2型糖尿病合併CAD患者の左室心筋細胞外容積に対するSGLT2阻害薬の影響



URL:https://www.jacc.org/doi/10.1016/j.jcmg.2020.10.017 

タイトル:Empagliflozin Reduces Myocardial Extracellular Volume in Patients With Type 2 Diabetes and Coronary Artery Disease

<概要(意訳)>

背景:

SGLT2阻害薬は、2型糖尿病合併CAD(冠動脈疾患)患者の左室心筋重量係数(LVMi)を低下させることが示された。

しかしながら、心筋の細胞外容積分画(ECV)に与える影響については未だ分かっていない。

本研究では、2型糖尿病合併CAD(冠動脈疾患)患者の心筋の細胞外容積分画(ECV)に対するSGLT2阻害薬の影響を評価した。

方法:

本研究は、EMPA-HEART CardioLink-6試験の事前に指定されたサブスタディであり、97例の被験者がSGLT2阻害薬(エンパグリフロジン10mg/日)群、またはプラセボ群に無作為化され6ヶ月間投与された。

その内、74例(39例:SGLT2阻害薬群、35例:プラセボ群)の被験者が調査対象となった。

主要評価項目は、「心血管核磁気共鳴画像法(CMR)で計測した、ベースラインから6ヶ月後の左室(LV)の心筋細胞外容積分画(ECV)の変化」とした。

副次評価項目は、「細胞内コンパートメント(iICV)、細胞外コンパートメント(iECV)、細胞外マトリックスのリモデリングと線維化のマーカーである可溶性腫瘍性抑制-2 (sST2)と

マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)2の変化」とした。

結果:

被験者74例のベースライン特性は、「2型糖尿病の罹病期間:11.4±7.9年、HbA1c: 7.9±0.8%、収縮期血圧:135±22 mmHg、拡張期血圧:76±12 mmHg、推算糸球体濾過量:89±17 ml/min/1.73m」等であり、SGLT2阻害薬群とプラセボ群で同等であった。

また、ガイドライン推奨のエビデンスに基づいた血管保護療法で適切に管理されていた。

 

ベースラインの平均LVMi(左室心筋重量係数)g/mは、SGLT2阻害薬群で59.1±10.1、プラセボ群で62.3±13.2であった。

6ヶ月後のLVMi(左室心筋重量係数)g/mは、SGLT2阻害薬群で2.9±7.9、プラセボ群で0.1±5.5減少した。

プラセボ群と比較して、SGLT2阻害薬群のベースラインで調整したLVMiの変化は、-3.5 (95%CI -6.4〜-0.7)g/mとなり、有意な減少を示した(p=0.02)。

 

一方で、左心室拡張末期容積(LVEDV)ml/m2と左室駆出率(LVEF)%の平均差は、それぞれ、

-0.6(95%CI -4.8〜3.7)ml/m2、p=0.79

-2.5(95%CI -0.2〜5.3)%、p=0.07

となり、プラセボ群とSGLT2阻害薬群で有意な差はなかった。

 

ベースラインの平均LVECV(左室心筋細胞外容積分画)%は、SGLT2阻害薬群で29.6±4.6、プラセボ群で30.6±4.8であった。

6ヶ月後の平均LVECV(左室心筋細胞外容積分画)%は、SGLT2阻害薬群で28.7±4.3、プラセボ群で31.1±4.3であった。

プラセボ群と比較して、SGLT2阻害薬群のベースラインで調整したLVECVの変化は、-1.40 (95%CI -2.60〜-0.14)%となり、有意な減少を示した(p=0.03)。

 

ベースラインの平均ネイティブT1マップ[参考:線維症(局在性,びまん性,梗塞状態),浮腫,アミロイドーシスなどでT1値が上昇し,脂質異常(Anderson-Fabry病:AFD)や鉄沈着ではT1値が低下する]msは、SGLT2阻害薬群で1,246.4±42.5、プラセボ群で1,247.9±37.0であった。

プラセボ群と比較して、SGLT2阻害薬群のベースラインで調整したネイティブT1マップの変化は、-5.2(95%CI -21.9〜11.5)%となり、有意な差はなかった(p=0.54)。

 

また、6ヶ月におけるLVmass(左室重量)とLVECV(左室心筋細胞外容積分画)の変化には、有意な相関は示されなかった(ピアソンの相関係数0.1;p=0.39)。

 

6か月の間に、平均iECV(細胞外コンパートメント)ml/m2は、SGLT2阻害薬群で16.8±4.2 から15.6±4.0に、プラセボ群で18.4±5.0から18.3±4.7に減少した。

平均差は-1.5(95%CI -2.6〜-0.5)となり、SGLT2阻害薬群で有意な減少を示した(p=0.006)。

 

6か月の間に、平均iICV(細胞内コンパートメント)ml/m2は、SGLT2阻害薬群で39.7±7.6 から38.3±5.6に、プラセボ群で41.7±8.6から40.3±7.4に減少した。

平均差は-1.7(95%CI -3.8〜0.3)となり、2群間で有意な差はなかった(p=0.09)。

 

被験者74例の内、27例(37%)は、ベースラインでLGE(後期ガドリニウム増強)によって梗塞の既往が検出されたが、これは、過去の心筋梗塞と一致していた。

LGEの範囲は、6ヶ月間で変化しなかった(p=0.51)。

 

SGLT2阻害薬による治療は、瘢痕(組織欠損)、梗塞の有無に関わらず、左室のECVを同程度に低下させた(それぞれ、p=0.14およびp = 0.19)。

 

また、SGLT2阻害薬の治療は、細胞外マトリックスのリモデリングと線維化のマーカーである「可溶性腫瘍性抑制-2 (sST2)とマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)2の変化」に影響を与えなかった。

J Am Coll Cardiol Cardiovasc Imaging. Jan 13, 2021. 

結論

2型糖尿病を合併した冠状動脈疾患の患者において、レニン-アンジオテンシン系抑制薬を含む標準治療薬にSGLT2阻害薬(エンパグリフロジン10㎎/日)の治療を6ヶ月間追加することにより、左室の心筋細胞外容積分画(ECV)、細胞外コンパートメント(iECV)、左室心筋重量係数(LVMi)が有意に減少した。

今後は、SGLT2阻害薬が左室逆リモデリングを引き起こすさらなる研究が必要だろう。

 

【参考情報】

Ziostation2を用いた心臓の細胞外容積分画(ECV)解析

https://www.innervision.co.jp/ad/suite/ziosoft/ziovision/202005 

心臓超音波検査

https://www.kango-roo.com/learning/3643/ 

Cardiac MR Imaging─シーメンスの技術動向

https://www.innervision.co.jp/sp/ad/suite/siemens/technical_notes/150418 

逆リモデリングにまつわる臨床研究からの話題

https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/44/2/44_211/_pdf 

左室リモデリングの評価と対策

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcoron/18/3/18_18.027/_pdf

Sponsored Link




この記事を書いた人