を示し、感染後の炎症性サイトカインIL-17αの発現が増加した。この結果は、コロナウイルス感染とT2DMの併存が免疫不全を引き起こし、患者の肺の病状をさらに悪化させ、回復を遅延させるという仮説を裏付ける。以下に「内分泌/代謝との関連、臨床的帰結」における新しい知見を示す。

内分泌(RAA系)との関連:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスSARS-CoV-2は、ウイルス細胞外膜のSpikeタンパク質(Sタンパク質)が細胞の表面に存在する受容体タンパク質(ACE2受容体)に結合したのちタンパク質分解酵素であるTMPRSS2で切断され、Sタンパク質が活性化されウイルス外膜と細胞膜が融合し、SARS-CoV-2ウイルスは細胞に侵入する。ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)はアンジオテンシンIIAⅡ)をアンジオテンシン1–7A1-7AIIより一つペプチドが少なくAIIに拮抗する作用を有する)に変換し、Mas受容体経路に作用することでレニンアンジオテンシン‐アルドステロン(RAA)系の活性化を抑制する機能がある。この系に不均衡があるCOVID-19患者のACE2-A1-7-Mas受容体経路を活性化することは、抗炎症および抗線維化作用をもたらし重症化を阻止できる可能性がある。

代謝との関連:膵臓のACE2受容体にSARS-CoV-2ウイルスが結合すると、膵島が損傷し、インスリン分泌が減少する。T2DMの病歴がなく、ステロイド治療を受けていないSARS患者を3年間追跡し健康な兄弟と比較した研究では、入院中に50%以上の患者が糖尿病を発症し、5%の患者は糖尿病のままであった。ACE2受容体を経由してコロナウイルスが膵臓に侵入することで、β細胞機能障害を引き起こし、高血糖症と一過性T2DMを引き起こす可能性がある。また、糖尿病モデルマウスの実験では、膵臓でのACE2活性が強いことが示されたのでT2DM患者がコロナウイルス感染に対して特に脆弱な可能性がある。同様に、T2DMは、肺、肝臓、心臓などの組織でACE(アンジオテンシン変換酵素)の発現を誘導するのでSARS-CoV感染症の多臓器不全に影響することを説明できるだろう。

臨床的帰結:代謝機能を改善し、ACE2-A1-7-Mas受容体経路の活性を誘発するGLP1アゴニストなどの抗糖尿病薬は、グルコース代謝と血圧を改善し、コロナウイルスの細胞侵入を防ぐ利点があるかもしれない。同様に、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ロサルタンやテルミサルタンなど)または組換え型のヒト ACE2 による早期治療は、ACE2-A1-7-Mas受容体経路の増強に有用な可能性がある。ACE2を介したコロナウイルスの細胞への侵入に必要なセリンプロテアーゼTMPRSS2をブロックする合成プロテアーゼ阻害剤のカムスタット(慢性膵炎治療薬)は、脂質異常症と高血糖を改善する。急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療に有用なグルココルチコイドは、代謝制御を悪化させるだけでなく、アンギオテンシン1–7およびMas受容体の発現を抑制するので、コロナウイルス感染症の患者には適応されない可能性がある。現在、世界中の多くのセンターでCOVID-19患者の治療で広く使用されているヒドロキシクロロキン(抗マラリア薬)も、T2DM患者の潜在的治療として関心を集めているが、コロナウイルス–ACE2経路に直接干渉するかどうかは不明である。

結論として、COVID-19は代謝性疾患ではないが、グルコース、脂質レベル、血圧の代謝制御アプローチが重要である。

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